罪を生まない:「点字毎日」次世代へ 「償いを届けたい」 データ化に挑む受刑者
毎日新聞 2012年10月11日 西部朝刊
◇戦前紙面、島根から再生
官民共同で運営する刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」(島根県浜田市)で、創刊90年を迎えた週刊点字新聞「点字毎日」(毎日新聞社刊)をデータ化して次世代に残す取り組みが進んでいる。視覚障害者の生活と福祉を記録した貴重な紙面の再生に挑むのは、罪を犯して更生を目指す受刑者たち。時の流れで傷んだ点字を丁寧にたどり、記事を待つ人たちの役に立てる喜びをかみしめている。【蒲原明佳】
パソコンが並ぶセンター内の作業室。受刑者たちが黄ばんだ紙にライトを当て、凹凸がつぶれかけた点字を真剣に確認していた。六つの点の凹凸と位置で音を表す点字を読み取り、パソコンに情報を入力する。
「エイコク コータイシノ ゴライユー」。1922(大正11)年5月11日の創刊号には、英国のエドワード皇太子が来日し、京都や日光を楽しむ様子が記されていた。
点字毎日は、毎日新聞の点訳版ではなく、視覚障害者の活動や福祉、教育などを独自に取材している。毎日新聞大阪本社が保管するバックナンバーには良質の紙が使えなかった戦時中のものもあり、劣化が進んでいた。
このため、点字毎日がNPO法人「全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)」(本部・大阪市)と共同でデータ化することに。全視情協の島根あさひ事業所が社会復帰促進センターで点訳を教えていたこともあり、受刑者が作業を担うことになった。
受刑者約30人が今年2月から点字の文法を学び、6月、大正時代の記事からデータ化を始めた。目の前の点字新聞が「世界に数冊しか残っていないもの」との説明を聞き、余暇時間にも点字の勉強を重ね、指導員に積極的に質問するようになった受刑者もいるという。8月末までの3カ月間で37週分までデータ化を終えた。今後すべてのバックナンバーのデータ化を目指す。
30代の男性受刑者は大正時代の盲学校に音楽科が設置されたことを伝える紙面を担当。「目が不自由な人の歴史が詰まっている。原文通り大切に入力したい」と話した。振り込め詐欺で銀行から金を引き出す「出し子」をして服役している。「社会に奉仕することで償いを届けられたら」との思いで向き合っているという。