逆行のエヴァンゲリオン 〜使徒逆転〜
第十話  ! ……アスカっ!

シンジが使徒シャムシェルを倒した後、ネルフでは次に現れる使徒サキエルに備えるため急いで対策を練っていた。
司令室ではゲンドウを筆頭とするネルフの主要人物達が顔を突き合わせて話し合っている。

「ふむ、確かにこの死海文書からも次の使徒が最後だと読み取れるな」

ゼーレの本部施設制圧の時、加持がこっそりと持ち帰った死海文書と周辺書類を見て、冬月はそうつぶやいた。

「この死海文書の内容も、逆行に合わせて書き換えられたんでしょうな」
「ああ、ゼーレの老人達もシナリオの改変に違和感を覚えていない様子だった」

加持が尋ねると、ゲンドウはそう断言した。

「次の使徒が、以前の世界と同じように初号機の暴走によって倒せる相手だと良いのですが……」
「使徒によって学習能力に個体差があるようですから、楽観はできません」

ミサトの意見に対してリツコは厳しい口調で反論した。
冬月はため息を吐き出してからつぶやく。

「そうなると、やはり戦力が初号機だけでは不安だな」
「弐号機、伍号機パイロットの容体は?」
「命に別状はありませんが、意識は戻っていません」

ゲンドウに尋ねられたリツコは沈痛な面持ちでそう答えた。
マリは心身ともに負担の掛かるビーストモードをエヴァとシンクロした状態で強制発動されたダメージからベッドに絶対安静にさせられていた。
しかしリツコが気になっているのはアスカの方だ。
使徒ラミエルのビームが強力だったとは言え、アスカに外傷は見られず、内臓の損傷も無かった。
それならばアスカは目が覚めていてもおかしくないはずだ。
今のアスカはまるで眠り姫のようだった。

「専属パイロットが回復しない場合は、レイと渚君が代わりに弐号機と伍号機に乗り込む事になりますが、戦力の低下は否めないかと」
「弐号機パイロットが目覚めないのであれば、初号機パイロットの士気にも関わるな」
「将来の娘さんの事ですから、司令が心配なさるのも解ります」
「私はそのような意味で言ったのではない……」

ミサトが茶化すとゲンドウは少し動揺した様子を見せた。
加持と冬月が声を上げて笑い、ミサトとリツコも加わり司令室には笑い声が響いた。

「我々は努力を怠らず、エヴァのパイロットを支える事に全力で尽くす、それで異存は無いな」

ゲンドウが会議を締め括ると、ミサト達はしっかりとうなずいた。

「結局出たとこ勝負って事ね」
「まあ、下手に先入観を持たない方がいいかもしれん」
「私もレイから聞いたサキエルの話に捕らわれないで、多角的に分析を行う事にするわ」

ミサト達は口々にそんな事を言い合いながら司令室を退出し、自分の持ち場へと戻って行った。
パイロットが最大限の力を発揮できるような環境を整えて戦場に送り出す、それが自分達の務めだと分かっているのだ。

「シンジ君、思い詰めていなければいいけど……」

作戦会議をしている最中も、ミサトはシンジの事が気になっていた。
シンジはミサトの家に帰らず、アスカの入院する病室に泊まり込んでいる。
傷は浅く、すぐに目覚めると思われたアスカが何日間も眠り続けている事にミサトは心を痛めていた。
その原因はリツコにも解明できなかったが、今まで使徒リリスの力を使ってきた疲労のようなものが蓄積された結果なのではないかと推測された。

「私がもっとしっかりしていれば、シンジ君達に頼り切る事も無かったのに……」
「ミサト、相手は使徒と言う未知の生物だったんだから、貴方だけのせいじゃないわ。ヤシマ作戦だって成果を上げたじゃない」

自分は無能な存在だと責めるミサトを、リツコはそう言って励ました。
シンジも相当に疲れているはず、最後の使徒戦の備えは万全なところを見せて安心させてあげようとミサトは思うのだった。



そしてシンジ達の祈りが通じたのか、アスカとマリは回復を遂げた。
葛城家にいつもの日常生活が戻り、落ち込んでいたシンジも元気を復活させた。
さらにリツコが初号機用の新しい武器、マゴロク・E・ソードを完成させる。

「ギリギリだったけど、最後の決戦に間に合ってよかったわ」
「強そうな武器ですね」
「外見だけじゃなくて、独自の新機能が付いているのよ」

リツコはマゴロクソードとセットになっている鞘(さや)についての説明を始める。
マゴロクソードが鞘に納められている間、鞘からマゴロクソードに陽電子エネルギーが流れ込み、マゴロクソードの威力が高まるのだと言う。

「必殺、陽電子斬り! なんて事も出来ちゃうわけね」
「ポジトロン・スラッシュ! の方がいいんじゃない?」

ミサトとアスカがそう言った後、リツコは咳払いをする。

「技の名前はともかく、一撃必殺の威力がある事は間違いないわ」
「これなら使徒をコアごとぶった斬る事もできそうじゃない」
「ええ、だから今度の使徒戦はシンジ君がキーマンね」
「えっ……?」

リツコ達の視線が集中するとシンジは少し動揺した表情になった。

「マゴロクソードが鞘の中で蓄えるエネルギーには限界があって、過剰に蓄積するとマゴロクソードが壊れてしまう可能性があるのよ」
「なら抜き身で出しておけばいいんじゃない?」

アスカの意見にリツコは首を横に振る。

「それだとマゴロクソードがせっかく集めたエネルギーを放電してしまって威力が発揮されないわ。それにマゴロクソードは使徒の攻撃を受け止めるための物ではないの」
「なるほど、シンジが攻撃するタイミングまで使徒を引き付けるのがアタシとマリの役目ってわけね」

リツコの答えにアスカは納得してうなずいた。

「大暴れしてやる!」

マリはそう言って腕まくりをした。
方針が決まった所でシンジはオフェンス、アスカとマリはディフェンスを重視したトレーニングに励み、使徒を待ち構えるのだった。



そしてしばらくして、ついに使徒サキエルが富士山の火口から姿を現したとの報告がネルフへもたらされた。

「迂闊(うかつ)だったわ、まさかこんな近くに潜んでいたなんて」
「使徒サンダルフォンの件で学習したのね、自分が成体になるまで身を隠して置ける場所を」

悔しそうなミサトの側でリツコは感心した様子でつぶやいた。

「こ、これが、僕が逆行前に最初に戦った、あの使徒ですか……?」

発令所のディスプレイに映し出された変貌を遂げた使徒サキエルの姿を見て、シンジは絶句した。
空中を浮遊する使徒サキエルは、使徒レリエルの黒い球体から、今までシンジ達が倒してきた使徒のパーツがニョキニョキと生えているような姿をしていた。

「こうなるとは予想できなくもなかったけど、グロテスクな外見ね」

アスカは嫌悪感を露わにしてそうつぶやいた。

「全ての使徒の能力を持っているとしたら厄介な相手だな」
「新しい能力を所持している可能性もある」

冬月の意見にゲンドウが付け加えた。

「相手が総力を挙げて来るのならば、こちらもベストを尽くすのみ、頑張ってね」
「はい!」

ミサトに声を掛けられたシンジ達は力一杯の声で答えてエヴァのケージへと向かうのだった。



地表へと射出された初号機、弐号機、伍号機の3機のエヴァはゆっくりと接近する使徒サキエルを迎え撃つために富士山の麓に広がる樹海へと急いだ。
市街地で戦っては大きな被害が出ると予想されたからだ。
使徒の激しい攻撃の前では、地下シェルターに逃げ込んだ人々も危ない。
そしてシンジ達の乗るエヴァのから使徒を目視できる距離まで近づいた時、使徒の方から攻撃を仕掛けて来た!
使徒ラミエルの能力である拡散ビームだ。
しかしシンジ達もATフィールドを張り、使徒のビームを弾き返す。
さすがにエヴァ3機を同時に葬り去るほどの威力は無いようだ。

「ここはあたしに任せるにゃ!」

ビーストモードを発動させたマリは伍号機で獣のようにしなやかに動き回り、トリッキーな動きで使徒へと近づいた。
使徒はビームを放って伍号機を迎え撃とうとするが、伍号機の動きを捉えきれずに接近を許してしまう。
伍号機が使徒の注意をひきつけている間に、初号機と弐号機は余裕を持って使徒に接近する事が出来た。
ビーム攻撃を諦めた使徒は体から眩しい光を放つ、これは使徒アラエルの精神攻撃だ。
発令所に居たミサトはその事に気が付き、あらかじめ録音していたカヲルの歌声をスピーカーから流した。
精神攻撃が無効化されたと知った使徒は発光現象を止め、使徒シャムシェルが持っていたような鞭を振り回してシンジ達に攻撃を仕掛ける。
シンジ達は鞭による攻撃を交わしながら、初号機が腰から提げている鞘に収められたマゴロクソードにエネルギーが充填されるのを待つ。

「よし、今だっ!」

初号機は鞘からマゴロクソードを取り出すと、使徒のこちらに向かって伸ばされた鞭と共に、使徒の本体である黒い球体を真っ二つに切り裂いた!
体を分断された使徒はその巨体を樹海へと墜落させた。

「やったの!?」
「いや、使徒のコアを斬った感覚がない」

シンジがアスカに答えた通り落ちた使徒の体は這いずりながら融合し、元通りとなった。

「あの分裂する使徒の能力だね」
「いえ、影の使徒の力かもしれないわ」

発令所で初号機達の戦いを見守っていたカヲルとレイはそんな事をささやき合った。

「使徒のコアの位置は私達が割り出すわ」
「シンジ君達はマゴロクソードのエネルギーが再びチャージされるまで使徒の攻撃に耐えて」
「はい」

リツコとミサトの言葉にシンジ達は返事をし、初号機はマゴロクソードを鞘に収めた。
エヴァ3機が防戦一方になると、使徒は拍車をかけたように攻撃をしてくる。
マゴロクソードの威力に脅威を感じているのか、使徒は初号機を重点的に狙ってきた。
初号機を弐号機と伍号機とでかばう。
リツコは観測データを分析して使徒のコアを探るがなかなか見つからない。

「リツコ、もうそろそろマゴロクソードのチャージが終わるわ、コアはまだ見つからないの?」
「ごめんなさい、まだ見当もつかないのよ」

アスカに尋ねられたリツコは苦い表情でそう答えた。
近くに居たミサトが大きな声でシンジに呼びかける。

「こうなったら女の勘で勝負よ! シンジ君、使徒を頭から叩き斬ってやりなさい!」
「分かりました」

ミサトの言葉にシンジはしっかりと答えた。

「あたし達が使徒を引き付けるから、その隙にやっちゃえ!」

マリはそう言うと、伍号機で使徒に向かって突進した。
弐号機も少し遅れてついて行く。
シンジは深呼吸するとマゴロクソードを抜いて攻撃のチャンスを待つ。
使徒の注意が伍号機と弐号機に集中した時、死角から使徒に近づいたシンジは跳躍してマゴロクソードを振り下ろした!
頭の天辺から唐竹割りにされた使徒はパックリとVの字に開いたまま動きを止める。
しかしシンジ達の目の前で使徒は白い糸を出して左右の体を引っ付け、再び元通りに融合するのだった。

「うえっ」

アスカは吐き出しそうな声を上げた。
発令所で見守るレイも大きなため息をつく。

「恐るべき再生能力ね、このままでは追い詰められる一方だわ」
「こうなったらコアの捜索範囲を広げるべきじゃないかな」

カヲルの言葉を聞いたリツコが不思議そうな顔をして尋ねる。

「どういう事?」
「宇宙空間、または地底の奥深くまで調べてみるって事さ。衛星軌道上に姿を現した使徒も居たよね」
「なるほど、それは盲点だったわ」

カヲルの意見にリツコは感心した様子でうなずき、望遠レーダーや地中のセンサーの数を増やした。

「僕も使徒の所へ行くよ、使徒の近くなら何か分かるかもしれない」
「でも、危険だわ」
「大丈夫、使徒からは僕はハエのようにしか見えないはずさ」
「……分かった、気を付けて」

レイはそう言ってカヲルを送り出した。
零号機の無い自分は、最終決戦の今となってもこうして戦いの様子を見守るしかできない。

「……っ」

悔しそうに下唇を噛み締めながらレイは発令所のディスプレイをにらみつけるのだった。



それからしばらく防戦を続けたシンジ達だったが、ビーストモードを発動するマリや、シンジをかばい続けるアスカにも疲れが見えて来た。
おそらく次にマゴロクソードのチャージが終わる時が、最後の攻撃のチャンスとなるだろう。
シンジ達はリツコ達に使徒のコアを早く探して欲しいと、内心焦りを感じ始めていた。

「使徒の本体から離れた場所に強い反応がありました!」
「どこ?」

オペレータのマヤが報告すると、リツコは答えるように促した。

「弐号機の真下です!」
「アスカ、逃げてっ!」
「えっ!?」

ミサトの叫び声にアスカが反応するよりも早く弐号機の足元に黒い影が浮かび、弐号機の足は沈み始める。

「ふんっ、このくらい足止め程度にしかならないわよ!」

アスカはATフィールドを弐号機の足の裏に集中させ、飛び上がって穴から脱出しようとした。
しかし黒い影の穴から紐状の光り輝く物体が飛び出し、弐号機の膝に絡みついたのだ。

「この、離しなさい!」

アスカは引き千切ろうとするが、強力な粘着性と弾力性を持った使徒の体は振り解けなかった。
それを見た冬月が大きな声で思い切り叫ぶ。

「あれは使徒アルミサエルの能力か!?」
「弐号機と使徒との物理的融合が始まっているわ!」
「何ですって!?」

リツコの言葉を聞いて、ミサトも驚きの声を上げた。

「弐号機のエントリープラグを強制射出」
「だめです、弐号機側からロックされています!」

ゲンドウの命令に、マヤが悲鳴のような声で答えた。

「アスカ、何を考えているの!?」
「アタシが使徒に吸収させられている間に、そのマゴロクソードで弐号機ごと使徒を斬りなさい! そうすれば使徒を倒せるわ」
「そんな事、できるわけないじゃないか!」
「体力の落ちているアタシにはもうこれしかシンジの役に立つ事が出来ないのよ。……お願い、アタシはこのまま使徒になんかなりたくないわ」

マゴロクソードのフルチャージ時間は間近に迫っている。
すでに弐号機の足は使徒に浸食されてしまっていた。
シンジは決断しなければならなかった。
しかしシンジにアスカを斬る事が出来るはずがないと、使徒は分かっているのだ。

「シンジ君」
「カヲル君!?」

初号機の目の前に姿を現したカヲルにシンジは驚きの声を上げた。
そしてカヲルの言葉にうなずいたシンジは、マゴロクソードを鞘から抜き弐号機に向かって突進する!

「間に合え!」

初号機の振りかざしたマゴロクソードの描いた軌跡は、縦ではなく、横一文字だった。
シンジはマゴロクソードで弐号機の両足を切断したのだ。
その痛みにアスカは大きな悲鳴を上げる。
マゴロクソードの剣圧によって跳ね飛ばされた弐号機の上半身は使徒の黒い穴から離れた場所へと落ちた。
不意を突かれた使徒は動きを止めている、絶好の攻撃のチャンスだ。
しかしシンジも渾身の一振りで力を使い果たしてしまっていた。

「行くよ!」

空中に浮かぶ使徒の分身と戦っていたマリは、大声を出して伍号機で使徒の本体へと走った。
伍号機の武器は初号機から譲り受けたプログナイフだけで、有効な攻撃手段を持っているとは思えない。

「まさか自爆攻撃を仕掛ける気!?」

マリの意図に気が付いたミサトが声を上げると、シンジも慌ててマリに呼び掛ける。

「真希波さん!」
「今まで楽しかったよ、アスカにもそう伝えておいて」

初号機の目の前で大きく飛び上がった伍号機は、勢いをつけて使徒の本体である黒い穴の中へ突き刺さるように落下した。
そして広がる眩い閃光と響き渡る爆発音。
地面が大きく揺れた後、空中に浮かぶ使徒の分身は崩壊して墜落し、黒い穴は大きなクレーターへと変化した。
最後の使徒サキエルは倒されたのだ。
しかし伍号機を犠牲にした勝利をシンジも発令所に居るミサト達も素直に喜ぶ事はできなかった。
沈黙が辺りを支配する。
発令所のミサトがシンジに帰還命令を出そうとした時、初号機の前に人影が浮かんでいるのが見えた。
その人影がマリをお姫様抱っこしているカヲルだと分かると、シンジやミサト達は歓声を上げた。

「やれやれ、間一髪だったよ」
「どうも、助けられちゃったみたい」

マリはそう言ってごまかし笑いを浮かべた。
カヲルは空中に飛び上がった伍号機のエントリープラグの中に入り、落下中にマリを抱えて脱出したのだ。
そして伍号機を遠隔操作して使徒の本体の奥深くへと侵攻させ、自爆させて使徒のコアを破壊したらしい。

「僕が居るから真希波さんが命を落とす必要は無かったんだよ」
「にゃははっ、そうみたいだね」

良い雰囲気で話すカヲルとマリを見て、レイは少し腹が立ったのだった。



使徒サキエルとの壮絶な戦いに勝利した後、シンジ達はアスカの病室に集まっていた。
弐号機とシンクロしていたアスカは、弐号機の足が切断された時に感覚的なダメージは負ったが、肉体的には無傷だったので、すぐに意識は戻ったのだ。
元気そうなアスカの様子に、シンジ達は安心したような笑顔を浮かべるが、シンジだけはアスカの足を見つめてため息をついた。

「しょぼくれた顔してないで、使徒を倒せたんだからもっと喜びなさいよ」
「でも、僕のせいでアスカの足が……」
「本当に足が切断されたわけじゃないから、リハビリすればいつかは歩けるようになるわよ」
「それに碇君があの時すぐに行動しなかったら、弐号機への浸食はもっと進んでいたわ」
「そうそう、シンジのおかげでアタシは助かったんだからさ」

レイの言葉にアスカはうなずいてシンジに声を掛けた。
シンジの気持ちが落ち着いたところで、ミサトは今後のネルフの方針について説明を始める。
全ての使徒を倒した後、サードインパクトを起こす条件が整った。
そしてサードインパクト後の世界を導くためのネブカドネザルの鍵は初号機の中にある。
シンジは新たな世界を創造する力を持っているのだ。

「ミサトさん、僕はサードインパクトを起こしてこの世界を壊すつもりなんてありません。それに僕はこの力が怖いです」

そう言ってシンジは体を震わせた。
世界の運命を左右する力を持てばそれが普通の反応だ。

「だから今後は私達がシンジ君を守る、そしてネブカドネザルの鍵の事も含めてサードインパクトを完全に起こさせないようにするわ」

ミサトはシンジの手を握って安心させるように言った。

「そうよ、それまでの辛抱よ」

アスカはミサトに負けじと力一杯シンジの手を握って励ました。

「うん、ありがとう」

シンジはアスカの気迫に圧されて少し引きつった笑顔でお礼を言った。

「真希波さんはこれからどうするつもりかい?」
「うーん、ゼーレと一緒に帰る場所も無くなっちゃったから、日本に居させてもらおうかな」

カヲルに話を振られたマリがそう答えると、レイが警戒してマリをにらみつける。

「心配しなくてもいいよ、綾波さんから渚君を奪おうなんてしないから」
「……!」

マリが指摘するとレイは顔を真っ赤にしてうつむいた。
シンジ達の笑い声が部屋に響き渡る。
その笑顔は平凡な中学生と変わりの無い「明るい笑顔」だった。



それからしばらくして、ゲンドウは重大な話があるとシンジ達を司令室に集めた。
シンジ達の前でゲンドウが話したのは、初号機から碇ユイをサルベージする計画だった。

「使徒サンダルフォンから生きた使徒のデータを採れたのが貢献してね、かなり研究が進んだのよ」
「じゃあ父さんがサードインパクトを起こすのを止める理由って、母さんが助かるようになったから?」
「ああ……そうだ」

少し拍子抜けした様子のシンジの質問に、ゲンドウは少しバツが悪そうにそう答えた。
アスカは嬉しそうにシンジの肩を叩いてシンジに言う。

「まあ良いじゃないの、アタシだってママに会えるなんて夢のようよ!」
「残念だけどアスカ、弐号機からはサルベージできないの」
「えっ……」

リツコの言葉にアスカは呆気にとられた表情になった。
肉体ごと全てを初号機のコアに取り込まれたユイと違い、アスカの母親のキョウコは精神だけを取り込まれた存在なので、サルベージはできないと言うのだ。

「そんな……」
「しっかりしてアスカ、でもあなたは独りじゃないのよ!」

ショックを受けて真っ青な顔になるアスカをミサトはしっかりと支えた。
加持はマリの方を見て、

「君と弐号機のシンクロ率の高さが気になって調べさせてもらったんだ。すると君はアスカの姉に当たる存在だと判明したよ」

と告げると、マリは驚きのあまり間抜けな声を出してしまう。

「へっ?」

アスカの母親のキョウコ博士はアスカの父親となる男性と交際する少し前に、他の男性と付き合いマリを妊娠していたらしい。
しかし様々な事情があり、出産されたマリはその存在を隠されてしまった。

「じゃあ、真希波さんはアスカの異父姉妹って事かい?」

カヲルの問い掛けにリツコはうなずいた。

「アスカ、あなたにはお姉さんが居るのよ」
「で、でも突然そんな事を言われても、アタシは……」
「あたしも妹が居たなんて驚きだよ」

ミサトがそう告げると、アスカとマリはキョトンとした表情で向かい合っていた。

「惣流さん、真希波さん、おめでとう」
「あ、ありがとう」

レイが祝福の言葉を投げ掛けると、アスカは少し戸惑いながらお礼を言った。
初号機のサルベージ計画に研究を要し、シンジが母親に会うまではしばらく時間が掛かるだろう。
アスカとマリが姉妹として、お互いを受け入れるにしてもそうだ。
しかし逆行後の世界で勝ち抜いたシンジ達には明るい未来がある、希望がある。
カヲルと言うパートナーを得たレイも、ささやかな幸せを噛み締めるのだった。

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