詳説・日本の情報機関part.1
テーマ:行政日本の日陰者
「日本には情報機関がなく、諜報に対して脆弱である」などと言われて久しい感があります。
しかしながら私のように諸事情あって、日本の情報機関の一端の端のそのまた端くらいに触れたことがある人間にとっては、ずいぶん大雑把な話だと思うわけです。
そこで今回は、官のタブーである情報機関・公安機関について取り上げてみようと思います。
と言っても、組織的観点からはこちら あたりが詳細にやっているようなので、本稿ではもう少し各省庁の違いとか活動の痕跡などを中心に書いていこうと思います。
サクラとチヨダ
日本最大・最強の情報機関。それは言うまでもなく公安警察です。公安警察とは警察庁警備部を頂点とし、各県警本部の警備部を末端とする一繋がりの警察組織を指します。
道府県警本部の警備部は組織上、道府県警本部の指揮に服する形態をとっていますが、その実予算や人事などのほとんどの面で霞ヶ関の警察庁並びに警視庁公安部の指示下で活動しており、刑事警察とは別世界を構成しています。
現在の警察庁の警備局の組織は以下のようになっています。
警備局では近年の国際テロ増加に対応し、外事部門が拡大されており昨年4月には国際テロリズム対策課が新設されました。この国テロ(公安用語。コクテロと読む)重視の流れは日本のあらゆる情報機関に見られる傾向です。
公安課はかつて3つに分かれていました。公安一課が共産党, 新左翼, 旧オウム真理教等担当、 公安二課が右翼, 皇室警備, 要人警護等担当、公安三課が革マル派, 中核派, 革労協対策等担当です。
その後の組織再編で二課三課は室に格下げになり、現在の形に落ち着きました。
しかしながら、警察庁は基本的に行政官庁であり自ら公安警察の工作を行うわけではありません。そこで実働部隊の中枢はどこなのかが問題になります。
かつては公安一課には警察組織図に載らない裏理事官がおり、その裏理事官が中野にあった公安一課分室を統括していました。この分室が「サクラ」と呼ばれた秘密工作の総元締め機関です。
そしてこのサクラこそがかつて実働部隊の中枢でした。
亀井静香代議士もかつて裏理事官を務めたことがあるなど、サクラにはエース級の人材が投入されたようです。
サクラは86年に発覚した共産党緒方国際部長宅盗聴事件を契機に解体され、新たな工作機関が1991年の組織再編で新設された警備企画課の傘下で霞ヶ関に新設されました。
この秘密工作機関は「チヨダ」の通称で呼ばれ、サクラ以上の権限を持って各警察本部の工作を統括していると言われます。
また、公安警察の実働部隊のもうひとつの中枢は警視庁公安部です。警視庁は各警察本部で唯一の「公安部」として独立した組織を持ち、多くの課と予算、人員を擁するなどチヨダとならぶ実施部隊の中核にあたります。
これらをまとめると現在の公安警察の組織とは、警察庁警備局が頭脳、チヨダ・警視庁公安部が実働部隊の中枢、末端の道府県本部の警備部がそれらに従って活動するという構図になっているようです。
公安警察の尻尾
さて、組織論はほどほどにして本題に入ります。普段公安警察は何をしているのでしょうか。
彼らの仕事の基本はエージェント養成です。エージェントとは要するにスパイのことで、調査対象組織に協力者を養成し組織の情報をとることを目的としています。
エージェントをどうやって獲得するかというと、基本的には偶然を装って対象に接近し、酒を飲んだり釣りをするなどして信頼関係を醸成。然る後に徐々に情報提供を迫るなどして協力の既成事実を作り、抜け出せないようにしてスパイに仕立て上げるという手法がとられています。
ただし警察の場合は、各種警察情報や逮捕権を利用した強引な情報獲得も行われるようです(※注1)
そのため公安警察は、情報系の他官庁から「おいコラ体質」などと揶揄されることもあります。
エージェント養成の他にも警察の情報獲得手段は多岐にわたっており、下記の青木理の著書「日本の公安警察」では、視察内偵・聞き込み・張り込み・尾行・面接・投入として紹介されています。
無能な公安調査庁と違って公安警察はなかなか尻尾を見せないので、事件化や暴露されたエージェント獲得工作の具体例はあまりありませんが、沖縄県警の元公安警官島袋氏などの暴露本出版などにより少しずつその実態が明らかになってきました。
なにはともあれ、こうした人間を利用した情報収集活動はHUMINT(ヒューミント)と呼ばれます。
国際的に見ると、イギリスはHUMINTの名手として知られている一方で、国内の情報系官庁では公安調査庁・外務省などがHUMINTが中心の組織です。全体的に日本の情報機関はHUMINTに強いとされています。
盗聴・傍受・Nシステム・・・
HUMINTと並ぶ調査手法にSIGINT(シギント)があります。SIGINTとは主に電子機器を用いた情報収集のことです。公安警察はHUMINT偏重の公安調査庁に比べ、SIGINTにも長けているとされます。
具体的なSIGINTの代表例としては、盗聴・無線傍受・Nシステムなどが挙げられます。
Nシステムとは近年導入された道路上のナンバープレート監視システムです。これにより警察は日本中の道路の通過車輛を知ることができる仕組みになっています。Nシステムは実際に犯罪捜査に使われ、実績を挙げていますが、同時に公安情勢把握目的にも使用されているとされています。
実際、オウム事件の際には信者の動向把握にNシステムが活用され、その活躍によって付いた予算により、ますますNシステム網は拡充されました。最近では高性能化によりナンバーだけでなく運転者も記録できるようになったと言われています。
更にNシステムと似たものとして、オービスや街頭設置の防犯カメラなども補助的に活用されていると考えられます。
続いて盗聴について見てみましょう。警察は本来盗聴などの違法捜査を行わない建前になっていますが、実際は盗聴を積極的に行っています。その片鱗は86年の共産党緒方国際部長宅盗聴事件で明らかになりました。
この事件では盗聴に気づいた被害者からの告訴を受け、東京地検は公安警察が盗聴のため使用していたアジトをスピード捜索。数々の警察による違法盗聴活動の証拠品を押収して、大きな社会問題化しました。
結局、警察庁長官・警察庁警備局長・神奈川県警本部長・警備部長らが辞職ないし更迭される事態となり、検察-警察間取引で、以降警察は違法捜査は行わないことで合意したとされています。しかしながら、私が某官庁情報筋から聞いた話では、現在も警察は確実に盗聴を行っているとのことです。
なお、盗聴は通信傍受法により合法化されましたが、裁判所の令状とNTT職員の立会いが必要という要件があるため、公安警察の活動には馴染みません。そこで公安警察の盗聴は基本的に違法盗聴を指します。
警察のSIGINTのもう一つの柱は電波傍受です。警察庁の保有する無線施設は、東京・中野にある警察庁第一無線通信所と、日野にある警察庁第二無線通信所の二つから成り立っています。
第一無線通信所はICPO(国際刑事警察機構)送信所として東南アジア諸国との連絡に使用されており、傘下には霞ヶ関通信所、中野送信所、小牧送信所などを擁しています。
それに対し、警察庁第二無線通信所は組織上もその役割が伏せられている機密性の高い通信所です。第二無線通信所の所在は日野市三沢3-20-11、小高い丘の上にあることから通称「ヤマ」と呼ばれています。下は付近の地図です。
第二無線通信所の詳細はこちら をご覧頂くとして、第二無線通信所の目的を簡単に説明すると、国内無線及び北朝鮮関連無線の傍受にあるとされています。
国内無線の傍受では、国内の免許を受けた基地局全ての無線を傍受しているとされ、盗聴が困難なデジタル無線もその例外ではありません。
それでは北朝鮮関連無線とは何でしょうか。
北朝鮮はその工作員に対してA3放送と呼ばれる乱数の短波無線などにより指示を行っています。この短波放送こそが北朝鮮関連無線、警察庁の傍受ターゲットなのです。
工作員は乱数表によって指示を解読して活動に当たっているとされています。実際に北朝鮮工作員の逮捕事例では警察は乱数表を幾度も押収した実績があり、北朝鮮工作員の活動を把握する上で「乱数放送の傍受」と「解読」は重要な意味を持っています。
この警察による無線傍受及び、後述する防衛庁・在日米軍からの情報により、今日では北朝鮮の工作動向はかなりの程度把握されています。
例えば、「ヤマ」に工作船情報が入ると報告が警察庁警備局に上がり、該当県警本部外事課にKB(Korea Boat)情報として上がる仕組みになっているとされます。また、この工作船情報は自衛隊にも上がり、哨戒機を飛ばすなど警察・自衛隊双方で警戒態勢をとる仕組みになっています。
ところで、工作船というと2002年の東シナ海での撃沈騒動が記憶に新しいところですが、私が掴んだところによると、実は国民に伏せたままの警察・自衛隊の対工作船出動事例は星の数ほどあるようです。
不審船は発見されると逃亡もしくは自沈するケースが多く、交戦に至ったケースはないようですが日本近海は今まで国民が思っていたより波が高かったということでしょう。実際、今でも日本海側の自衛隊はNK(NorthKorea・北朝鮮)のGC(Guerrilla Command・ゲリラ部隊)に対応するための市街戦訓練に明け暮れ、臨戦態勢と聞きます。
本節では警察のSIGINT活動について述べてきました。しかしながら、技術は生き物ですし、そもそも公安警察は厚いベールに包まれています。ここで述べていることは、あるいは時代遅れであったり、またほんの片鱗程度の情報だと思われます。
とはいえ、それらの情報を総合して判断すれば、警察のNシステム・盗聴・傍受といったSIGINT能力は高度かつ多岐にわたっており、日本最高水準にあることは間違いないでしょう。
※注1…その際、別件逮捕・転び公妨などの手法が広く利用される。
参考文献:青木理 講談社現代新書 「日本の公安警察」
↓More Information(もっと知りたい方へ)
http://www.asyura.com/sora/bd12/msg/926.html
http://kazama-mys.com/j/int_sog.html
http://www.incidents.gr.jp/0012/hamashima001213/hamashima001213.htm
1 ■ウッ●ー は警察協力者
管理人さん、(元)警察の人?
公安情報に詳しいなあ
ワシも「ある人」にこの筋の話を聞いたことがあります。
公安警察だけでなく刑事警察においても、盗聴・盗撮は積極的に行なわれているらしいです。
その範囲は、談合摘発、麻薬捜査、殺人事件、監視等と多岐にわたるとのこと。
また携帯電話、インターネットも盗聴可能のようです。
現在の盗聴・盗撮技術からすれば、当事者にはほとんど気づかれず盗聴(盗撮)を行なえるみたいです。
恐ろしいことに、裁判所の許可を受けていない場合が多数あり、そのような盗聴・盗撮は「違法行為」であり「裁判の証拠」にはならないとのことです。
(麻薬捜査・組織犯罪における盗聴は裁判所の許可があれが合法)
今後、警察の情報活動には法律の整備(盗聴・盗撮範囲を合法的に広げること)が急務だと「ある人」は話していました。