電脳コイルのキャラクターデザイン

現在NHK教育で放送中の「電脳コイル」というアニメは、アニメーターの力量に描くべき表現の多くを委ねて画面を構築しています。たとえば、上に引用したOPアニメーションからのキャプチャー画像(左)を見ると、人物がすばやく動く時にぼやけて見える輪郭のブレまでもをアニメーターによって輪郭線で表現しようとしており、京都アニメーションなどデジタルエフェクトに力を入れている制作スタジオが撮影段階で行っている、デジタル処理によるモーションブラー効果(右画像。「涼宮ハルヒの憂鬱」第7話よりキャプチャー)などとは一線を画した表現手法をとっているのです(ちょっと分かりにくいので、こちら大きな画像をおいておきます)。
このことは監督が著名なアニメーターであり、その為なのか技術力を有するアニメーターが集まったという事ではなさそうです。電脳コイルという作品においてはデジタルエフェクトは、モニター画面やネットウィルスなど不可視なものを中心に行われ、人間など実体のあるものはできるだけエフェクトをかけず手描きで行うという所から鑑みて、この線引きは「ネット」「現実」があいまいになった作品内世界を表現する上での取り決めであるのでしょう。

さて、アニメーターによる手書き作画への意識が強い電脳コイルなのですが、キャラクター作画については、そういった動きのアニメートだけではなく、キャラクターデザインの段階から既に、「いかにしてキャラクターを動かし、そのキャラクターを表現するか」という細やかな意識が強く働いています。私は電脳コイルの作画については目のまわりと、特にほっぺたに注目して毎回見ていまして、顔の輪郭ラインのどちらか双方に飛び出してディフォルメされるほっぺたが、口元での演技を一役かっているなぁ、と感じています。口で感情を表しているショットをいくつか上にキャプチャしてみたのですが、これを見ると感情をはっきりと出すキャラクターについてはほっぺたがとんがり強調されて、あまり表に出さないキャラクターについてはこのディフォルメを抑えてデザインされていることが分かります。電脳コイルを見られていない方は、さきほど文中リンクを貼らせて頂いた電脳コイルのキャラクターページ中に掲載されている、京子のキャラクターイラストを参考にしてください。体全体で感情を表現する幼児である京子の口周りは、大きくゆったりと膨らんでいるのです。ほっぺたで感情を表現するゆりえ様萌エスを参照するまでもなく、ほっぺたはその人を特徴づける大切なパーツの一つです。具体的には口唇によってほっぺたが動くので、声に感情を押し出す人ほどほっぺたの動きが大きくなる、ということです。
電脳コイルはアクションなどただ動きの作画がいいというだけでなく、ほっぺた周りのように顔の輪郭ににじみ出る人間の感情の機微を、キャラクターデザイン段階で落とし込んでいるアニメでもあるのです。

おまけ:ちなみに電脳コイルでも、人間がカメラのま近くを通る時はピンボケ効果として線がぼやけます。が、動き自体はあくまでアニメーターがコントロールしようとしているのが、上のカットの腕のギザギザで分かると思います。
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