2010年12月13日 曽我逸郎
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2010年12月定例議会 開会挨拶


 平成22年12月中川村議会定例会を招集いたしましたところ、議員各位におかれましては、それぞれにご多用の中、全員定刻にご参集を賜り、まことにありがとうございます。

 今年の夏は大変な猛暑で、農作物への影響が心配されましたが、思いがけずカメムシの大量発生という形でそれが現れ、農家によってはリンゴの半数が食害を受けています。

 この状況を見るにつけ、なんとか農業とその周辺から得られる所得が少しでも増え、多様化し、安定化するようにしていかねばならないと、改めて痛感します。
 もしそれができれば、都会の雇用も冷え切っている中、村内に後継者が増え、村の農業と暮らしが持続可能なものになるのではないかと思います。
 そのためには、柱となる農作物生産の他に、たとえば農家民宿や農家レストラン、観光農園などさまざまなアプローチが必要で、そのような取り組みもいくつかしっかりと根付いてきたと感じています。農産加工施設では、加工組合「つくっチャオ」の皆さんなどが、新たな村の名産品の開発に向けて、頑張っておられます。「日本で最も美しい村」連合のブランドの活用ももっと活発になればと思います。

 とは言え、これらの動きも、村全体に広がる力のあるものにはなっておらず、村の余力は時間とともに刻刻と下がりつつあるのが現状です。
 「天の中川村」ブランドの立ち上げがお許しいただけなかったのは、今も残念に思っていますが、村民の活躍の舞台・チャンスをさらに整え、余力のあるうちに、さまざまな取り組みが拡大し、なんとか花開くようにしつらえたいと思っています。

 国全体の景気については、内閣府は、11月の月例経済報告で、景気の基調判断を「このところ足踏み状態となっている」として、前月の判断を据え置きました。前の月に1年8か月ぶりに下方修正したまま、景気が停滞を続けているとの判断です。
 個人消費については、、「持ち直している」から「持ち直しているものの、一部に弱い動きもみられる」と、1年9か月ぶりに下方修正しました。生産についても「弱含んでいる」から「このところ減少している」と、2か月連続で下方修正しています。

 このような閉塞した経済状況下で、輸出関連の大企業の要望に応えたのか、あるいはもっと他からの要求があったのか、菅内閣は唐突にTPPを持ち出してきました。TPPについては、一般質問も頂いていますが、要は規制を排除し、自由競争を拡大するということです。このように言うと美しく響きますが、実態は、野放にして強いものが好き勝手にできるようにする、ということです。

 農業への影響が話題になっていますが、農業に留まらず、すべての物品、サービスの貿易、さらには政府調達まで視野に入れています。中央政府のみならず地方政府もその範囲に含まれていますから、中川村の調達も影響をうけるかもしれません。

 農業について考えれば、しもふり牛肉など一部高級品は高値で輸出されるかもしれませんが、庶民が日常食べる食材は、国内産はほとんど淘汰され、すべて輸入ということになりかねません。
 食品の安全基準も非関税障壁とされ、グローバルスタンダードと呼ばれる米国の基準が押し付けられ、狂牛病の心配のある輸入牛肉や遺伝子組み換え作物が大手を振って流通するようになるのではないか、と危惧します。日本人の昼食がハンバーガー中心になってしまったら、「美しい日本」はどうなるのでしょうか。

 9月に開催された「ふるさと再生・行動する首長会議」設立総会や、10月の長野県町村会定期総会で、東京大学名誉教授・地方財政審議会会長である神野直彦先生の講演を聞き、岩波新書『「分かち合い」の経済学』も読みました。

 先生のお話は、世界経済の大きな流れとして、イギリスを中心とする軽工業基軸の産業構造が立ち行かなくなって大恐慌に陥り、その後、米国を中心とする重化学工業基軸の産業構造となった。これは、資源を大量に費やし、同じ規格品を大量生産、大量消費、大量放棄する時代であるが、その産業構造も壁にぶつかり、今は新たな恐慌の真っ只中である。これを乗り越えるためには、新たな時代の新たな産業構造が開かれねばならない。それはこれまでのような規模を争う競争と淘汰の「奪い合い」の経済ではなく、人の知識・智恵・経験を生かして、互いに助け合う、「分かち合い」の経済の時代になる、そのように神野先生は説いておられます。

 TPPはまさに、弱肉強食の規模の経済であり、最早立ち行かなくなった産業構造の名残りだと思います。
一部に、「TPPを導入するなら、強い農業を実現せよ」との声もありますが、強い農業とはどのようなものでしょうか。もし、株式会社化して大規模化・効率化し、人はそこでサラリーマン的に働くような農業であるなら、これも従来型の規模の経済の原理に縛られています。農山村の暮らしの良さを壊すやり方です。
 そうではなく、次の時代には、これまで受け継がれてきた中川村の良さが、逆に生きる筈です。
 TPPに反対するとともに、先程申し上げたようなさまざまな工夫で、村の良さを生かし、大切にして、身の丈にあったファン、リピーターを獲得していくことが、長期的に見て、一番良い方法だと考えます。

 軽工業基軸の時代から、重化学工業の時代への移り変わりには、大恐慌があり、そして世界大戦がありました。
 今また、重化学工業の時代の終焉を告げる恐慌の中にあって、戦争の危険がかつてなく高まっているように感じます。

 人間は執着の反応であり、不安や恐怖や怒りはたやすく燃え上がります。マスコミは、冷静な分析・検討を助ける報道をすべきだと思いますが、今の大手マスコミは、発行部数や視聴率欲しさに、人々の自動的な反応に火をつけて煽っているのではないでしょうか。
 韓国哨戒艦「天安」の沈没について、多様な見方・情報があるにも拘らず、それらが言及されることはほとんどなく、公式見解ばかりが繰り返されました。
 北朝鮮による韓国・延坪(よんぴょん)島砲撃も、「天安」沈没事件と同じく、軍事演習中に発生しています。日中戦争の引き金となった盧溝橋事件も、最初に撃ったのは誰なのか諸説あるものの、日本軍の夜間演習中に発生したことには違いはありません。ベトナム戦争で米国が北爆を開始するには、トンキン湾事件が必要でした。極東で戦争が起こって得をするのは一体誰か。このような分析もマスコミには希薄です。
 尖閣諸島の領海侵犯事件も、冷静な分析・検討材料を提供するというより、一面的で大衆受けを狙った扇情的報道が多く、かつて戦争に突き進んだ新聞のあり方もかくや、かつて通った道をまた歩んでいるのでは、と感じます。

 先月は、沖縄に行って、知事選挙の伊波洋一候補の応援をしてきました。結果は、ご存知のとおり仲井眞知事となった訳ですが、いずれにせよ辺野古の海に新たな米軍基地を造ることはダメだという沖縄県民の意思が、名護市に続いてはっきりと示されました。
 菅内閣は地域主権を謳っています。つまり、地元の意向に反する施策を国が地方に押し付けることは許されないということです。どこであれ地元の住民の意向を踏みにじることを国にさせないという点で、地方自治体は連帯するべきだと思います。

 戦争になれば、財産のみならず、家族や自分の命を失い、悲惨な目にあわされるのは住民です。住民に一番近いところで、住民の生命財産を守る責務を負う基礎自治体は、国が戦争の危険を高めようとするなら、反対していかねばなりません。
 7月の「核廃絶広島会議」では、国と国が敵対していようとも、世界の基礎自治体は、それぞれの住民の平和な暮らしを守るべく、国境を超えて連帯していけるのではないかと思いました。
 最近の報道を耳にするにつけ、軍事力に頼ることが確実に戦争を招き寄せるのであり、国がその危険を高めようとしているとき、それに反対していくのが地方自治体の役割ではないかと思っています。

 さて、本定例会に上程いたします議案は、上伊那広域連合規約の一部を変更する規約の制定、一般会計及び国民健康保険事業特別会計の補正予算の計3件であります。

 国の平成22年度補正予算が成立しまて、額の確定された普通交付税については今回補正いたしますが、円高・デフレ対応のための緊急総合対策として創設される「地域活性化交付金」につきましては、額が確定していないこと、交付対象事業について要綱が明確でないことなどから、今回は計上しておりませんが早い時期に対応したいと考えております。

 何とぞ慎重なご審議をお願い申し上げまして、議会開会のあいさつとさせていただきます。

以上