レーダー(電波探信儀) |
レーダー(電波探信儀)について簡単にご説明していきたいと思いますが、従来市販の関係図書などは理論や細かい構造などに囚われすぎて、肝心な特徴や能力に関係する“おいしい”ところの解説がほとんど無かったように思われます。
その最大の理由は、そのほとんどがいわゆる“技術屋(エンジニア)”の手になるもので、“使う側”に立った記述が極めて少ないことが挙げられます。
本項では、難しい理論などは極力省略して、レーダーを使う側の観点から、その特徴や能力に関する主要な部分の内の最小限のものをピックアップして、次の項目及び順序でご説明します。
1 | レーダー(電波探信儀)とは |
2 | レーダーの基本構成 |
3 | 使用周波数と探知能力 |
4 | 指示器の表示方式 |
5 | 送信パルスと探知能力 |
6 | 送信ビームと探知能力 |
7 | アンテナ形状とレーダーのタイプ |
8 | レーダーと艦砲射撃 |
太平洋戦争当時のレーダーを理解する上での最小限の範囲に絞っていますので、もしレーダーについて“こんなことが判らない”“これについての説明が欲しい”というご意見・ご要望がありましたらお知らせ下さい。 本項の内容修正や項目の追加を考えたいと思います。
ここに来て下さる皆さんにはレーダー(Radar)とは何かをご存じない方はおられないと思いますが、RADAR とは「 RAdio Detecting And Ranging 」の略で、その名のとおり電波を利用して物体を探知し、距離を測る装置のことです。
旧海軍では 電波探信儀 と言い、 電探装置 あるいは単に 電探 などとも呼んでいました。
その原理は、一般書籍でも良く引用されるように、下図のやまびこ(こだま)やコウモリの場合と全く同じです。
やまびこは音声(音波)、コウモリは超音波ですから、どちらでも普通の状態での音速(伝搬速度)は1秒間に約343mです。 声を発して帰ってくるまでの(往復)時間を計って、その1/2にこの秒速をかければ、音波を反射する物体までの距離が判ることになります。
レーダーがやまびこやコウモリの場合と異なるのは電波(電磁波)を用いることです。 したがって、伝搬速度は光と同じで、3x108 m/秒であり、かつ周波数が非常に高いことになります。
しかし電磁波が光波と異なる点は、周波数の違いは勿論ですが、光波は直進するのに対して、電磁波は下図のように地球の表面に沿って幾分屈折することです。
したがって、人間の目で見える視水平線とレーダー水平線とは異なることになります。 つまり、視水平線の下にあって肉眼では見えなくても、レーダーでは探知できる領域があると言うことです。 ただしこのレーダー波の屈折は大気の状況によって変わってきますので、正確に求めるには複雑な計算を要します。
因みに、目標が水平線より遠くにある場合、この目標の高さ(高度)によって、どれだけの距離で視認又はレーダーで探知できるのか(=視水平線又はレーダー水平線の上に出るのか)と言うと、その概略計算式は次のとおりです。
視認の場合 | : Rv(mile) | = 1.15 x (√ho(ft) +√ht(ft)) |
レーダー探知の場合 | : Rr(mile) | = 1.23 x (√ho(ft) +√ht(ft)) |
ここで、Rv及びRrは水平線上の最大探知距離、ho は水面からの眼高又はレーダーアンテナ高、ht は目標の高度又は高さ、です。
例えば、アンテナ高が水面上81フィート(≒27m)の場合、レーダー水平線は約11.1マイル(≒20.6km)であり、また高度3000フィート(≒1000m)で近接してくる航空機は最大でも約78.7マイル(≒146km)でしか探知できないことになります。
勿論これは物理的にであって、実際にはそのレーダーの受信器の性能や目標の大きさなどによってはこれより近距離でしか探知できません。
レーダーの極めて一般的な構成をブロック図で表しますと、下図のようになります。
(1) 同期信号発生器(Modulation Generator) : レーダーが出す電波の周波数や送信するタイミングなどの基準信号を作るところで、この信号は送信器と受信器、指示器の同期を取るためにも使われます。 (2) 送信器(Transmitter) : 同期信号発生器で作られた基準信号に基づいて送信するパルスを作り、それを必要な電力にまで増幅します。 (3) 送受切換器(Duplexer) : 送信パルスを出す時のみアンテナを送信器側に接続し、それ以外の時には受信器側に接続するようにする、いわゆる“切換スイッチ”です。 (注) : 旧海軍では初期のものではこの送受切換器を作れませんでしたので、下図のように、送信用のアンテナと受信用のアンテナとをそれぞれ別に持つ必要がありました。 (4) アンテナ(Antenna) : 送信器で作られた送信パルスを整形してどの様なレーダー波(パターン)で出すかを決めると共に、目標から帰ってくる微弱な電力を効率よく受信するために極めて重要なもので、これによってそのレーダー装置の特性・性能を特徴付けるものです。 したがって、このアンテナについては、後で項を改めてご説明します。 (5) 受信器(Reciever) : 送信する電波に比べると遙かに微弱な目標からの反射波(エコー、Echo )を様々な雑音の中から検出するところで、ここの善し悪しがそのレーダーの探知能力を決めてしまうと言っても過言ではありません。 (6) 指示器(Indicator) : 受信器で処理した受信信号を処理した結果を表示するところで、今日で言うところのマン・マシン・インターフェイスとして重要な役割を果たします。 表示の仕方はそのレーダーの用途や使い方によって色々種類がありますので、これも後で項を改めてご説明します。 |
1.項でやまびことコウモリの例を出しましたが、これらは音声(可聴波)及び超音波でしたが、それではレーダーが用いる電波(電磁波)はどれくらいの周波数のものを使用するのかと言いますと、下図の赤丸で示した範囲が代表的なところです。
この赤丸の範囲をもう少し具体的に表にすると次のとおりです。
この表の右側に「用途」としてレーダーで一般的に使用される種別を示していますが、周波数との、逆の言い方をすれば波長との関係に注目して下さい。
即ち、レーダーにおいては、周波数が低い(=波長が長い)ほど、高電力の送信パルスを作りやすく、大気中の伝搬ロス(=減衰)が小さくて遠距離向きですが、逆に細かいところを見分ける解像度が悪くなります。 したがって用途としては“目標が存在するかしないか”を見分けることを主目的とする早期警戒レーダーや遠距離の捜索レーダー向きとなります。
反対に周波数が高い(=周波数が短い)ほど、高出力のものは難しくなり、かつ伝搬ロス(=減衰)が大きくなるため近距離向きですが、逆に解像度が良好となり、用途としては近距離の沿岸用航海レーダーや射撃用レーダーなどに向きます。
ただし、これらのことは現在の技術レベルからすることであって、レーダーが誕生したばかりの 第2次大戦中においては、当初はメートル波(=VHF帯)に始まって終戦までに順次センチメートル波(=UHF〜SHF帯)に 開発が進んできた状況で、それは如何に短い波長のものにして解像度、即ち目標の映り具合の正確度を高めるか、という競争であったとも言えます。
そして、上の図で言えばメートル波を使用したものは長距離捜索用ですが、当時は受信器の信号処理能力が低かったために、今日で言えば近距離に相当する探知能力しか発揮できませんでした。
レーダーの指示器(スコープ)の表示方式には多くの形式がありますが、ここでは第2次大戦中に艦艇において使用された代表的なものをご説明します。
レーダーが開発された当初からある、表示方式では最も基本的なものです。 表示は、横軸が距離、縦軸が受信信号強度を示します。 横軸の最左端がスタート・パルス表示で、ここが距離0です。 横軸の右端は、その時に選択している距離範囲です。 距離範囲は、例えば8、16、32・・・マイルなどと言うように固定レンジをスイッチ切換で選択するものがほとんどで、しかもどの距離範囲を選択しても、最左端は常に距離“0”です。 距離はスコープ上の横軸に沿って動く“カーソル”という輝点表示の位置で測ります。 方位データはありませんので、その時のアンテナの向きを示す別の指示器などが必要になります。 しかしながら、距離 0(自艦位置)から捜索範囲までの間のレーダー・エコーの状況がよく判りますので、現在でも射撃用レーダー等では有益な表示方式です。 |
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上のAスコープに似ていて、表示は横軸が距離、縦軸が受信信号強度ですが、Aスコープと異なりある特定の距離の付近を拡大表示するものです。 したがって、表示される距離の範囲は狭いですが、目標付近のレーダー・エコーの状況を精密に観察することが可能ですから、一度探知した目標を継続して測定するのに便利です。 通常はAスコープとの組み合わせで使用され、これ単独で使われることはありません。 Aスコープ表示でカーソルの位置を中心にRスコープ表示になるようにスイッチで切り替えるようになっているか、もう一つ別のスコープ用専用の表示器を装備してAスコープと連動させるかのどちらかが一般的です。 |
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横軸はレーダーアンテナの向き(角度)、縦軸が距離を表示します。 横軸はアンテナを取り付けてある方位盤などの向きが中心で、左右はアンテナそのもの、又はレーダービームを振る角度です。 例えば、米海軍の射撃用レーダーのMk−8やMk−13の様に、自動追尾の代わりにアンテナを左右狭い範囲で迅速に振って目標を追尾するようなものに使用されます。 距離は、最下端が距離 0で、レンジマークと呼ばれる一種のカーソルを手動で動かして測定します。 |
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この表示方式は、Aスコープの変形バージョンです。 左下のスタートパルスに始まって時計回りにほぼ1周で距離を表し、外方向が受信信号の強度です。 Aスコープと同じですから、方位データは得られませんので、これについては別の入手手段が必要です。 基本的にはAスコープの距離表示を拡大したものと考えて頂ければ良いでしょう。 |
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捜索用レーダーの表示形式として最も代表的なもので、レーダー表示といればこれと言われるくらい有名なものです。 スコープの中心がアンテナ位置(=自艦)で、そこから外周への長さが距離を表示します。 方位は、スコープの真上が真北(ジャイロ信号による絶対方位)か、あるいは自艦の艦首方位(相対方位)です。 カーソルを動かすことによって、その位置の方位と距離の2つのデータが同時に得られます。 アンテナの回転に伴って全周の状況が表示されますから、捜索・早期警戒用レーダーの表示形式として最も適しているといえます。 ただし、表示される受信信号はその強さに応じた輝点の大きさと明るさですから、受信信号波形は見ることができないないので、射撃用レーダーの様に目標の精密な測定を必要とするものには適しません。 ご存じのとおり、旧海軍は終戦までこのPPI表示装置を開発できませんでした。 したがって、このPPI表示とアンテナの自動全周旋回機能との欠落は、捜索用レーダーを活用した捜索及び早期警戒といった方面では1歩も2歩も米海軍に遅れを採ったことは確かです。 |
(1) レーダーの送信波
レーダーが発信するレーダー波は、CW(連続波)レーダーなどの特殊なものを除き、基本的には次のように使用するレーダー周波数の電波で形作られるパルス波です。 τ がパルス幅、A の2倍が振幅、T がパルス間隔(又は、パルス繰返周期)です。 パルス間隔の逆数、つまり1秒間に何回パルスを出すかをパルス繰返周波数(PPS)と言います。
また、パルス幅とパルス間隔との比率(=τ/T)を デューティ・サイクル(duty-cycle)と言います。
(2) パルス間隔
レーダーでは、このパルスを送信し、目標に反射して再びアンテナに戻ってくるまでの時間を測定して距離を割り出します。
したがって、通常のレーダーの最大探知距離はどんなに長くても、パルスを1回送信してから次に送信するまでの、このパルス間隔(T)からパルス幅(τ)を引いた残りの時間の1/2に相当する距離に限定されます。
例えば、パルス間隔を1ms(=パルス繰返周波数 1000)の場合、3 x 108 x 0.001/2=150000m(=150km)が物理的な最大探知距離になります。
Aスコープ表示で示しますと次のような感じになります。
(3) パルス幅と振幅
レーダーパルスの強さはパルス幅と振幅の乗数(2A x τ)で表されます。 この値が大きければ大きいほど送信する電力の強いものになりますから、より遠距離で、より小さい目標を探知出来ることになります。
しかしながら、余りパルス幅が大きいとレーダーエコー(受信信号)の解像度が悪くなります。 つまり、パルス幅の1/2以内の距離に2つ以上の目標が存在する場合には1つのエコーとしてしか受信できません。
下の左の図では、目標1と目標2の反射エコーは2つの目標ビデオとして分離してスコープに表示され、また目標3は写りません。 しかし、右の図のパルスの場合には、目標1、2、3の3つの反射エコ−が重なって1つの目標ビデオとしてしか表示されません。
例えばパルス幅(τ)が5μsの場合、3 x 108 x 0.000005/2=750(m)以内では2つの目標があってもレーダースコープ上は1つの目標として表示されます。 これを 距離分解能 と言い、それぞれのレーダーの特性・能力を示す重要な要素の一つです。
また、例え1つの目標の場合でも、スコープ上には上の例では1500m幅のビデオ映像として表示されることになることに注意する必要があります。 即ち、目標の奥行きが10mであっても、スコープ上の目標ビデオはパルス幅分の奥行きとして表示されると言うことです。
目標の状況によってAスコープ及びPPIスコープ上でどの様に映像が映るかの例を下に示しますので、それぞれの表示方式での特徴と合わせ、このパルス幅の問題を理解して下さい。
したがって、目標が存在するのかしないのかを知ることが最も重要な捜索用や早期警戒用のレーダーでは強いパルスを要求されますので、比較的このパルス幅が大きく、逆に目標の正確な距離や数の判別を要求される射撃用レーダーでは、比較的このパルス幅が小さい、即ち鋭いパルスを使用することがお判りいただけると思います。
アンテナから送信されるレーダー波は、次の7.項でご説明するアンテナの形状によって決まってくるローブ(robe)というものを形成します。 このローブは下図の左の様にレーダー波の電力がアンテナからの出力の1/2となる点を結んだもので、その最大角度となる値を ビーム幅 と言います。 このビーム幅は右の図のように横方向と縦方向とで表し、それぞれのレーダーが有する特質・性能を示す重要な要素の一つとなります。
ローブ(レーダービーム)の形状は、4.項でもご説明しました様に、使用するアンテナの型式で基本的に決まってきまが、ここで注意しなければならないのは、パルス幅の項でご説明しましたことと同じように、等距離にある複数の目標でもこのローブの内側に存在すると、それはレーダースコープ上では1つの目標ビデオとしか表示されません。
これを 方位分解能 と言い、これもそれぞれのレーダーの特性・能力を示す重要な要素の一つです。 方位分解能は、実際にはビーム幅の1〜1.5倍の角度となります。 概念的に示すと下図のようになりますので、このことを理解して下さい。
このローブ(ビーム幅)の問題から、例えば全周旋回の水上捜索レーダーの映像をPPI表示する場合で見てみると、下左図の様な陸地や艦船などの場合、これらの物体からのレーダー反射波は、中図の灰色で着色した部分として得られます。 そしてこれがPPI画面上では、右図の白色の部分がビデオ信号として輝いて見えることになります。
これらのことからも、レーダーの映像というのは、実物を人間の目で見るのとはかなり異なった状態・形状となり、その判別には相当の知識と熟練を要することがお判りいただけると思います。
それでは、ご参考までに太平洋戦争当時の実際のレーダーのPPI表示の例をお目にかけます。 下の2枚の写真は、昭和18年3月6日(日本時間5日)のクラ湾夜戦で「村雨」「峯雲」が一方的にやられた時に米海軍の「デンバー」がSGレーダーの画面を撮したとされているものです。
勿論、このレーダー画面では状況がよく判りません。 当時、米海軍側は南下の針路で、「デンバー」は巡洋艦3隻の殿艦、後には駆逐艦「コニー」のみのはずでした。
そして、例え日本艦が判別できたとしても、このPPI画面で方位と距離を測っただけでは“レーダー射撃”などできるわけがないことは、もうここまで読み進まれた方にはお判りいただけると思います。
ただし、作戦・戦術(=部隊運用・運動)的には、これだけの情報が得られると得られないとでは雲泥の差になってきますから、あとはその利点をいかに砲戦や魚雷戦に結びつけるかという点になることに注意して下さい。
レーダーのアンテナの形状というものは、そのレーダーが使用する電波の周波数や、このアンテナで形成されるローブ(レーダービーム)の形に密接に関係しています。
したがって、アンテナの形状を見るだけでこれらの大凡が判別でき、したがって、そのレーダーの用途も判ることになります。
レーダーが開発された当初に使用された代表的なアンテナの型式です。 波長が比較的長いことからダイポールアンテナを使用しており、このため送信するレーダービームは幅の広いものとなります。 したがって、長距離の捜索用や早期警戒用のレーダーに多く使用され、このためアンテナも大型のものが多く見られます。 この型式のアンテナを用いているものは、米海軍のSK、SCレーダーや、旧海軍の2号1型電波探信儀などがその代表です。 |
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今日でも航海用や水上捜索用のレーダーに用いられる代表的な型式です。 波長が比較的短く、かつ反射器の形状からレーダービームは横に狭く、縦に広いのが特徴です。 この型式のアンテナを用いている初期のものは米海軍のSGレーダーなどがその代表で、太平洋戦争後は艦船のレーダーアンテナと言えばこの形が最も有名になりました。 |
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反射器にパラボラ形状を使用しており、このために縦及び横とも幅の狭いレーダービーム(ペンシルビーム)を作れることから、主として射撃用レーダーや航空機誘導用レーダーに用いられます。 また波長の短い(主としてXバンド)とアンテナの大きさそのものが小さくて良いので、射撃レーダーには最適とも言えます。 具体例としては、捜索用としてはSK−2レーダー、射撃用としてはGFCSMkー57装備のMk−34やGFCSMk−63装備のMk−28レーダーなどがありますが、射撃用レーダーの部隊配備は太平洋戦争終戦間際でしたので、実戦に間に合ったかどうかギリギリのところです。 |
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反射器の形状からも、レーダービームは横に狭く、縦に広いものであることはお判りいただけると思います。 米海軍の射撃用レーダーMk−3(FC)で用いられていましたが、横に並んだダイポールアンテナを使用し、1、3、5番・・・と2、4、6番・・・とで左右に角度の異なった2つのビームを交互に送信し、いわゆるローブ・スイッチングという手法を使って目標の方位精度を高めています。 ローブ・スイッチングとは、下図のように2つのビームでの受信感度に差がある時に、受信感度が等しくなる(両ビームの中間位置、即ちアンテナの中心線上になる)ようにアンテナを操作して動かすことにより、目標の正確な方位を得ようとするものです。 射撃指揮装置Mk−37に装備された射撃用レーダーMk−4(FD)やMk−12のアンテナも基本的にはこの形式です。 |
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ロッド・アンテナというものを採用したアンテナの型式で、レーダービームは横に狭く、縦に長いものですが、電子的にビームの向きを左右に迅速に変えることができ、上の型式よりも更に目標の方位精度を高めようとしたものです。 原理的には今日のフェイズド・アレイ・アンテナと同じように、出力されるレーダー波の位相を制御して総体的なビームの形の向きを変化させるもので、米海軍の射撃用レーダーMk−8で用いられました。 しかし、当時の技術では思った様には上手く行かなかったようです。 結局、すぐに次のMk−13ではビームを左右に振るのを機械的な手段で行うパラボリック形式に戻しました。 |
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最も単純なダイポールアンテナ1本を垂直に立てただけのアンテナ型式ですが、反射器がないので、レーダービームとしては無指向性(=全周)となり、レーダーそのもののアンテナとしては基本的に不向きです。その特性を活かしたIFF(敵味方識別装置)用に用いられました。 このアンテナ形式は、無指向性というその特性を活かした通信用や一部のIFF(敵味方識別装置)用に用いられます。 |
海戦とか艦砲射撃とかについて述べるときに、世の中にはどうも一種の“レーダー神話”の様なものがある気がしております。 つまり、太平洋戦争当時でも米軍は優れたレーダーを持っていたから日本海軍に海戦で勝てたとか、だから優れた艦砲射撃能力を持っていた、と言う様なレーダー万能・全能的なことが、堂々とまかり通り、平気で活字にもなっていることです。
一言で“レーダー”と言っても、それには用途に応じたいくつもの種類があり、また太平洋戦争当時はやっと実用化され始めたばかりであり、その能力も信頼性も、そしてそれを使う人間側のノウハウも、現在のレベルから見るならば、相当によちよち歩きだったという実態を認識する必要があると思います。
例えば、SGレーダーなどの様な水上捜索用レーダーは“レーダー射撃”をするためのものではありませんし、またそのような性能・能力を持っていないことは既にご理解頂けたと思います。
それらのレーダー神話の内、次の4点については事実を強調しておきたいと思います。
(1) 今日の射撃用レーダーが有するような、目標の“自動追尾”の機能・能力 を持ったものは、今次大戦期間中には実用化されなかった。
(2) 射撃用レーダーと言われるものでも、そのデーターが 射撃指揮装置に“自動入力” され、それを元に射撃計算をするようなものは、終戦間際まで実用化されなかった。
(3) 今日の射撃用レーダーで得られるような、そのまま 直ちに射撃に使用できるような精度 を持ったものは、今次大戦期間中には実用化されなかった。
(4) 装置としての信頼性が極めて低く、かつ頻繁に調整・整合を必要としたが、それでもカタログどおりの能力・性能を発揮できることは極めて少なかった。
皆さんの中には、例えば、(3)項では 「ソロモン海域での海戦などでは米海軍は夜戦でレーダーのみを使用した射撃を実施し、実際に命中しているではないか?」 というご反論をお持ちの方があろうかと思います。
これについては“命中率 0% という意味ではない”とお考え下さい。 また、ほとんどの場合は、距離データのみはレーダーで測ったものを利用しましたが、射撃の照準そのものは方位盤の光学照準で行っていました。
太平洋戦争における海戦の砲戦、魚雷戦などの能力分析については、行く行くは項を改めてご説明していきたいと思っています。
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最後に、ここまで読み進んでいただいたお礼に、米海軍の戦艦に搭載された射撃用レーダーMk−13のアンテナをご紹介します。 カバーの中の本体を示すものとしては 本邦初公開 と思います。
(注1): 旧海軍及び米海軍のレーダーについて、具体的な個々のものの詳細は、「旧海軍の砲術」及び「米海軍の砲術」の中で解説しますので、そちらをご覧下さい。
(注2): 本項のみは、史料庫収蔵史料の他に、次の文献を参考としています。 これらは何れもレーダー技術に関しては優れた内容のものであり、“技術的”な専門事項を勉強する方にはお勧めです。 現在では何れも新版が出ておりますが、ただし大変高価になっております。
『 Radar Handbook 』 (M.L.Skolnik,McGraw-Hill,1970)
『 Introduction to Radar Systems,8th-Ed 』 (M.L.Skolnik,McGraw-Hill,1985)
『 レーダー技術 』 (吉田孝監修、電気通信学会、1984)
最終更新 : 22/Mar/2006