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インドで年間5万人の子どもたちが失踪、 写真の欠如が阻む捜査

  • 2012年10月08日 16:49 発信地:ニューデリー/インド
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インドの首都ニューデリー(New Delhi)市内の警察署に掲示されている、失踪した子どもたちの写真(2012年9月12日撮影)。(c)AFP/MANAN VATSYAYANA

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【10月8日 AFP】インドの首都ニューデリー(New Delhi)に住んでいた13歳の少年、シバム・シン(Shivam Singh)君は7月のある夕方、帰ってから宿題をすると母親のピンキー・シン(Pinky Singh)さんに言い残し、お菓子をもらってくると外に駆け出していった。それっきり、シバム君は家に戻っていない。シバム君のように、インドでは毎年5万人もの子どもたちが失踪している。

「本を開きっぱなしにしたまま、息子はサンダルを履き、髪をとかして出かけていった。あれが息子の姿を見た最後になってしまった」。ピンキーさんはシバム君が姿を消した当時の状況を涙ながらに語った。それから3か月。シバム君の部屋でおもちゃやスポーツ大会のトロフィーに囲まれ、ピンキーさんはシバム君が使っていたベッドに腰掛け、息子の身に何が起こったのだろうと不安を募らせている。「薬物に関わったり物乞いを強いられていないことを祈るしかない。息子は純真で勉強好きな子だったの」

■狙われる貧困地区の子どもたち

 直近の犯罪データによると、ニューデリーでは毎日、14人の子どもの行方が分からなくなり、このうち少なくとも6人が人身売買の犠牲になっている。特にデリー(Delhi)やムンバイ(Mumbai)といったインドの大都市は犯罪組織に狙われやすい。警察によれば、こうした犯罪組織は薬物取引と似たような手口で子どもたちの人身売買を行っているという。

 犯罪組織による子どもの人身売買を解決する取り組みが不十分だとの申し立てを受けて、インドの最高裁判所は今年8月、連邦政府および各州政府に対し、失踪中の子どもたち5万人に関するデータの提供を命じた。

 警察関係者は、複数の工場から子ども数百人を救出し、児童買春組織の大規模摘発も行っていると、取り締まりの一定の成果を強調する。だが一方では子ども人身売買問題の規模は警察が無力さを感じるほど、あまりに大きいと認めた。

 インドの連邦捜査官らは前年、国内全土で子どもを誘拐し児童買春や物乞いを強制している犯罪組織は815団体、構成員5000人余りに上ると発表している。

 デリー警察のラジャン・バガット(Rajan Bhagat)報道官はAFP通信に対し、「誘拐された子どもたちが、安い労働力として工場や店舗、家で働かされている事例は非常に多い。そうした子どもたちは、性行為を強要されたり、児童ポルノ産業に追いやられる場合もある」と説明。犯罪組織は特に、都市部の貧困地区に住む子どもたちを狙っているという。子どもたちの行動を把握しやすく、食べ物で誘い出して簡単に誘拐できるとの理由からだ。

■捜査の鍵となる子どもの写真もなく…

 バガット報道官によると、貧困家庭の親たちの中には、警察に通報することさえ怖がる場合もあるうえ、警察が証拠として提出を求める子どもの写真がない事例が大半を占めている。

 子ども誘拐の危険を誰よりもよく知るのは、ニューデリー市内の小売店主の息子、シャラト・クマール(Sharath Kumar)君(12)だろう。クマール君は9歳の時に誘拐されかけた経験を持つ。

 当時、クマール君は学校で母親の迎えを待っていた。すると突然、年配の男に頭から黒い布をかぶせられて、身体ごと引きずり込まれた。「騒いだら殺すと脅された」という。幸いクマール君の悲鳴を聞きつけた若者たちがクマール君を助け出し母親のもとに連れて行ってくれたため、誘拐は未遂で終わった。母親は「息子は本当に運が良かった。でも家に帰ってからもショック状態で、長い時間泣いていた」と当時を振り返った。

 この事件によって、クマール君の母親が学んだ重要な教訓がある。誘拐未遂事件を受けて、警察は母親にクマール君の最近の写真を提出するよう求めた。だが、クマール君の写真は1枚もなかったのだ。母親は「不用意だった自分と夫を恨んだ」という。今では2人の息子のポートレートサイズ写真を半年ごとに撮影していると、クマール君の母親はAFP通信に語った。

 捜査当局によれば、証拠となる失踪した子どもの画像なしには捜索は、まず不可能だ。ニューデリーの上級警察官、V・レンガナタン(V. Renganathan)氏は「犯罪組織の大半は6歳から13歳の子どもを標的としており、写真がなければ追跡できない」と話す。レンガナタン氏は、貧困地区で記録用に子どもたちの写真を撮影し、焼き増し写真を家族らに配布する活動を立ち上げている。活動の目的は「貧しい地区に住む弱い立場の子どもたちを守ること」だという。インド国内に「何百万とある貧困家庭では、子どもの写真を撮影するなど、考えることさえ難しい」からだ。

 ピンキーさんも、警察に行方が分からないままのシバム君の写真を提出した。後はただ、捜査が進展したとの知らせを待つだけだ。「毎朝、息子の帰りを待つために目覚め、夜は息子の帰りを待ちながら眠りにつく。今は待つことだけが私の生きる術なんです」(c)AFP/Rupam Jain Nair

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