(本)西沢和彦「税と社会保障の抜本改革」

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2012/10/14


社会保障関連では一押しという話を聞いたので読んでみました。これは確かにすごい一冊。読書メモをご共有です。


問題点の整理と、解決策

・日本の家族支出の対GDP比は0.79%であり、他方、ハンガリー、スウェーデン、デンマーク、英国など7カ国は軒並み3%を超えている。日本の積極的労働市場制作は対GDP比で0.16%で、他方、デンマーク、ベルギー、スウェーデン、オランダは1%を超えている。このように、社会支出のなかで、高齢支出の割合が高く、現役世代を受給者とした支出項目の割合が低いことが日本の特徴である。しかし負担面では、現役世代が主に負担し、それを高齢世代に移転する構造になっている。

・消費税の設計によって逆進性は是正可能であるという反論がある。軽減税率、ゼロ税率、非課税扱いのほか、カナダのGST(Goods and Services Tax)クレジットのように、転倒ではすべての消費者がいったん消費税を支払いつつ、低所得層に対しては、その後、その一部あるいは全部が税務当局から払い戻される方法がある。(中略)日本の民主党も、軽減税率よりこの方式を評価している。もっとも、GSTクレジット方式を仮に日本に導入するとなると、低所得層の正確な所得補足をはじめ税務行政の抜本的な改革が必要である。やはり、歳入庁構想の具体化が急がれることとなる。

・国民年金保険料の納付率は、近年低下の一途を辿り2009年度は60%を割り込むに至っている。その背景として、主に2つ指摘できる。1つは、2000万人の被保険者1人ひとりから月々定額1万5100円の保険料を徴収するという、いわば小口債券の直接徴収という徴収方法の行き詰まりである。もうひとつは、所得にかかわらず低額の保険料であることによる(特に低所得層の)経済的負担である。

・ミクロの家計ベースで見ると、公的年金控除によって、年金受給者の課税最低限は、給与所得者に比べてずいぶん高くなっている。先の例では、給与所得者の夫婦世帯の課税最低限は156.6万円であったが、年金受給者は205.3万円となる。また、第七章で述べるように、国民健康保険料の算出にも公的年金等控除差し引き後の所得が用いられるため、現役世代に比べ、年金受給者の国民健康保険料は顕著に低くなっている。

・以上から、税と社会保障の一体改革を進めていくにあたっての確信的論点のひとつが改めて確認できる。制度を根本的に改めることなく、国民に普段増を(しかも本格的な負担増を)求めることが、果たして可能なのかと言うことだ。政府が「医療のために消費税を!」と繰り返し叫んだとしても、支援金に税が混入するといった複雑なキャッシュ・フローを放置し、かつ、国民が自分の財布で恩恵を実感することのない政府部門間移転による税投入を続けているような構造のままでは、国民に増税の必然性を理解させることは難しい。したがって、消費税や社会保険料の本格的な引き上げの前には、膨大な作業を伴うが、健康保険制度を根本的に見直して、分かりやすい構造に変え、その上で負担増の必然性を国民に伝えることが有効である。

・現役と高齢者を比較した場合、依然として、高齢者にきわめて有利な保険料になっている。(中略)低収入層において、現役世帯と高齢世帯との間に、著しい保険料負担の格差があることが分かる。例えば、年収150万円の場合、現役世帯、前期高齢者、康毅高齢者の保険料負担は、それぞれ8.0%、1.0%、0.4%であり、年収200万円の場合、同様に、7.5%、4.0%、2.6%である。(中略)加えて、診療所や病院の窓口で支払う自己負担に関しても、高齢者は現役世帯に比べて軽くなっている。(中略)このように、もし「差別」という民主党マニフェストの扇情的な用語を用いるのであれば、むしろ若年層の方が差別されているといってよいだろう。

・クロヨン問題とは、給与所得の税務当局による所得補足率が9割であるのに対し、営業所得、農林漁業所得はそれぞれ6割、4割にとどまるといわれ、公平さを書くとされる問題である。トーゴーサン(10割、5割、3割)ともいわれる。

・国保は国民会保険のラストリゾート(最終避難場所)としての役割が期待されているにもかかわらず、加入世帯の20%超で保険料が正常に支払われていない深刻な状況にある。あるいは、国保には、国と地方の一般会計から多額の税が投入されており、国と地方の財政健全化の観点からも、その再建が強く求められている。

・給付付き税額控除は、政策目的を実現するためのあくまでツールであり、まず政策目的が明確にされなければならない。日本に給付付き税額控除を導入するとすれば、底には大きく分けて3つの利用方法が考えられる。1つは、WTCのような就労インセンティブを喚起する形での勤労者の所得支援である。2つ目は、税と社会保険料の役割再構築のツールとしての勝つようである。(中略)3爪は、CTCのような子どものいる家計への所得支援である。

・給付付き税額控除を導入する場合、低所得層も含めた所得情報の正確かつ一元的な把握と管理が不可欠だが、このように、日本では導入のための前提条件が満たされていない。国税庁に日本年金機構を統合するという民主党の歳入庁構想では、給付付き税額控除にはほとんど意味がないのである。


消費税について、年金財政について、子ども手当についてなどなど、幅広いテーマを扱った一冊。まさに「税と社会保障の抜本改革」。これを読むとかなり問題点が理解できると思います。初回保障に関心がある方はぜひ。






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