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2006.01.31

進行期の難治性非小細胞肺ガンへのイレッサの効果
〜Gefitinibを東洋人かつ進行期の難治性非小細胞肺ガン患者に投与した場合、生存予後に寄与する因子はExon21のL858R変異の有無と喫煙歴である − The Lancetに掲載〜

EGFR変異が肺ガン患者に対するGefitinib(イレッサ)の「反応」(CR/PRかNR)を左右することは、2004年度のハ-バ-ド大学医学部の研究グル-プによる発表以来、世界中で追試が行われ、今や常識となっています。

今回の研究では、イレッサを東洋人かつ進行期の難治性非小細胞肺ガン患者に投与した場合「当該患者の予後延長」に寄与するのは、このEGFR変異の中でも、一部の変異(Exon21のL858RのPoint Mutation)と喫煙歴が最も重要であることを世界で初めて発見しました(n=135)。L858R変異があれば当該患者の平均生存期間は22ヶ月でしたが、なければ9.3ヶ月でした。また、喫煙者の当該患者の平均生存期間は7.4ヶ月でしたが、非喫煙者では24.3ヶ月でした。

よって、イレッサで「生命予後延長という最大の利益」を得ることができる当該患者は非喫煙者かL858R変異のある患者ということになるでしょう。

さらに本研究では、喫煙者ではL858R変異が非喫煙者に比べて有意に少ないことが明らかになりました(P=0.01)。 一方、「EGFR変異」の中で、先のL858R変異と同程度の頻度を示すExon19のdeletionsの有無と喫煙歴との相関関係はありませんでした(P=0.208)。

上記で示した一連の事実と、我々のLSBMで昨春示された「AKR1B10が喫煙関連の非小細胞肺ガンで亢進すること」(2005年3月12日 LSBM News掲載記事を参照)も併せて考えれば、「恐らく、喫煙によるAKR1B10の発現がL858R変異を抑制することによってイレッサの効果を激減させる。」可能性が示唆されます。今後は、この仮説を緻密に検証する必要があるでしょう。

なお本研究は、いわゆる「Individual Patient DataのMeta-analysis」(MAP)です。 このようなMeta-analysisのデザインと実施は非常に困難を伴うけれども精度が高いとされております。 個々の患者アウトカムデ-タを用い、諸条件をできる限り厳密に揃えて統合解析しました。 また、本研究は、東京大学、ソウル大学医学部、東京医科歯科大学との共同研究です。

最後に、本研究は「探索的臨床研究」であり、今後は、更に「喫煙者群と非喫煙者をランダムに分けてイレッサの効果を比較検証する試験」、あるいは「L858R変異の有無でランダムに分けてイレッサの効果を比較検証する試験」が必要となるでしょう。

また、本研究で得られたような「探索的臨床研究」の結果をベ-スにすれば、今までのような「漠然としたランダム化比較試験」よりも、個々の患者のために、イレッサの真のリスク・ベネフィットをより一層明らかにするための「ランダム化比較試験」を更に効率的かつ効果的にデザイン・実施することができると考えます。

Hisashi Moriguchi, Tae-You Kim, Chifumi Sato.
Gefitinib for refractory advanced non-small-cell lung cancer.
Lancet 2006; 367:299-300.

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