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2012年10月14日(日)付

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 「欧州の天地は複雑怪奇」と言い残して辞職したのは、戦前の首相平沼騏一郎(きいちろう)だった。あまたの国が国境を接し合い、深謀と機略の渦巻く大陸の駆け引きは、島国の政治家には見通せなかったらしい。その4日後、ドイツがポーランドに侵攻して第2次大戦が始まる▼「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争」と国連憲章にある。2度の世界大戦で欧州は戦場になった。惨禍を繰り返すまい、という理念の下につくられた欧州連合(EU)に、今年のノーベル平和賞が贈られる▼「ヨーロッパを戦争の大陸から平和の大陸に変えた」というのが授賞の理由という。争いを繰り返した仏と独が協調してEUを引っ張る。その図を奇跡と評する声もあると聞く▼9年前のこと、イラクとの開戦にはやる米国が、反対する仏独を「古くさい欧州」と非難した。それを逆手に取り、仏外相は国連で「戦争と占領と蛮行を経験した古い国から」と意見を述べて異例の拍手を浴びた。演説に込めた思いはEUの原点でもあったろう▼とはいえ、貧すれば鈍す。いま経済危機という最大のピンチに、ユーロ圏の国々はきしみ、反目も目立つ。震源のギリシャは「底の抜けた樽(たる)」といった謗(そし)りを浴び、反動から極右政党が台頭している▼批判もあるのが平和賞の常だが、まさに真価を問われる受賞となる。欧州は自信を持て、とのメッセージでもあろう。グローバル時代、かの天地の先行きに世界の誰も無縁ではいられない。

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