12-01-15 22:50
■[漫画家][漫画]尾田栄一郎の最初期インタビューより(コミッカーズ 1998年10月号)

週刊少年ジャンプ1997年34号から連載開始された「ONE PIECE」は、今年で連載15周年。
初版部数の記録を更新しつづけていて、もうすぐ65巻が出ます。(ONE PIECE 65巻)
その作者である尾田栄一郎のインタビューや取材記事は今まで色々とあるのですが、このコミッカーズ1998年10月号に掲載されロイ渡辺によるインタビューは、まだ単行本が4巻までしか出ていなかった頃。
最初期のものと言っていいんじゃないでしょうか。
今読んでみても、この頃からまったくぶれていないということが実感できます。
以降、枠に入ってるのが記事よりの引用。茶色の文字列はインタビュアーによる部分。
―『ONE PIECE』を描く上で、気を付けているようなことはありますか?モットーとかでもいいんですが。
「ものをはっきりと言おうと思ってます。ルフィが海賊王になるってのが物語のメインですけれど、なりたいものや意思をとにかくはっきりさせようと。なんか照れるんですよね、はっきり描くのって。だから普通は遠回しに、妙にかっこつけちゃったりするんですよ。けれど、そういうのは少年にとって逆効果です。はっきり言っちゃったほうが気持ちいいんですよね。それ、連載を始めるちょっと前に松本零士さんを読んで気付きました(笑)。こんな恥ずかしいことを、はっきり言っちゃっていいんだ、って。そしてかっこよかったし、気持ちいいなとおもって。じゃあそれをやろうと」
―前後の脈絡なしに『999』にハーロックが出てきて「夢をあきらめるな!」とか言うだけ言って帰っていきますもんね。
「はい、あのハキハキとした感じ(笑)。いいですよね。だから恥ずかしがらないことがモットーです。」
ハーロックも海賊だし、「自分が言いたい事だけ言う」度は確かに共通項かも、と思われます。
―その他には?
「それはもう《ワクワク》でしょう。『ドラゴンボール』のワクワク感。あれをもう一回おしえてやんないと、少年に」
―机の横に「わくわくする 演出」って、はり紙してますもんね。
「そう、わくわくする演出。コンビニにジャンプ買いに行って、帰り道に我慢出来ずに立ち止まって読んじゃう。あの感じを」
この後、2006年末(2007年4・5合併号)にドラゴンボールとのコラボ読切「CROSS EPOCH」が描かれることになります。
―でも、ワクワクだけが魅力じゃないと思うんです。大人が読んでもいいなぁと思うのは、この作品に何か抜けるようなイメージがあると思うんですけど。
「そうですね。それはのんびりした感じでしょうね。戦いよりも本当は、船の甲板で仲間たちがのんびりしている感じが描きたいんです。でもそれだけじゃみんな楽しんでもらえないんで。もちろん戦闘シーンを描くのも好きですけれど、その合間のなんでもない話とか好きですね。ムーミン谷の雰囲気。あののんびりした感じ」
―キーワードはワクワクとのんびり
「そうですね。のんびりは少年がわからなくてもいいと思ってるんです。でも、その雰囲気は伝わってるはずですよ、必ず。だから本当に理解するのは、もうちょっとしてからでいいんです。」
この当時に小学生だった読者も、今はもう大学生とか社会人なわけで、今読み返すと初期巻の印象変わってるかも。
まあ、どこまでが「少年」かってのは難しいですが。
こうしてみると、ドラム王国編は、ムーミン谷の冬のイメージがあるかも。
―海賊と言うモチーフはどこから出てきたものなんですか?
「僕は昔から好きなんですよね、ビッケ*1に始まり。海賊って多分みんな好きだと思うんですよ。一見ワルな感じと、夢もってそうな感じ。本当は悪いやつなんですけど、それを無視して、結構想像上で出来上がってる勇者たちじゃないですか。僕もその辺好きだし、そういうの利用したらいいなって。だから、詳しい史実とかは無視してやってます」
「小さなバイキングビッケ」は、ルーネル・ヨンソンの「小さなバイキング」が原作の、1970年代のアニメーション。ドイツと日本の共同制作。
小学校の図書室で読んだなあ、これ。
復刊の切っ掛けは「ONE PIECE」の影響って可能性もあるのかも。
―それにしても元気な悪者ですよね。
「叫んだほうが勝ちっていうのが僕の中であって。多少間違っても、叫んだほうが勝ちなんですよ。圧倒された方が負け。だから海賊王になるって、とんでもない悪になろうとしてるんですけれど、それを元気いっぱい叫んだらそいつの勝ちだと思ってますんで」
叫んだら勝ち、というか、折れなかったら勝ち、なのかな。
故に、ルフィの敗北として描かれたシャボンディ諸島でのくま戦、海軍本部でのエースの死では叫べていない(後者は声が描かれない)というのがあるのかと。
―作品の中にルールみたいなものってあるんですか?
「空飛ばない(笑)。空飛んじゃうと船必要なくなっちゃうし、何でも出来ちゃうんで。海にこだわってますね。あと、いっぺん読み切りで魔法使いとか出したんですけれど、連載では使いません。とんでもない状況は全部悪魔の実のせい。あの一点だけは不思議なんですけれど、あとはフツー」
これは結構徹底されていて、現在までに空を飛んだのは「トリトリの実」と「フワフワの実」能力者だけ。
覇気については、悪魔の実に対する制御というかカウンターとしての存在として作られたと考えると3つの古代兵器についても説明がつくのかなあと。*2
―絵柄について聞こうかと思うんですけど、影響を受けた作家のタッチとかって、あるんですか?
「タッチはですね、小学生時代に作られました。みんな模写時代があると思うんですけれど、僕の場合は『キン肉マン』真似したり、『北斗の拳』真似したり。でも『ドラゴンボール』の影響が一番でかいと思うんです。とにかく鳥山明さんの絵は描きまくりましたから。その癖がずっと残っていると思うんです」
そして、現在では、「尾田栄一郎フォロワー」とでも言うべき絵柄の漫画家さんが育ってきてるとも言えるでしょう。
鳥山明の影響は、見開き扉イラストなんかの時に強く感じますね。
―でも独特なタッチですよね。
「意図的に作った絵柄なんです。自然に出たものじゃなくって、とにかく人の描いていない絵を描こうと思って。例えば小さい目ん玉にするのも結構苦労したんです。最初は難しくて右と左がずれちゃったりするんですよ。『WANTED!』*3とか今見たらずれてますね。初めて描いた漫画ですからね、あの絵にしてから。でも描いているうちに気に入ってきたんで、他が何を言おうと突き通してきたんです。あれは目の動きとかが、0.何ミリずれただけで、感情を邪魔するんですよ、真っ直ぐ見たい時は、本当に真っ直ぐな位置に描かなければいけないし。でっかい目だと結構誤魔化せるんですけど、ごまかしがきかないから面白いです。」
―ルフィの目ん玉に注目
「注目ですね」
「でっかい目だと結構誤魔化せるんですけど」というのはなるほどですが、「意図的に作った」というのはどの辺までなんでしょ。
ルフィ以外のキャラに関してはまた別ってことなのかしら。
―絵柄に影響を受けたものの話が出ましたが、マンガ意外で影響をうけた作品などを教えて下さい。
「小説は字が苦手なんで読まないんで、人に勧められた物のみ。『燃えよ剣』とかですね。そういう侍の魂系。ソウル系ですね(笑)」
司馬遼太郎の幕末を書いた作品群の中でもつとに有名な作品が挙げられていますが、「侍の魂」というワードはゾロのみならず、短編「MONSTERS」、そこからスリラーバークのサムライ・リューマにも影響してそうです。
―映画とかは?
「映画は大好きですよ。西部劇が大好きで『ヤングガン』っていうのがあるんですけど、もうあれがトップ1ですね、僕の中の。かっこ良すぎ。初めて観たの高校ぐらいだったと思うんですけれど、だからすぐ『WANTED!』を描いたんです。後はタランティーノ物。『パルプフィクション』大好きですね。『レザボアドッグス』のスーツでゾロゾロあるくのも。かっこ良すぎですよね、あれ」
―見せ場を上手く作ってる映画ですよね。
「あの人も色々なところから影響を受けた人じゃないですか。だから色々なかっこよさが凝縮されて面白いですよね、結局」
この辺は、カラー見開き扉の際にモチーフとして使われてたりします。
ONE PIECE内でも西部劇的演出って結構あるかも。
―誰かの影響を受けるということについての抵抗感はない?
「ないですね。もちろんパクっちゃあだめですけれどね。影響を受けるのはしょうがないことだと。それを自分なりにどう取り入れるかでしょう」
漫画で言えば、後に藤子不二雄A先生と対談してたのとか読むと、「怪物くん」の影響などやっぱりあるんじゃないかなあ、と。
こんなんとかね。
―連載だと、翌週の反応が気になると思うんですが?
「ここで驚いてくれとか、笑ってくれとか、ビビってくれとか、そういうのを仕掛けた時の反応がとても楽しみです。一話目はすごい自信ありましたし。シャンクスは好きになってもらえただろうなーと。ただその影響の大きさに、いまちょっとビビってるんですけど(笑)。ウソップ海賊団解散とかは、あれ描いた時に、早く反応がみたいと思いましたね。《よかったです》っていう反響の手紙とかは、読んでこっちが感動しました。」
この1998年時点からだと、シャンクス再登場はちらっと出たのでも11巻でだから、このインタビューの1年後くらいかな。
今、ファンレターってどの位の数届いてるんだろうなあ・・・。
―そういう感動させるシーンって好きなんですか?
「『風の谷のナウシカ』を観た時に、人を感動させるのはかっこいいなって思ったんです。《オレも泣かしてやる!》って思って。だから人を殺さずに感動させたいってのがテーマにありますよね。殺しちゃうのは安易な感じがしますからね。でも、ストーリー的にそう流れるなら、それはしょうがないんですけれど。とりあえず殺さずに、でも感動できるんじゃないかと思うんで。」
作中で、ルフィの味方側にある人物が(回想編以外で)死ぬ事になるのは59巻でのエースでしょう。
そこまで「殺さなかった」けど、確かに多くの「感動」のシーンを描いてきたというのを考えると、なるほどな発言です。
ここでの「ナウシカ」はアニメ版の方でしょう。
宮崎駿作品では、ラピュタと空島編が同じスィフトからのイメージが、というのもありますね。
―死なないで別れるのって、お互いに意思を持って背中を向けるような感じがあってかっこいいかもしれないですね。
「かっこいいですね。そういうの好きですね、僕」
―さて、これからの展開なんですけど。
「まだ、いまはやりたいことのプロローグですね。まだまだゆっくりあせらずに、一人一人をかためていこうかと。誰が主役になってもおかしくないぐらいの仲間たちが揃って、横に一列になった時に、どれぐらいカッコよく見えるかというのが、今のところ第一の目的なんで。あとは場所さえあたえてやれば。ポイントとしては、グランドラインに入ってからが、何でも描けるハズなので、そこに早く行かないと。担当さんも怒るんで(笑)」
あれから仲間も増えましたが、次は何時、誰と対峙する時にそうなるのか。
昨年「次郎長三国志」のカバーを尾田栄一郎が描いていましたが、これも揃い踏みのカッコよさってのに繋がってる系統かもしれません。
―何人ぐらい集まるんです?
「わかりませんね(笑)。理想としては、10人ぐらい集まりたいところなんですけれど、今、正式には4人出てきてるんですけれど、4人でもすごく扱いずらいんですよね。それぞれが好きなことやろうとするから。」
この「10人」という数字は他のインタビューなんかでも言ってたかな。
今のところは9人。くまがそうなんじゃあないかと言われたり、最近はジンベエが勧誘されてたり。
―好き勝手する一番の親不孝者は誰なんですか?
「ルフィですね。こいつは野放しにしたら、せっかく僕が用意した敵をあっという間にやっつけちゃう(笑)。でも最後にきれいにまとめてくれるのは彼なので、ルフィは本当に邪魔だったり、助かったりしますよ」
「キャラクターが勝手に動く」というような事をおっしゃる作家・漫画家さんは結構多くて、それは作者自身でも手綱を取り切れない場合もあるとかなんとか。
ルフィの場合、行動としては筋が通っていても無茶しますからねえ。サボテンのとこでのゾロとケンカに始まり、天竜人殴ったり、刑務所潜入したり。
どこまでが意図通りで、どこからが勝手に、かはわかりませんが。
―最後に、これからマンガ家になろうと思っている人たちに一言お願いします。
「マンガ家になることを追求するのも、それはもう《しよう》と思ってすることじゃないと思うんです。絵が好きなら勝手に追求すると思うんで。本当になりたかったら、マンガ家には絶対なれると思う。なれないんだったら、本当に絵が好きじゃなかったり、話が好きじゃなかったりするんだろうし。そういう世界だと思うんですよ。流れるままに。描きたければ描けばいいしって感じで」
―尾田さんはまだまだ描きますよね。
「はい。描きます」
このゆるぎなさは作品にも表れてると思います。
「ONE PIECE」の完結まではまだ数年(最低でも6年か7年?)かかると思われるのですが、そこに描かれなくなる、という不安は一切無いのです。
といった所でここまで。
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自分でも手元にない「コミッカーズ」の記事を見ることができて、とても懐かしかったです。
当時は私鉄の外れのほう、駅からも遠くて不便なアパートで寝起きしながらの創作活動だったと思います。その部屋で取材をしました。
「コミッカーズ」編集部から記事執筆の依頼がきたきっかけは、実は女性向けのマンガ情報誌に、少年マンガのお勧め作品を載せていて、そこで取り上げた「ワンピース」についての記事を読んでもらったから、なんです。ですから、このインタビュー記事は、もう必要以上にインタビュアーが思いを込めちゃってますね(笑)。