健康情報分析学

概要

健康科学は従来の医学部に講座として存在していなかった,いわゆる学際領域の分野である.米国ではHealth Sciencesの語が多く使用されているが,これは 単一のものではなく,その中に基礎医学から社会医学までの広い分野を含んだものとなっている.健康科学(Health Science)とは,健康を左右する因子が遺伝的素因やライフスタイルや 社会経済状況といった多様な広い範囲に及ぶことを考慮して,学際的かつ科学的に健康の概念構築を行い,健康と疾病を区分する基準を科学的に決定することを目指す学問体系と位置付けている.また加えて,健康を維持し,増進するための方策を検討する実践の科学である.

健康情報分析学は前身である健康科学の理念を踏襲し,得られた知見を科学的・分析的に吟味し,経験的なものの考え方から脱却して科学的なものの考え方を目指している.

教授

佐藤 千史

研究・教育について

代替療法としてのヨーガ・プログラムの効果が検証されている。

栄養学では通常の講義形式の授業の他に栄養計算の演習を行っている.学生が1日に摂取した全ての食品をリストにし,3大栄養素,ミネラル,各種ビタミン,塩分,コレステロール等の摂取量計算を行う.食品成分表の扱いに慣れること,自分自身の栄養摂取状況を把握して過不足について興味を持つことが主眼である.また特別食の献立(各種制限食)を作成し,休暇中に実際に調理・試食して,その結果をレポートにまとめさせる.実践的な教育である.

病態学では病態学総論,内科学総論に始まり,内科学各論,外科学総論,胸部外科学,腹部外科学,肝胆膵外科学,脳神経外科学,眼科学,耳鼻科学について,看護職に必要と考えられる疾病に関する知識を,それぞれの専門分野の講師の協力を得て教授している.

 卒業論文に関しては研究とは何か,ということを修得することが目的なので,それぞれの発想を尊重してテーマを選択し,その問題を解決するための方法を学べるように配慮している.卒業後に臨床現場で問題に当ったときに,それをどのように解決したらよいのか,自分で解決できるような科学的思考法を身につけるように指導している.

大学院教育では,ゼミ形式の講義を毎週行っており,一流の英文誌の抄読を通じて健康に関する科学的知見がどのように構築されていくのかを検証している.また各自がパワーポイントを用いてそれぞれの研究テーマをプレゼンテーションする機会を設け,活発な討論を行っている. 研究テーマは研究室の構成員の研究テーマ・興味を尊重し,科学的な視点からの検討を主眼としている.主なものは健康をテーマにしたものであり,特定のライフステージにおける健康として妊産婦の健康についての研究があり,精神面における健康としてメンタルヘルスについての研究があり,最近は,健康増進の効果があるとはいわれているものの,科学的な検証がされていない代替療法に関する研究がある.

幹細胞の分子生物学的・細胞生物学的研究については東京大学,ハーバード大学との共同研究である.

業績1

Sakuma Y, et al. Effect of a home-based yoga program in child care workers; a randomized controlled trial. J Altern Compl Med (in pres)

近年,安価で広く実施可能で,有害事象の少ない代替療法が注目されている.ヨーガも古来よりの身体活動であるが,科学的に効果を実証した研究は少なく,専門家による長時間のプログラムを要し,日常的な実施が困難である.

 本研究では簡易ヨーガ・プログラムを作成し,腰痛などの身体的ストレスが多い保育士や幼稚園教諭123名を対象に2週間プログラムを施行,直後と2週間後の効果を検討した.介入群と対照群を1対2とした無作為化比較対照試験である.対象者の属性,身体機能,VASによる身体的疼痛(腰痛,頸・肩こり,月経痛),日本語版GHQ30を評価した.

 その結果,本プログラムは月経痛を軽減し,身体的疼痛の緩和や精神的健康状態にも良い影響を及ぼした.アドヒアランスの良い群では腰痛の改善がみられ,アドヒアランスが重要であった

業績2

Sasaki-Otomaru A, et al. Effect of regular gum chewing on levels of anxiety, mood, and fatigue in healthy young adults. Clin Pract Epidemiol Ment Hlth, 2011, 7(1):133-139.

咀嚼は体によいとされるが,動物での研究が多い.ガム咀嚼中はストレス軽減効果が示されているが,定期的に続けた場合の効果は不明である.本研究では14日間のガム咀嚼が心理と疲労に及ぼす影響について検討した.介入群と対照群を1対2とした無作為化比較対照試験である.

その結果,介入直後には,介入群の状態不安,POMSでは抑うつ,疲労,混乱が対照群より良好であった.しかし,4週後には2群間に有意差はなく,長期的効果はみられなかった.POMSの活気に変化がなく,ガム咀嚼はポジティブな気分を増すよりも,ネガティブな気分を軽減するようだ.

業績3

Moriguchi H, et al. A therapeutic method for the direct reprogramming of human liver cancer cells with only chemicals

Sci. Rep 2012 (2): 280 doi: 10.1038

ヒトの体細胞を直接的にプログラムし直すための,さまざまな方法が作り出されている.しかし,ヒト固形腫瘍細胞をプログラムし直して除去するための治療法は,まだ開発されていない.本研究では,薬剤によりヒトの固形腫瘍細胞をプログラムし直して除去する新たな治療法を開発した.この治療法は肝癌細胞を対象にしたものであるが、AKR1B10とレチノイドX受容体(RXR)を発現している,さまざまなヒトの固形腫瘍細胞に応用できる可能性がある.

健康情報分析学

教授:佐藤千史 

TEL: 03-5803-5335 FAX: 03-5803-0152

Email: c.sato.ns at tmd.ac.jp