砲熕武器概説 |
次の項目及び順序で説明します。
1 | 「砲」の一般的な構造 |
2 | 「砲身」の一般的な構造 |
3 | 「砲尾環」の一般的な構造 |
4 | 「尾栓」の一般的な構造 |
5 | 「砲鞍」の一般的な構造 |
(注): 砲熕武器に関する名称及び用語は、旧海軍/海上自衛隊と旧陸軍/陸上自衛隊とではかなり異なります。 本HPでは全て旧海軍及び海上自衛隊のものを使用し、旧陸軍及び陸上自衛隊のものは使用しませんので、後者に慣れておられる方は混乱しないようにご注意下さい。
(一例)
旧海軍 ・ 海上自衛隊 | 旧陸軍 ・ 陸上自衛隊 |
旋 条 | 腔 線 |
尾 栓 | 閉鎖機 |
砲 鞍 | 揺 架 |
架構(砲架及び礎台) | 上部砲架 |
砲 座 | 下部砲架 |
推進装置 | 復座装置 |
導 環 | 弾 帯 |
弾 体 | 弾 殻 |
左の図は、操縦装置や砲側照準装置などがない、最もシンプルな状態での一般構造の略図です。 この図は、私が幹部候補生の時に受けた「射撃」の教務でのテキストにあったものです。 当時は海上自衛隊でもまだ藁半紙にガリ版刷りのこんな図で講義していました。 (現在ではもっとましな図と印刷だと思いますが、まさか何十年も経ってこのままでは・・・?) |
私のHPを見にきて下さる皆さん方は、もちろんこんなものでは満足されないでしょうから、もう少し詳しいものでご説明します。
以下のものは、典型的な例として一応米海軍で第2次大戦中に幅広く使用された5インチ/38口径の単装砲をイメージに作図していますが、基本的な構造は他の砲でもほとんど大同小異です。
1.砲身(Barrel)です。当然のことながら砲を構成するものの中では最も重要なものです。 2.薬莢タイプを使用する砲の場合、砲身の後部に砲尾環(尾栓室、Housing)が接続します。 3.砲尾環には尾栓装置(Breech Mechanism)が含まれます。 尾栓の型式はスライド(鎖栓)式又は螺式です。 |
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4.大口径砲などの薬嚢タイプの発射薬を使用する砲では、砲尾環(Yoke)の尾栓装置には螺式の尾栓が用いられます。 |
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5.砲身、砲尾環及び駐退推進装置を支えるのが砲鞍です。 また、自動又は半自動の装填装置を有する砲では、この砲鞍にその一部又は前部が装備されます。 6.砲鞍の両側には、この砲の俯仰の支点となる砲耳軸があります。 |
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7〜8.砲鞍の砲耳軸が、砲架(Upper Carriage)の砲耳軸軸受の上に乗ります。 9.砲の上下に作動する部分(砲身、砲尾環、砲鞍、駐退推進装置)は、全てこの砲架によって支えられます。 |
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10.砲架は礎台(Lower Carriage)の上に載せられています。 また、この礎台には砲の俯仰及び砲架の旋回を受け持つ動力操縦装置などが装備されています。 なお、砲架と礎台を併せて架構と言います。 |
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11.礎台は、下部礎輪(旋回盤)と砲座の間に装備された垂直及び水平のローラーベアリング及びローラーパスに乗ります。 13.砲座は船体構造にボルトで固定されています。 |
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11.(上の図の部分拡大図です。) 12.水平ローラーベアリングは上下のローラーパスの間に置かれています。 このローラーパス面が砲の旋回・俯仰の基準(甲板面)となり、艦砲射撃においては重要な意味を持ちます。 14.ホールドダウン・クリップは砲座及び架構を保持し、発砲や艦の動揺によって架構がガタガタしないようにしています。 |
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組立完成 !!! |
(注): 具体的な個々の砲の構造、構成については、「旧海軍の砲術」及び「米海軍の艦砲射撃」の中の当該項目を見て下さい。
艦載砲の薬嚢を使用する型式の砲身の、最も基本的な構造を下図に示します。
Muzzle Bell Neck Chase Slide Cylinder Rear Cylinder Bore Chamber Breech Plug Yoke |
: 砲 口 : : : 傾斜部 : 滑動部 : : 砲 腔 : 薬 室 : 尾 栓 : 尾栓室 |
砲の長さを表す用語に「口径長」と言うのがありますが、この「口径長」は、尾栓の前面から砲口までの長さを砲の口径で割った値のことで、砲弾の威力や射程を示す一つの指針になります。 口径長はほぼ上図に示す砲中の長さに薬室長を加えた値になりますが、厳密には異なります。
艦載砲の中〜大口径砲の一般的な構造は、いわゆる積層砲(層成砲身)になっており、下図にその概略の一例を示します。
米海軍の古い教科書のもので、各部の名称が英語表記のままにしてあります。 ここでは砲身の構造についての概略のイメージをつかんで頂くことにして、日本語の名称は省略します。
砲尾の部分のもう少し詳しいものは、左の図のとおりです。 砲尾から薬室を通って砲中までが単なる“筒”ではなくて、複雑な構造をしていることを理解して下さい。 (注): 何故か導環を示す矢印の位置が違っています。 もう少し後ですね。 |
下図の左は、米海軍の8インチ砲の旋条を砲口側から見たものです。 下図の右はその旋条を図示したもので、ここにも示されているように、砲の「口径」とは旋条の山(Land)の砲内内径を意味します。
(注): したがって、例えば「大和」の46糎砲とはこの内径のことですから、当然のことながらその砲弾の弾体の直径は46糎より僅かに小さい値ですし、また逆にその砲弾の導環部の直径は46糎より大きく、かつ旋条の谷(Groove)の内径より僅かに小さい値になります。
既1.項で述べたとおり、米海軍では砲尾環はその形からも、スライド式尾栓を有するものを「Housing」、また螺式尾栓を有するものを「Yoke」と呼んでいます。
下に、スライド式尾栓の砲尾環の場合の砲身と砲尾環との結合部の例を示します。 砲身と砲尾環との結合方法はいくつかありますが、この図は隔螺式のねじ込み式で小〜中口径の速射砲に多く見られます。
次に螺式尾栓を使用する尾栓環(Yoke)の例として、米海軍の16インチ/50口径砲を示します。
尾栓装置は尾栓とその開閉を行う閉鎖機(尾栓開閉装置)、及び発火装置などで構成されています。
尾栓はその型式として、スライド(鎖栓)式と螺式の2つがあり、それによって閉鎖機の構造も大きく異なっています。 スライド式は、小〜中口径砲の速射砲に多く用いられる型式で、螺式は、中〜大口径砲に用いられます。
(1) 螺 式
螺式の尾栓の代表的な構造の一例を下図に示します。 細かいことはともかく、尾栓と砲尾環の尾栓室との間から装薬の燃焼ガスが漏れないよう密封するための工夫がなされていることを理解して下さい。
下図は、螺式の尾栓を有する大口径砲の一例として、米海軍の14インチ砲の尾栓装置の構造とその作動状況を示します。
ア.尾栓開放中 | イ.尾栓移動中 | |
ウ.尾栓挿入(未旋回) | エ.尾栓完全閉鎖(旋回完了) |
(2)スライド式
下図は、スライド式の尾栓装置の一例です。
スライド式は、自動式又は半自動式の装填装置を有する小〜中口径砲に見られます。 装薬に薬莢を使用する固定弾薬及び半固定弾薬の装填に便利なようになっていますが、構造的に大口径、大砲内圧の砲、特に薬嚢を使用するものには向きません。
なお、スライド式には上下にスライドする方式と左右にスライドする方式がありますが、どちらも機能的には同じです。
(3) 発火装置
スライド式にしても螺式にしても、尾栓装置の役割の第1は弾丸の発射のために高圧ガスを生成する装薬(発射薬)の爆燃のための密閉区画を作ることですが、その第2がその密閉完了後に装薬に点火することです。 この装薬に点火する装置が発火装置(Firing Mechanism)と呼ばれるもので、尾栓に装備されています。
下図は、左がその概念で、右が具体的な米海軍の3インチ/50口径砲の例です。
次の「3.弾火薬」の項で説明してありますが、装薬に点火する火管(Primer)には撃発式と電気式(又はその両方の機能を持つ複合式)があります。 したがって、発火装置もそれに応じたものが必要です。
下図に、一例として米海軍の5インチ/38口径砲に使用されている発火装置を示します。
図でお解りのように、この発火装置は撃発式と電気式の両方を有していますが、砲のそのものの機能としては電気式の方が常用で、撃発式は電気式で不発となった場合の予備(補用)です。
砲鞍の基本的な役割は、次の3つです。
(1) 砲身及び砲尾環を支えるとともに、砲尾軸によって砲の俯仰の支点とする。 (2) 駐退推進装置を備え、発砲による砲身及び砲尾環の後退エネルギーを吸収するとともに、これを準備位置まで戻す。 (3) 尾栓装置と連携して、砲弾の装填や発火のための関連機器を装備する。 |
下は、米海軍の5インチ/38口径砲をイメージした砲鞍の概念図で、スライド式尾栓を使用する場合の砲鞍の例です。 砲身及び尾栓環は、左が通常の位置の状態(前進位置)で、右が発砲により駐退した状態(後退位置)を示します。
駐退推進装置は、駐退装置(Recoil System)と推進装置(Counter-Recoil System)の2つよりなります。 駐退装置は、発砲による砲の後退エネルギーを吸収するためのもので、通常油圧又は水圧のシリンダー・ピストンが用いられます。 推進装置は、砲の後退エネルギーの吸収を補助するとともに、後退した砲を通常の位置(前進位置)まで完全に戻すためのもので、装薬の燃焼ガスの背圧を利用するものや、バネ(スプリング・コイル)を用いるものが多く見られます。 |
最終更新 : 09/Jul/2005