すいません。久しぶりの更新なのに、テーマが堅くて。
京大への出張の合間に、時間が断続的に開いたので、以下のシンポをみてきました。山中、岡野先生の講演及び質疑応答が終わると(約1時間)、会場の大半の方々が席を立ちました。私も当然、その1人でした(笑)。
・・・で、京都新聞に関連記事が載っていたので、見ました。
「慶応大医学部の岡野栄之教授らのグループは4日、ヒトiPS(人工多能性幹)細胞から作った神経幹細胞をマウスに移植して、運動機能の回復を確かめる実験を始めたことを明らかにした。すでにヒトES(胚性幹)細胞で治療効果を確かめており、岡野教授は「来年にもサルで実験し、人の脊髄(せきずい)損傷の治療に近づきたい」としている。 同日、京都大(京都市左京区)で開かれた慶大と京大の連携記念シンポジウムで、山中伸弥京大iPS細胞研究センター長とともに報告した。 ヒトES細胞やヒトiPS細胞から神経細胞の元となる神経幹細胞を作り、脊髄の一部を壊して下半身の運動機能を低下させたマウスの脊髄に移植した。先に行ったES細胞での実験では、80日後に移植しないマウスと比べると、後ろ脚の運動機能が明らかに向上したという。 グループはこれまでに、マウスのES細胞で運動機能の回復に成功していた。 ヒトiPS細胞の実験は年明けにも結果が出る見込みで、引き続いてサルで実験する。臨床応用について岡野教授は「がん化しない細胞を選別する技術を確立し、安全性を高めることが必要だ」と話している。
なお、日本経済新聞は、京大がALSや筋ジス患者などの皮膚からiPS細胞を樹立したという、ハーバード大学がすでにやってるものをわざわざ「社会面」に持ってきていましたが・・・。
このシンポの注目点は、そんなところでは、ありません!
ただ、京都新聞が最後に少しだけ、触れていますが・・・。
iPS細胞を使う再生医療では、癌リスクを避けなければなりません。
周知のようにC-Mycを使わないことで、それは、ある程度避けられます。
このシンポでは、C-Mycを用いない3因子で樹立されたiPS細胞から神経幹細胞へ分化させて移植する際に、まだ未分化な細胞(神経幹細胞になりきってない奴=つまり「不純物」)が0.05%ほど混じっていると、マウスに癌が発生したということです。「しっかり、神経幹細胞に分化した細胞のみ」を移植したマウスでは癌が発生していないとのことです。
それで、今後の対策としては、セルソータで、そういう「不純物」を除くことが確実にできるようになれば更に安全性が向上するだろうという報告でした。
それから、癌の発生メカニズム解明、あるいは癌治療のためにiPS細胞を利用する価値に関する話題、それと「iPS細胞の個性」に関する話題が、質疑応答の場面の中で印象的でした。
まあ、それは将に今、私がやっているからですが(笑)。
なお、このあとの17時くらいからの再生医学研究所の講演(英語)で、山中先生が、最近、サイエンス誌上で報告された研究を紹介されておられました(事前登録がいりますが、公開されています)。
その内容は、「ウィルスベクターを用いずに人工多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立することに成功」・・・「京都人」さんの丁寧かつ詳細な解説を参照してください(彼のブログの10月10日あたりを)・・・というものです。
私が、注目していたのは、この方法(ウィルスベクターを用いずにプラスミドを使う)で樹立されたiPS細胞では、マウスに癌が発生したのか否か?という点でした。
結論としては、すべての報道・・・「癌化リスクが減るとか、安全性が向上する」・・・といった報道結果は「裏切られ」て、私の予想通り、マウスに癌が発生しました。
通常のレトロウイルスを用いてC-Mycを除く3因子で樹立されたiPS細胞からでは、癌が発生しなかったわけですが・・・。
山中先生は、1枚のスライドを示し、このことをお示しなさり、「やはりC-Mycを使ってたからだろう」と、言われていました。
c-Mycを省いた上でのウイルスの使用は、意外にも安全かもしれませんね・・・更なる研究が必要ですけれど・・・。
今後、ウィルスベクターを用いずにプラスミドを使って、C-Mycなしで、iPS細胞を樹立する場合であれば、VPA(バルプロ酸)を投与すべきだなと、思いました。まあ、たぶん、山中先生らも、その方法を試しておられることでしょうが・・・。
その方法なら、たぶん、うまくいきそうに思います・・・。まあ、ウイルスを使う方法であれば、規制当局も将来的に、臨床での使用を承認しにくいようなので、是非、この方法で成功できればいいですね。
で、ここまでで言いたいこと。それは・・・。
せっかく、非常に誠実に山中先生が、ここまで公開されておられるのだから、これこそ、リアルタイムに報道すべき内容でしょう。なのに、報道しない。
なんで???
それとも、何か。ほんの1ヶ月前の各紙1面で取り上げた話題の価値が下がるとでも思ったのか?(まあ、勝手に最新の方法なら、より安全だと解釈したマスコミが、誤報となるのを恐れたのか?)
大事なのは、医学・医療報道では特に、リアルタイムでリスク・ベネフィットの報道を行うことです。
せっかく、山中先生が誠実に、希望と限界をまさにリアルタイムで報告されているのに・・・。