iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った世界初の臨床応用を森口尚史(ひさし)氏(48)が行ったとする読売新聞の報道について、同社は13日付朝刊で「同氏の説明は虚偽で、一連の記事は誤報と判断した」との見解を示し、「おわび」を掲載した。また、共同通信も「言い分をうのみにした」などとする検証記事を配信した。
各社に先駆けて報じた読売新聞はこの日の1面で、森口氏の論文の「共同執筆者」とされる大学講師が論文執筆に関与していなかったことや、研究成果について米ハーバード大の関係者らが真実性を否定していることなどを根拠に虚偽と判断したと説明。「iPS心筋移植」などと報じた11日付朝刊1面や関連記事、同日付夕刊1面などの記事に誤りがあったとした。
さらに検証記事の中で、森口氏が使っていた「ハーバード大客員講師」との肩書が事実かどうか同大に確認しなかったこと、森口氏の過去の論文は厳格な審査を受けない自由投稿欄が多かったことなどを挙げ、事前のチェックが不十分だったことを認めた。大橋善光・東京本社編集局長は「見抜けなかった取材の甘さを率直に反省する」との見解を示し、今後も徹底的な検証を続けるとした。
一方、読売新聞の報道を追いかける形で森口氏について報じていた共同通信も「本人の言い分をうのみに報道し、裏付け取材を十分尽くさずに誤った情報を伝えた」などとする検証記事を配信し、おわびも出した。13日付朝刊で地方紙などが掲載した。
森口氏に関しては、毎日新聞や日経産業新聞も、研究業績を紹介する記事を過去に掲載しており、毎日新聞と日本経済新聞は13日付朝刊で、研究の信頼性などを今後検証する方針を示した。
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朝日新聞は1996、97年に旧厚生省の外郭団体・医療経済研究機構の調査部長だった森口尚史氏が、肝炎の治療効果を分析した報告書の記事を2本、2002年には東京大先端科学技術研究センター特任助教授時代の森口氏の診療報酬改定のあり方に異論を唱える投稿を掲載している。iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った臨床応用などについては、森口氏に取材していたが、信頼性が低いと判断し、記事化を見送っている。