弾 火 薬 |
次の項目及び順序で説明します。
1 | 弾薬の種類 |
2 | 弾薬の構造 |
3 | 弾 丸 |
4 | 火 管 |
5 | 信 管 |
(1) 弾丸と装薬との構成方法による分類
弾薬は、弾丸と装薬との構成方法によって、次のような型式に区別されます。
分離弾薬 | 装薬は薬嚢と呼ばれる袋に詰められ、これを1〜数個使用して弾丸を発射します。 大口径砲に多く用いられる型式です。 |
固定弾薬 | 装薬が詰められた薬莢の先端に弾丸を挿入し、装薬と弾丸とを完全な一体型としたもの。 小〜中口径砲、特に速射砲や機関砲に多く用いられる型式です。 |
半固定弾薬 | 装薬を詰めた薬莢を使用しますが、弾火薬庫への格納及び砲への装填は弾薬とは別々に扱います。 中口径砲に多く用いられる型式です。 |
左図に米海軍の古い教科書から大口径砲用から小口径砲用までの弾薬の一例を示し、弾丸とその装薬(発射薬)の形態の違いによる分類を説明します。 A は16インチ砲弾の例で、装薬(発射薬)は薬嚢(Bag)を使用する分離弾薬です。 砲への装填は、弾丸(Projectile)に引き続いて薬嚢を5〜6個を1組として行い、尾栓に装着される火管(Primer)によって点火されます。 B は5インチ砲弾の例で、装薬に薬莢(Cartridge Case)を使用しますが、弾火薬庫への格納及び砲への装填は別々に行う半固定弾薬です。 薬莢を使用するものは、次のタイプも含めて、火管は初めから薬莢の後端に装着されているのが普通です。 C は3インチ砲弾の例で、同じく装薬に薬莢を使用しますが、初めから砲弾と一体化された固定弾薬です。 Dは20ミリ機銃弾の例で、Cと同じく固定弾薬です。 右の図から、分離式、半固定式及び固定式の違いは、主として弾薬の大きさ(重量)による操作・取扱上の理由から来ていることがお解りいただけると思います。 |
(2) 弾薬の用途による種類
弾薬の用途による種類は、各国海軍でも、また砲種によっても異なりかなり多種多様ですが、近代の艦載砲における代表的なものとしては概ね次のようなものがあります。
徹甲弾 |
通常弾/対空通常弾 |
高勢弾/猛勢弾 |
照明弾 |
煙 弾 |
演習弾/対空演習弾 |
それぞれの用途及び構造については、「3.弾丸」の項で説明します。
(1) 固定弾薬
左図に、固定弾薬の構造の例として、米海軍の40mm機関砲の砲弾を示します。 弾丸は猛勢弾(HE、High Explosive)で、頭部に着発信管、弾底部に曳光付自爆信管が付いており、炸薬は鋳造のTNTを使用しています。 弾丸は固定式の場合、通常導環の下端までが薬莢に挿入されています。 装薬(発射薬)は無煙火薬が使用されていますが、図に見られるように装薬と弾底部との間には空間がとられているのが普通です。 これは、装薬に点火された際に燃焼ガスを一時溜めて、弾丸が動き始める起動圧になる前に有る程度のガス容量になるようにするためです。 火管は小口径砲、特に機関砲(銃)の場合は、装薬への点火の確実性を期すために撃発火管が使用されるのが普通です。 中口径砲では撃発式と電気式との複合火管が使用されるのが普通です。 |
(2)半固定式弾薬
左図に、半固定弾薬の構造の例として、米海軍の5インチ/38口径砲の砲弾を示します。 弾丸は対空通常弾(AAC、Anti-Aricraft Common)で、弾頭部には時限信管、弾底部に着発信管が付いており、炸薬にはD爆薬(Explosive "D")が使用されています。 装薬には無煙火薬が使用されていますが、固定弾薬の場合と同じ理由により、薬莢中の装薬の上部には空間が取られているのが普通です。 火管は撃発式と電気式の複合火管が使用されるのが普通です。 |
(3)分離式弾薬
左図に、分離弾薬の例として、米海軍の16インチ/50口径砲の薬嚢(Bag)を示します。 弾丸については、次の弾丸の項を参照して下さい。 薬嚢は、弾丸1発の発射に通常(常装薬)で4〜6個使用され、必要に応じてこの数は多くしたり(強装薬)、少なくしたり(弱装薬)することができます。 薬嚢は通常布製で、中には薬粒(Powder Grain)が縦に隙間無く詰められており、また薬嚢の後端(底部)には点火薬が装着されて、燃焼の均一性を保つようにされています。 薬嚢を使用するタイプの砲の場合、火管は尾栓装置に装着します。 |
以下に代表的な型式について、それぞれの一例について概説します。
左図は、米海軍の3インチ砲用の徹甲弾(AP、Armor Piercing)の例です。 |
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左図は、米海軍の3インチ砲用の通常弾(COM、Common)の例です。 |
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左図は、米海軍の5インチ砲用の高勢弾(HC、High Capacity)の例です。 |
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左図は、米海軍の5インチ砲用の照明弾(ILL、Illuminator)の例です。 |
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左図は、米海軍の5インチ砲用の煙弾(WP or SMOKE、White Phosophorous)の例です。 |
火管(Primer)は装薬を爆燃させるための点火装置です。 薬莢を用いるタイプでは初めから薬莢の底部に組み込まれており、また薬嚢を用いるタイプでは装薬装填時に別に尾栓装置に装着します。
装薬として代表的なものは無煙火薬ですが、これは露天で普通にそのまま火を着けただけではいわゆる“爆燃”はしないで、シュルシュルと言った感じで燃えます。 これを爆燃させるためには、容器に詰めた上で強力な点火剤を用いて一斉に火を着ける必要があります。
下に薬莢を使用するタイプの装薬への点火の流れを概念図で示します。
@ : 発火装置の打針により、火管の底部を打撃するか(撃発式)、電流を流します(電気式)。
A : 火管の雷管を起爆させるか(撃発式)、フィラメントを加熱します(電気式)。
B : 火管の導火薬に点火します。
C : 火管の伝火薬に点火します。
D : 薬莢内の装薬に点火します。
E : 装薬の燃焼ガス圧により弾丸を前進させます。
火管の種類には、発火させる手段によって撃発火管と電気火管、そしてこの両方の機能を有する複合火管の3つがあります。
撃発火管は、発射速度の高い機銃及び小口径砲の速射砲で多く用いられます。 これは装薬への点火の確実性を確保するためです。 下図に薬莢タイプに使用する撃発火管の構造の一例を示します。
電気火管は、引金を引いてから装薬に点火するまでの所要時間が撃発式より短いのが特徴ですが、撃発式に比べて点火の確実性が劣る欠点があります。
米海軍資料によれば、電気式に対して撃発式は約0.2秒の遅れが生じるとされています。
したがって、電気式だけで用いられることは少なく、撃発式とを併せた複合式の火管を用いるか、あるいはその両方が使用できる尾栓装置になっているのが普通です。 特に、大〜中口径砲では、ほとんどが電気式を主用とし、撃発式は補用(予備)となっています。
構造は、撃発火管が発火装置の打針で火管底部の雷管をたたくのに対して、電気火管の場合は、左図のように打針から火管底部に電流を流して火管内のフィラメントを加熱する方式になっています。 |
下図に複合火管の一例として、薬嚢砲用のものを示します。
(1)装着位置による区分
信管は、弾丸を破裂させるための一種の起爆装置で、弾丸に装着する位置によって、弾頭信管と弾底信管の2つの型式に区分されます。
弾頭又は弾底の何れか一方しか有しないものもありますが、弾頭を主用、弾底を補用として両方の信管を有するものもあります。
(2) 作動形態による区分
信管はその作動形態によって、大きくは次の3つの型式があります。
着発信管 | 物体にぶつかった衝撃で起爆 |
時限信管 | 発射後、発射前に予め設定した時間経過後に起爆 |
近接信管 | 物体にある距離以内に近づいたときに起爆 |
なお、着発信管の一種(変形)で、物にぶつかった後一定時間経過後に作動する遅延信管というものもあります。 これは徹甲弾用の信管に多く見られます。
ア.着発信管
左図は弾頭用の着発信管(Point Detonating Fuze)の一例です。 左側が安全解除前の状態で、弾着時に撃針(Firing Pin)が上部の第1起爆薬(Detonator)を起爆させても、それが安全子(Interrupter)によって下部の第2起爆薬に伝わらないようになっています。 弾丸が発射されると、旋条により弾丸が旋転し、これによる遠心力によって安全子がバネの力に対抗して外側に移動します。 これによって右側のような安全解除の状態となります。 この状態で弾着すると、第1起爆薬の起爆が第2起爆薬に伝わってこれを起爆させ、これによって弾丸の炸薬を起爆させます。 |
イ.時限信管
左図は時限信管(Mechanicak Time Fuze)の作動機構の一例です。 時限信管の構造は、機械的な、いわゆる“時計仕掛け”のものがほとんどです。 時限信管は、弾丸の発射前に所要の時間(信管秒時)に応じた角度だけ時計盤(Timing Disk)がずらされます。 これは手動あるいは機構的になされます。 弾丸が発射されると、時計機構が発動されて時計盤が回転を初め、所定の秒時を経過すると時計盤の切り掛けに時計盤レバーがはまり、これによって撃針の保持機構が解除されます。 撃針はバネ仕掛けによって起爆薬をたたいて起爆させ、これを弾丸の炸薬に伝えて起爆させます。 時限信管の機構はものによって様々ですが、基本的な作動の原理はだいたいどれも似たり寄ったりです。 |
ウ.近接信管
近接信管(Variable Tine Fuze)はその名のとおり、一定の距離以内に物体に近づくと起爆するようになっている信管です。 現代でもその多くは電波(電磁波)を使用しています。 簡単なレーダーが付いていると思っていただければ良いでしょう。 左図に米海軍の古い近接信管の構造の例を示しますが、その機構・作動については本項では省略します。 日本海軍は太平洋戦争終結までに遂にこれを実用化できませんでしたが、米海軍では昭和17年に実用化に成功して直ちに量産体制に入りました。 その結果がどうなったかは皆さんよくご存じのとおりです。 |
(注): 旧海軍の弾火薬について、具体的な個々のものについての詳細は、「旧海軍の砲術」の中で解説しますので、そちらをご覧下さい。
最終更新 : 29/Jun/2005