前回の安倍内閣もそれと同じで、外交、安保、憲法、教育などのいくつもの基本政策の転換にまで着手し、多面指しの方向に走って挫折した。これを1人のアマが多くのプロを相手にしたとは言わないが、いくらなんでも背負った荷物が多すぎたのは確かだ。これが安倍氏に対する大きな不安要因である。
安倍総裁は、今から大風呂敷を広げすぎないほうがよい。統治構造の改革の一本にしぼって取り組んでほしい。そして、当面する緊急の重要課題に明確な指針を示すことを期待する。
“タカ派”安倍・石破両氏の協力で
政権奪還が遠のく可能性も
心配なのは、現在の領土問題に前のめりになってしまうこと。取り返しのつかないような言動を重ねれば、政権奪還は逆に遠のいてしまう。
記者会見で安倍氏は「石破氏との協力」を明言した。2人とも“タカ派”と言われているがそれに甘んじていてはいけない。あえて言えば「タカの心臓を持ったハト」であってほしい。
日韓、日中の衝突を世界ははらはらしながら凝視している。どちらが挑戦的か。どちらが好戦的か。そしてどちらが紳士的か。それによって国際世論は定まり、落着点が決まることになる。
国内に過激な言動があることは政権の交渉力を強める利点はある。しかし、それはあくまでも野党に許されること。政権奪還を目の前にした最大野党の党首には慎重な言動が一義的に要求される。
言うまでもなく、自民党総裁選の有権者は一般有権者とは違う。自民党員の主張は、世論の一角を占めてはいるが、世論の縮図ではない。そして、党員もまた、自民党の一般的支持者とは必ずしも同じではない。自民党内では通用することでも世論には通じないことも多い。
これで民主、自民の二大政党の党首が確定して選挙に臨む。だが、強い風は民主、自民、第三極のいずれにも吹いていない。言わば三すくみの奇妙な“なぎ”が訪れている。総選挙までにどんな風が吹くのか。それは三者の今後の展開次第である。
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