心臓発作で破壊された組織の一部を、結合組織細胞から誘導された幹細胞を使って修復することに成功したと、米ミネソタ(Minnesota)州のメイヨークリニック(Mayo Clinic)の研究チームが20日発行の学術誌「Circulation」に発表した。
今回マウスで行われた実験は、心臓病を多能性幹細胞(iPS細胞)を使って治療するという初めての試みで、患者の心臓を、心臓移植によってではなく患者自身の細胞を使用して修復できるようにすることを目標としている。
チームはまず、結合組織細胞など形成に関与している線維芽細胞を、将来心臓の筋肉に分化する幹細胞になるよう、遺伝子的に再プログラミングした。これらの細胞をマウスの損傷した心臓に移植してみると、4週間以内に、構造的な損傷の進行が止まり、心臓発作後に失われていた心筋の動作が再開され、損傷個所の組織が再生されたことがわかった。
幹細胞は、再生医療などの現場で注目され、2007年にはヒトの皮膚から人工多能性幹細胞を作製することにも成功しているが、こうしたiPS細胞の臨床試験はいまだに認可されておらず、実際の治療が行われるようになるまでには数年以上かかる見通しだ。
(AFPBB News)
・・・という、iPS細胞論文が出たと思ってたら、次のような論文。
「幹細胞使わず心臓組織を再生 動物実験で効果 米研究」
幹細胞を使用することなく、成長因子の注入でマウスの心臓組織の再生を促進し、
心機能を向上させることに成功したとの研究結果が、24日発行の米科学誌セル
(Cell)に発表された。心疾患治療における突破口となる可能性がある。
心臓の弱い患者や遺伝的に心臓に疾患を持った子どもが心臓発作を起こした場合、
通常であれば、その後心臓組織は再生しないとされている。
研究者らは、NRG1と呼ばれるタンパク質を1日1回、12週間にわたって、心臓発作後の
生体マウスの腹膜腔に注入した。その結果、「心臓の再生は促進され、ポンプ機能
(心エコー図で確認した心駆出率)が無治療対照群と比較して向上」した。
米ハーバード大医学部(Harvard Medical School)のバーナード・クーン(Bernhard Kuhn)氏は、
「知る限り、体系的に適用することのできる初の再生治療になる」と語った。
安全性を確かめるためもっと実験が必要だが、将来的にはNRG1を数週間にわたって
毎日注入するという治療法が出来るかもしれないという。
「原則としては、実際の治療で採用されることを妨げる要因は全く無い。
(将来の治療法の)有力な候補だ」(バーナード・クーン氏)
また、クーン氏は、「多くの研究が幹細胞を利用したものに集中しているが、
われわれの研究の結果によると幹細胞は不要になる。
心筋細胞を刺激して増殖させることが代替案になる可能性が出てきた」と語った。(c)AFP
コメント
いずれも、掲載誌としては一流誌。しかも、世界トップクラスの医療機関であり、医学研究機関・・・。米国は強いね。特に、こういう循環器医学の分野は。
ただ、前者の論文。これは、iPS細胞を心筋細胞に分化させずに、そのまま、ぶち込むという「離れ技」(笑)をやっている。でも、iPS細胞は、論文投稿時には「癌化」しなかったようで・・・。
「普通」、肝臓やすい臓、神経・・・なんかで、こういうことをやれば「癌化」しますがね。心臓だからなのか?、「たまたま」なのか?
フォローアップ期間が4週間か・・・。なるほど。それでは「たまたま」に1票。
一方、後者の論文。・・・「NRG1療法」については、今のところ「文句は、ございません」(笑)。
・・・ということで、現時点で、この件に関しては、臨床応用という観点からならば、後者に軍配があがる(*^▽^*)
ただし、iPS細胞利用の方法も、まだまだ、捨てたものではない。
ヒトiPS細胞の「癌化」問題などの「安全性」の問題や「効率性」の問題がクリアされれば、私ならば、ヒトiPS細胞をちゃんと心筋細胞に分化誘導させたものを利用した「治療方法」と「NRG1療法」との「併用戦略」を考える。
将来、そういう「選択肢」も用意しておく必要がある。
なお、月曜日に発表される、京大の山中先生らのマウスiPS細胞の論文(Nature誌)は、こういった意味でも注目しています。