さまざまな種類の細胞に成長する能力を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)。医療応用も期待されるが、研究の課題は何か。iPS細胞を発明した山中伸弥・京都大iPS細胞研究所長と、iPS細胞を使った動物実験などで成果を発表しているルドルフ・イエーニッシュ・マサチューセッツ工科大ホワイトヘッド研究所教授に聞いた。
◇がん化は数年で解決--山中伸弥氏
◆iPS細胞のがん化を克服するには、どのような課題があるか。
遺伝子に傷が付かず腫瘍ができにくい細胞と、それを作る手法を決めるのが一つ目の課題。次に、目的の細胞になりきっていない「未分化細胞」が残ったまま移植すると腫瘍になるため、それを除去することも課題だ。いずれも研究が進んでおり、数年で解決できると考えている。それでも万一、移植後に腫瘍が判明する場合に備え、臨床試験の対象は細胞の変化を追跡しやすい病気や場所を選ぶことになるだろう。
◆iPS細胞を作るには時間がかかるため、治療用のiPS細胞を事前に用意する「バンク」を作る構想がある。どんな方法で作った細胞が対象になるのか。
基にする細胞の候補はたくさんある。皮膚、末梢(まっしょう)血、親知らず、口腔(こうくう)粘膜などだが、この4年ではっきりさせたい。遺伝子の導入に使うウイルスは、センダイウイルスなどなら外から入れた遺伝子が細胞内に残らない。最近はたくさんの遺伝子を入れてもいいから質の良いiPS細胞を作ろうという考え方になっている。一番安全で効率の良い方法を公平に評価する基準を作るのも私たちの使命の一つだ。
◆細胞が初期化する仕組みは、どの程度分かってきたか。
なかなか分からない。分かれば、1カ月かかるiPS細胞が1日で、1%しかできないものが100%作成できるようになるかもしれない。
◆iPS細胞の研究の倫理的な課題は。
ES細胞(胚性幹細胞)と違い、受精卵を傷つける問題はないが、iPS細胞から精子や卵子ができるかもしれない。良い面としては、精子がほとんどできない男性がいた場合、(その人から作った)iPS細胞を使って精子を作れない理由を研究でき、原因が分かれば薬を開発できるかもしれない。一方、iPS細胞で生命を作ることは許されるだろうか。動物の体内でヒトの移植用臓器を作る可能性もある。大切な研究だが、ヒトのiPS細胞を動物の受精卵に入れることには反対もあるだろう。いずれも生命倫理上大切な問題で、研究の透明性を高め、十分議論することが必要だ。
◇厳格な基準作り肝要--ルドルフ・イエーニッシュ氏(米国MITの教授)
◆iPS細胞のがん化を防ぐ方法は開発されるか。
がん化を防ぐには、遺伝子が変化しないiPS細胞を作る必要がある。基になる細胞の染色体に遺伝子を組み込まないウイルスや、遺伝子の代わりにたんぱく質などを使う方法が研究されている。今のところどれも理想的ではないが、比較的近い将来に解決できると確信している。患者の治療に使うには、未分化な細胞が残らないようにする必要もある。
◆安全で使いやすいiPS細胞の基準を作る上での課題は?
ES細胞でも、あるものはうまく神経に分化するが血液にはならず、別のものはその逆というように異なる。iPS細胞も同じだ。(人工的に遺伝子などを組み込まない)ES細胞を参考にしながら、厳格な基準を確立することが大事だ。
◆細胞の初期化のメカニズムは?
4遺伝子の役割は初期化のきっかけを作ることだ。初期化には複数の細胞分裂が必要で、その過程でさまざまな変化が起きる。そのステップを明確にすることが重要だ。皮膚の細胞と、そこからできたiPS細胞を比較するのは簡単だが、その間にはブラックボックスがある。
◆iPS細胞を治療に使ったり、薬の候補探しに活用できる見通しは。
治療応用はかなり先だと思う。病気によっては早いかもしれないが、何年後か予測することには意味がない。細胞移植による治療を考えると、アルツハイマー病や筋ジストロフィーは難しい半面、骨髄はやりやすい。私たちはiPS細胞から骨髄細胞を作り、マウスの鎌状赤血球貧血症を治療する実験に取り組み、うまくいった。
(iPS細胞利用の)焦点は、今は複雑な病気の研究だ。患者のiPS細胞を使い、試験管の中で病気を再現できれば、どんな物質が薬として使えるかの選別もできる。
◆倫理問題は解決されたか。
iPS細胞から生殖細胞を作れるとなると、議論や規制が必要になるかもしれないが、まだうまくいかず、遠い先の話だ。どんな科学的発展にも、役立つ面と誤用の可能性の両方がある。
(毎日新聞)
コメント;
日本・米国の両巨頭に対するインタビュー。
まあ、当たり障りのない、答えなのは、無理もない。
iPS細胞のがん化を防ぐ方法の開発「時期」は、両者、一致しているな。
私自身の研究成果も含め、厳密に検証するための「時間」が必要だから、数年内といってるわけで、まさに「時間の問題」ととってもらってかまわない。
また、がんリスク回避のために4因子から減らして、4、3.2・・・とするのが、良いと思われてきたが、がんリスクを避け、そして質の良い細胞を創ろうとすれば、最低でも3因子の「再活性化」が必要なことが、わかっている。
(・・・って、こんなことは、もう書いていいだろうから、書いた。)