(演奏時間:2分19秒)

春 の 歌  (mp3)

作曲: J.L.F.メンデルスゾーン

 
 昭和20年代前半には、まだ、民間放送はなく、全国どこへ行っても日本放送協会の第一放送と第二放送しか聞かれなかった。そんな頃、春になるといつもスピーカーから流れてきたのがこの曲であった。

 この曲は、旧制富山高校時代、私のクラリネット演奏の十八番(おはこ)の一つでもあった。

 私が寄宿していた寮は青冥寮といい、高等学校の敷地内にあった。この寮から2-3分歩くと神通川の堤防に出る。春の陽射しを浴びながらこの堤防に腰を下ろし、この「春の歌」をよく吹いたものだ。

 堤防は草いきれにむせ返るほど、近くの草むらに巣があるのだろうか、揚げひばりの鳴き声がそこここに聞かれた。やがて柔らかな陽射しに包まれ、クラリネットをほり出したまま、そこでまどろんだことも何度かあった。

 だが今では、ラジオでもテレビでもこの曲を耳にすることは殆どない。何でも手軽に、いつでも手に入る現在では、音楽にも春という季節を、ことさら必要としなくなったのだろうか。
                     [ 2000年5月 音源:SC-88 Pro ]