iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った世界初の臨床応用を森口尚史(ひさし)氏(48)が行ったとする報道について、読売新聞は12日付夕刊1面(東京紙面)で、報道内容に疑義が生じたとして、事実関係を調査していると報じた。同社は取材に対し、13日付朝刊で検証結果を掲載することを明らかにした。同様の記事を配信した共同通信は12日夜、「事実無根だったことが分かった」との記事を配信し、おわびする編集局長名のコメントを出した。
今回の臨床応用について、読売新聞は12日付夕刊1面で「事実関係を調査します」との見出しの記事を掲載、「森口氏の成果に疑義が浮上した」「報道した内容に間違いがあれば、正さなければなりません。現在、森口氏との取材経過を詳しく見直すとともに、関連する調査も実施しています。読者の皆様には、事実を正確に把握した上で、その結果をお知らせいたします」とした。また、共同通信は12日、「裏付け取材を十分尽くさず、誤った情報を読者にお伝えしたことをおわびします」とする吉田文和編集局長名の談話を出した。
東京医科歯科大は12日夕に記者会見。今回の臨床応用とは別に、森口氏が同大と、iPS細胞を使ってC型肝炎の効果的な治療薬を見つけた、とする2010年5月の読売新聞の記事についても「東京医科歯科大で実験及び研究が行われた事実はない」と発表した。iPS細胞を使った研究は一切行っていなかったという。他施設で実施したかどうかは分からないとした。この内容については、日経産業新聞も同年6月に記事にしており、日経新聞は調査を始めた。
この会見には、今回の臨床応用を発表する予定だった国際会議の抄録に名前を連ねていた佐藤千史(ちふみ)教授(総合保健看護学)も同席し、「彼のデータに整合性があると判断した。日本人の名前しかないことにもっと疑問を持てばよかった。不明を恥じている。経歴も疑っていなかった」と述べた。佐藤教授は、森口氏の大学院時代の指導教官。
佐藤教授が森口氏の複数の論文に名を連ねていたことから、同大は問題がなかったか調査を始める。
また、同じく共著者とされた東京大先端科学技術研究センターの井原茂男特任教授も会見し、「私の名前が入ることについては事前に連絡がなく、報道で初めて知った」と述べた。