ヒトiPS細胞特許、米企業が英で取得 日本の戦略ヘの影響は?
テーマ:ブログ再生医療の切り札として期待されるiPS細胞(人工多能性幹細胞)に関する特許を、米国のベンチャー企業が、英国で取得したと発表した。iPS細胞の特許は日本では京都大学が持っているが、同様な特許が各国で成立すると、日本が主導権を取れなくなる恐れもある。
iPS細胞の特許については、世界で競争になっている。英科学誌ネイチャーの電子版によれば、世界で75以上のiPS細胞関連特許が出願されているが、これまでは京都大学の日本の特許しか認められていなかったという。
今回の特許は独医薬大手バイエルが申請し、権利を譲渡された米ベンチャー企業アイピエリアン(カリフォルニア州)が28日、特許の取得を発表した。
発表によると、英国の知的財産庁が認めた特許は、ヒトの新生児から取り出した未分化の幹細胞に三つの遺伝子を導入して作ったiPS細胞そのもの。さまざまな組織に分化する能力が確認されている。
iPS細胞の特許は、すでに分化した細胞に遺伝子を導入する作製法で、京都大学の山中伸弥教授らが2008年に、日本国内で取得。京大の特許とは別に、バイエルも07年6月、日本の特許庁に対して特許申請を行っている。
バイエルのiPS細胞は、日本のバイエル薬品(大阪市)の神戸リサーチセンター長だった桜田一洋さんらが開発。この細胞に関する権利は米ベンチャー、アイズミ・バイオに譲渡されたが、アイズミ社は他社と合併し、現在、権利はアイピエリアン社が保有している。(朝日新聞)
コメント:
Human pluripotent stem cells produced by the introduction of Oct3/4, Sox2, and Klf4 genes, along with a c-Myc gene or histone deacetylase inhibitor, into post (No. GB2450603A).というタイトルの特許です。
以前(昨年)、ここでも述べたけど、予想どおり日本のiPS細胞特許は今年、重大な局面を迎えそうですね。
正直、日本だけでの特許取得なんて、ある意味、それほど重要ではないのです。世界戦略上では、とにかく「米国特許」を誰が押さえるかに尽きるわけです。
特に、ビジネス的にはです。
ポイントは、この「ヒトiPS細胞に関する英国特許」が「マウスiPS細胞特許」の件ですらいまだに態度を保留している米国にどのような影響を与えるか?です。ちなみに「歴史的な」ヒトでの4因子によるiPS細胞樹立特許の件でも、米国は、まだ「保留」・・・。
この点、Nature誌のNews記事に書いてあった、ある「専門家」の意見の「要旨」を述べれば・・・「特許の域外適用」はないので、この「英国特許」は米国特許に、ほとんど影響を与えないだろう。ただ、少なくとも、(某 大国の)特許庁は今回の英国特許内容を深刻に受け止めているとも述べられています。
要は、今回の英国特許庁による特許査定の決断プロセスは、今後、各国の特許庁の「iPS細胞関連特許の決断」に影響を与えるということです。
なお、米国(及び中国)が、なぜ、いまだに「態度を保留」しているかは、わかりますけどね。ここでは、今後の日本の戦略上、書けません(笑)。
ところで、そもそも私は、英国の今回のような特許査定は、少々問題があると考えています。
まず、日本を除いては、マウスiPS細胞特許も、ヒトでの4因子によるiPS細胞樹立特許の成立も、まだなのに、いきなり「ヒトでの3因子特許」成立かよということです。今回の英国特許は「未分化の幹細胞」に三つの遺伝子を導入して作ったiPS細胞という点に異常な「新規性」を置き過ぎで、少なくとも、4因子でのヒトiPS細胞樹立の件をいまだに放置してまで、先に与えるべき特許ではないように思われます。
また、欧州も日本も特許については「先願主義」ですが、3因子でのヒトiPS細胞の樹立ケースが「公知」になったのは、今回の「英国特許」出願日(2008年6月13日)の7ヶ月以上前だし、もはや、これだけでも通常、特許は非常に成立しにくい。
新規性及び進歩性の要件の面で。
今後、今回のような「特許戦略」が認められるなら、iPS細胞の件にとどまらず、なんでも「やりたい放題」になってしまいかねない・・・。でも、成立してしまったという「事実」・・・。
英国特許庁は、今後に大きな禍根を残したといわざるを得ませんな・・・。
なお、京大の広報担当も、「この英国特許は、(先取権は京大にあると思うので)Disagreeだ」と先のNature誌のNews記事内でコメントしてます。しかし、京大CiRA(iPS細胞研究センター)は、この米国ベンチャーと業務提携していますがね・・・。とすれば、これ・・・少々、おかしなコメントですね・・・。(どこやらの国の首相が好きな)「友愛」的な業務提携じゃないなあ(笑)。せめて、学術的な先取権は京大ですけど、特許は「共同管理」ですねん(笑)とでも、言っとけばよかったのに(笑)。
前にもここで、書きましたが、今後、iPS細胞が臨床応用されるまでに、少なくとも数十の特許の組み合わせが必要となりますが(ちなみに携帯電話は、百数十件の特許で成り立っています)、不良特許の存在は、企業経営のみならず、医療費増加にものの見事に直結し、患者さんにしわ寄せがいきます(可視、不可視を問わず)。
できるだけ、最良のコンビネーションで、いきたいものですな。
今回の特許が「不良債権特許」にならなければいいのにねえ(笑)。・・・これを皮肉ととるか否かは読者の判断におまかせ!