向井秀徳インタビュー「すとーりーず・おぶ・向井秀徳」
(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:田中慎一郎)
人間の脳内とか心の中っていうのは、いろんなものが渦巻いてると思ってるんで、その状態を音楽で表したいと思ってるんですね。
— ZAZEN BOYSにバンドとしての一体感がある一方で、ライブという空間自体はちょっと違うというか、いわゆるロックフェス的な一体感を生み出す場というよりも、もっと個々の、それぞれの熱狂がある場になってると思うんですね。
向井:縦ノリで踊ってる人や、横ノリで踊ってる人、いろんなリズムの取り方があって、腕を組んでじっとしてる人もいる。ただ、それぞれがそれぞれで感動の共有はしてるわけです。でも、感受性は人それぞれ絶対違いますから、いろんな人たちの感情が渦巻いて、バラバラなんだけど、それが大きなうねりになってですね、ステージ上も含め、全体が熱の渦巻きみたいになる瞬間があるんです。その状態はずっと続くわけじゃないですけど、そういう瞬間が所々にある、それがライブの醍醐味で、それを求めてやってますね。
— まさに、ZAZEN BOYSのライブからはそれを感じます。
向井:あるアンセム一発で全員がガッと盛り上がってね、タオルを一斉に振り回したりとか、そういう風景にある種の憧れもあるんです。私が1973年のLAのスタジアムにThe Rolling Stonesを見に行って、"Brown Sugar"のイントロが鳴ったら一斉に盛り上がりますよ(笑)。ただ、自分がステージ上から見る光景が、みんな一斉に同じような動きをして、同じようなタイミングで手を振り上げるってなると、ちょっと違和感があるわけです。「みんな同じなわけないと思うんだけどな」って。でも、ロックフェスとかで大人気のバンドが1万人のお客さんを一斉にあげてるのを見ると、「ちくしょう、羨ましいな」っていうのもあるにはありますね。
その「一面的ではない」っていう感覚は歌詞にも表れていて、向井さんの歌詞にはいろんな心情や風景が混ざり合ったものが多いですよね。
向井:例えば、「私は今この不景気に怒り打ち震えている」とか、「音楽を使って俺がいかに怒ってるのかを表明したい」とか、そういうスタンスではないですね。「労働者は搾取されている!」って真剣にアジテーションしてても、そこに風がフワッと吹いて、女性のミニスカートがめくれて苺柄のパンティーがちらっと見えたときに、その人の心臓はピンク色になるはずなんですよ。
— (笑)。
向井:怒っていながらも、そことは違う感情も存在していて、人間の脳内とか心の中っていうのは、いろんなものが渦巻いてると思ってるんで、その状態を音楽で表したいと思ってるんですね。だから、今回の歌詞は思いついた言葉をそのまま乗っけましたっていう形で、私にとっては非常にシンプルな作り方なんです。ただ、今私が思いついた言葉、脳内言語をホントにそのまま歌詞にしてしまうと、分裂症の病人が書いた文章みたいになるんで、そこはやっぱり自分のテクニックを用いて、ひとつの音楽として自分が面白いと思う形に持って行くわけです。
— 分裂症的な文章ではなく、それこそ一曲一曲がちゃんと「すとーりー」になってますよね。
向井:音楽を作って、自己満足をして、それを人に聴いてもらいたいという欲求があって、さらにはお褒めの言葉をいただきたいという欲求があるわけで、それこそまさに感動の共有をしたいというか、他者とのコミュニケーション欲求ですね。かといって、「こういう風に聴いてください」とか「こんなことを思ってください」とか、そういうことではないわけです。感動の共有はしたいけど、聴く人それぞれの感動の仕方があるから、曲を聴いて思い浮かべる風景もそれぞれ違うわけです。聴く人の持ってる歴史だったり、思い出だったり、日常の世界と照らし合わせて聴こえてくるわけだから、いろんな捉え方があるのは自然だと思っています。
— そうですよね。そこを強要してしまうと、おかしな話になってしまう。
向井:もちろん、それで感動の共有ができなかったり、もっと言えば、「こんな音楽全然つまらない」「むしろ、にくたらしい」とかね、そんなことを思う人もいるわけ。それは私としては非常に残念です。でもそれもしょうがないし、当然ですよね。「"ポテトサラダ"聴くとホント落ち込むわ」とか「ラジオで流れてきたら速攻消すわ」とかね(笑)、そういう人だっているかもしれない。
— 話がちょっと飛躍しちゃいますけど、いわゆる売れ筋のJ-POPっていうのもわかりやすくそうですもんね。ものすごく熱狂してる人の横で、ものすごく嫌悪してる人もたくさんいるっていう。
向井:うーん……そこは普遍性ってやつですよね。唱歌とか童謡に対しては、「にくたらしい」と思う人はあんまりいないと思うんですよ。"赤とんぼ"を聴いたら、「田舎のばあちゃんどうしてるかな」とかね、郷愁の心をかきたてられるだろうし。まあ、「童謡を聴いたらノスタルジーになる」っていう刷り込みがあるのかもしれないけど。J-POPとは何かっていうのは……あんまり考えたことがないですね。アイドルグループが100万枚売れるとかもそれが何かって考えたことないし、それは音楽ということじゃなくて……。
— ビジネスというか……システム?
向井:システムだね。システムに支配されてる感じはするね。あんまり悪い意味で言いたくないけど。コンビニとか毎日行きますけど、週刊マンガ誌を惰性でずっと買ってまして、すると表紙が同じアイドルグループのメンバーで占領されてるわけですよ。これは完全に乗っ取られてるなって感じますね。
— ちなみに、週刊マンガ誌は今も買われてるんですか?
向井:ずっとやめようと思ってるんですけど、なんかクセで買ってしまうんです。あれはたまってしまうから、電子配信をお願いしたいですね(笑)。
4/4ページ:何かを背負ってるつもりは全くないし、背負わされるのもつらいので、勘弁していただきたいんですけど、どっかに使命感みたいなのがあるのかもしれないですね。「俺がやらなきゃ誰がやる」みたいなね。
ZAZEN BOYS
メンバーは、向井秀徳(Vo,G,Key)、松下敦(Dr)、吉田一郎(B)、吉兼聡(G)。元NUMBER GIRLの向井が中心となり、2003年結成。MATSURI STUDIOを拠点に音源を発表、国内外で精力的にライブを行っている。
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