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2008-07-05
ドラッカーと任天堂 岩田社長からみる人事の本質
ドラッカーの「チェンジリーダーの条件」を読んでいます。
チェンジ・リーダーの条件―みずから変化をつくりだせ! (はじめて読むドラッカー (マネジメント編)) | |
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4章 人事の原則が衝撃的にすばらしい内容だったので、ここに写経しておきます。
人事に完璧な者はいない。しかし、人事に卓越した者はいる。マーシャルとスローンは、これ以上考えられないほどたがいに異質だった。だが、二人は同じ考えのもとに人事を行っていた。
第一に、ある仕事につけた者が成果をあげなければ、人事を行った自分の間違いである。その者を責めるわけにも、ピーターの法則をもち出すわけにもいかない。愚痴をこぼすわけにもいかない。自分が間違ったのである。
第二に、兵士には有能な指揮官をもつ権利があるとは、シーザー以前からの金言である。少なくとも責任感のある者が成果をあげられるようにすることは、マネジメントの責任である。
第三に、あるゆる意志決定のうち、人事ほど重要なものはない。組織そのものの能力を左右する。したがって人事は正しく行わなければならない。
第四に、人事には避けなければならないことがある。たとえば、外部からスカウトしてきた者に、初めから新しい大きな仕事をあたえてはならない。リスクが大きい。そのような仕事は、仕事のやり方っや癖が明らかであって、かつ組織内で人望のある者にまかせるべきである。地位の高い新人には、何を期待されているかが明らかであって、しかも手助けしやすい仕事を与えなければならない。
とても完結でわかりやすい内容です。しかし、社会人経験3年目の僕にも上の原則が人事の本質的な部分であることが肌で感じられます。上の文を読みながら任天堂岩田社長の2008年3月期決算説明会の質疑応答の回答を思い出しました。ちょっと長いですが、引用します。
Q: 確か昨年、「普及台数が増えればタイレシオが低下する」という過去の常識へのチャレンジとして、ボリュームと価格のダイナミックレンジを広げていきたいとの説明があったが、少し歩みが遅いのかなと感じている。それと直接、間接に関係するかどうか、終わった期のソフトの開発費が予算の450億円に対して 370億円と前の年に比べて横ばいに留まった。それは「ソフトの絞り込みや、発売の延期の影響」と聞いているが、「人が足りないのではないか」という仮説を持っている。実際に終わった期は、(連結で)約400名の社員数が増えているが、これもモノリスソフトと海外のオペレーションと新卒だと聞いている。
そこで、人の生産性をさらに上げられるのかどうか。肉体労働ではないので、天井はないと思うが、むやみに人を採ればいいというものではないということは重々承知しているが、まだまだ生産性を上げられるのかどうかを聞きたい。
A: 私どものようなスタイルの、そしてこれくらいの規模のビジネスが2年で3倍の規模になるというのは、あまり例がないと思います。私も何を参考にすればいいのかはよくわからないながらも、毎日どうしていくべきか考えています。当然急激にビジネスが拡大すれば、「人が足りない」という話は出てきます。
一方で、「『人が足りない』と言っていることは、本当に人を増やせば解決するのだろうか」ということも考えています。人に何かをふりかけたら、人がポンと二つに分かれて、知識や経験をもった人が2倍に増えるのであれば、たぶん人が増えてもうまくいきます。しかし、外から「任天堂のことを知らない、ゲームビジネスの特殊性をご理解いただいていない人」が急激にたくさん入ってきても、逆に任天堂のDNAとも呼ぶべき重要な考え方、世の中ではやや非常識ともいわれるような場合もありますが、少し変わった考え方をしている娯楽ビジネスの会社の価値観を理解されない方が急激に増えることは、むしろ危険だと思っています。ですから、私は今「ギリギリの線はどこなのか」、「人を増やしながら、任天堂が変わってしまわない線はどこなのか」を見極めながら、マンパワーの補強をしようと思っています。
同時に、任天堂は一応効率がいい会社に入るとは思うのですが、限界かというと私は全然そうは思っていません。今でも少なくなったとはいえ、会社の中で無駄に消えている力はあるし、本当に中でやるべきことと外のパートナーさんと分担すべきこととの境界は今のやり方がベストだとは思っておりません。また、これは制約条件理論という言葉でいわれますが、ボトルネックが1個あれば、そこに合わせて全体のパフォーマンス、スループットが決まってしまうというのは、いろいろなビジネスに共通で、これはわれわれの仕事も一緒です。「ボトルネックになっているのは何なのか」、「そこはどうしたら強化できるのか」というかたちで考えないといけないかなと思っています。
確かに短期間にビジネスが急拡大し、やることが一気に増え、ポテンシャルも増えて、本当はやったほうがいいけど、あえて我慢していることがあるのも事実です。それはやりたいことを全部やりにいくとみんな中途半端になって、かえって悪くなるので、「本当はやったほうがいいけれども、今(手を付けるのは)はやめよう」と言っているものもあります。それは外部からご覧になると「展開が遅い」というご批判になるのかもしれませんが、そこは何とかギリギリの任天堂らしさを失わない範囲でやっていきたいと思います。ただ、ご指摘いただいているようなことを考えながら、私たちなりに工夫して強化を図っているつもりです。また、任天堂の能力発揮の総量は数年前より今はそれなりに拡大できているのではないかという自負もあります。
もちろん現代の経営者ならばドラッカーの著作は読んでいるとは思いますが、上のドラッカーの原則をふまえて、会社のDNAに則して考えた任天堂の人事の本質だと思います。ここまで完璧な受け答えをしてくれる社長なら株主も質問しがいがありますね。ドラッカーが存命なら是非10年後に岩田社長の分析を行って欲しいと思わせる切れ味です。考えてみれば、今日本の特に過去の伝統に縛られて思うように成長出来なかった会社にすばらしいリーダーが生まれている、と感じます。最近、すばらしいと感じているのは東芝の西田社長です。2005年の原発会社Westinghouse Electricの買収、HDDVDの早期撤退、銀座ビルの売却、投資の半導体への集中と業界でも指折りのセンスです。あと、川崎修平氏という希有の才能を起用したDeNAの南波社長も気になりますね。
ドラッカーの「チェンジリーダーの条件」はこの時期に読めてよかった本でした。おすすめです。