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特集広告に活かすスマートフォンとAR

(2011.11.30/2011年12月・2012年1月号 特集)

マーケティングツールとしてのAR技術
クウジット   執行役員 CPO プロデュース部 空実プロデューサー   原 晶洋 氏

原 晶洋 氏

新聞広告に印刷されたマーカーにスマートフォンをかざし、カメラをもう片方の手のひらに向けると、あたかもAKB48メンバーが手の平に乗っているように見える。このAKB48総出演ドラマ『桜からの手紙』や、プロ野球中継『Dramatic Game 1844』の番組宣伝(どちらも日本テレビ放送網)に使われたのが、クウジットのAR技術「GnG(GET and GO)」だ。紙媒体とAR技術の連動の可能性を中心に同社の原晶洋氏に聞いた。

──AKB48出演ドラマの新聞広告に使われたAR技術というのは、どういったものなのでしょうか。

2月20日朝刊の新聞広告にも掲載された専用ARマーカー (こちらのコンテンツは公開終了のため、再生できません)

  その背景から説明したほうがわかりやすいと思いますが、7月24日にテレビが地上デジタル放送に完全移行する、テレビがデジタルになったらどういうことができるか、これまでの放送形態、視聴スタイル、プロモーション手法にとらわれない新たな取り組みにチャレンジしようということで日本テレビさんが考えた番組がドラマ『桜からの手紙〜AKB48 それぞれの卒業物語〜』でした。その取り組みの一つとして、番組とスマートフォンアプリを使ったARプロモーション展開があり、専用のアプリ制作を依頼されました。

  番組は2月26日から3月6日まで、AKB48のメンバーが総出演する9夜連続、全17話の連作ショートドラマでした。AR展開は、番組を告知する2月20日の新聞広告に最初のARマーカーが掲載されてスタートしました。これにスマートフォンをかざすとARコンテンツ「TNR(てーのーりー)でAKB」が体験できるというものでした。その後、番組放送時間以外にも番組非連動のデータ放送画面にマーカーが掲載され、合計で4人のメンバーのARが見られるようなアプリ制作・配信を手掛けました。番組を連続して見てもらうアイデアの一環としてARが活用されたということなんですね。

ARマーカーとは

──ARマーカーとは、具体的にどういうものなのですか。

  「KART(Koozyt AR Technology)」というクウジットのARテクノロジーが基礎技術になっています。これは、ソニーコンピューターサイエンス研究所で開発された「CyberCode技術」を利用していて、一般的にはARマーカーと呼ばれているものの一つです。
  ARというのは、モニターやカメラに映った現実空間にさまざまなデジタル映像を重ね合わせて、あたかもその場に存在するかのように表示させる技術です。このARマーカーを認識すると、それに紐づいたデータをサーバーからスマートフォンに送ることによって、画像が表示される仕組みになっています。また、ARマーカーを認識するためには、スマートフォンなどの端末にアプリケーションをダウンロードしてもらうことが必要で、クウジットでは「GnG(GET and GO)」という汎用アプリケーションをiPhone、Android両対応で提供しています。

──QRコードと、どこが違うのでしょうか。

  二次元バーコードということでは、基本的には同じです。違うのは、QRコードにはコード自体にデータが含まれていますが、ARマーカーに含まれているのは、サーバーからデータを呼び出すためのID情報だということです。QRコードはリンク先を表示するだけですが、ARマーカーは端末をかざす動作だけで何かが起きる。また、そのARエフェクトが出た後に、シームレスに動画を出したり、ウェブサイトにリンクすることもできます。
  それから、3D表現も可能なので、遠くからARマーカーを読み取れば表示される画像は小さくなりますし、近づければ大きくなる。ARマーカーを回せば、画像も同じように回りますし、透明な素材にARマーカーを印刷して後ろから端末をかざせば、画像も後ろ向きに表示されるようになっています。

──ARマーカーの大きさには意味があるのでしょうか。

  どんな大きさでもかまいません。小さすぎると認識しにくいことはありますが、QRコードのように接写する必要はありません。逆に言うと、ある程度の大きさがあれば、ビルボードや少し離れた駅張りポスターのARマーカーも認識できます。その点もQRコードにはない大きなメリットですね。

ARは演出が大事

──ARマーカーの中の絵や写真というのは?

  ARマーカーの中のビジュアルは自由です。実際に見てもらった方がわかりやすいと思うのですが、図に印刷されたARマーカー(左下のサンプルコード)にGnGをインストールしたスマートフォンをかざすと、中心に描かれたトンボの絵が画面の外に飛び出していくエフェクトが再生されます。そのようなリアルとバーチャルをうまくつなぐ演出が大事なポイントだと思っていますので、ARマーカーのデザインにもこだわりがあります。

──視覚効果が大事だということですか。

  視覚だけでなく、誰かに話したくなるような演出が加わると良いですね。最初に紹介したAKB48の事例の宮澤佐江さん「廊下に立ってなさい」編では、バケツを持って廊下に立たされた宮澤さんが、しばらくして「ずっと、見てたの。」と恥ずかしそうに怒るシーンが採用されました。学校で悪いことをして立たされているときに友だちに覗かれて、はにかむシチュエーションがARで再現されています。ツイッターなどでも「佐江ちゃんに怒られた」というツイートがかなりあったようです。
  同じ日本テレビのキャンペーンとしては、2011年プロ野球中継「Dramatic Game 1844」の番組宣伝でも「GnG」を採用していただきました。この場合は、巨人軍の原監督や選手の背番号をARマーカーにして、端末画面上に各監督・選手の一コマ動画と「がんばろう! 日本」などの応援メッセージが再生されるというコンテンツでした。このARマーカーは、新聞広告のほか球場などで無料で配布されるクリアファイルにも印刷され、球場での応援というリアルな場でのAR体験の提供もお手伝いすることができました。
  それから、ARマーカーはサーバーからデータを呼び出すためのIDですから、広告を出した後にARの内容を変えることができます。たとえば、この広告の場合は背番号とARの内容が紐づいていますから、選手を代えることはできませんが、内容は、後でいくらでも変えられるんですね。

──制作期間はどのぐらいかかるのですか。

  事前に素材がある場合は、最短10日。あらかじめ準備すれば、今日データをいただいて今日公開することも可能です。

4月12日 朝刊「日本テレビ放送網」

マーケティングツールとしての可能性

──こういった企画をする際に心がけていることを教えてください。

  これまでのARというと、「何か出てきたぞ、楽しいな」で終わるものが多かったのですが、我々は常に、実効性のあるマーケティングツールということを意識してつくっています。ARという目新しい技術で注目を喚起することももちろん大事ですが、その後の来店や購買という実際の行動や情報のシェアまでつなげることの方がより重要だと思うんですね。
  この点については、雑誌「GQ JAPAN」(2010年7月号)に掲載したバカルディ社のプレミアム・ウォッカ「グレイグース」のキャンペーンでの活用事例が参考になると思います。
  まず、雑誌に掲載されたARマーカーにスマートフォンをかざすと、ガチョウ(=グレイグース)のエフェクトがボトルから飛び立ちます。その後、自動的にプロモーションビデオが流れ、さらにその後に「グレイグース」がおいしく飲めるバーのリストが出てきます。スマートフォンのGPSの位置情報と連動していますから、自分が今いる場所に近い順で出てくる。そこで、自分が行きたい店をタップすると、お店の詳細が出てきます。近いから行ってみようと思ったら、地図が出てきますから迷うことなく行けるわけです。さらに、行った先のバーに置いてあるARマーカーを読み取ると、今度はグースがボトルに舞い戻ってくる映像が流れるようにしました。

「グレイグース」のボトルとバーなどの協力店に置かれたARマーカー

  最初にグレイグースがボトルから飛び出して、それにいざなわれてバーに来ましたという演出なんですね。この後、「これをバーテンダーに見せてください」というクーポンが出て、そのクーポンと引き換えに、グースをかたどったピックのセットがもらえます。
  この事例のように、ARを関心を持ってもらう入り口にして、バーチャルな空間からリアルな空間に誘引していくための施策として使うというのが、我々が目指していることなんですね。

──ARを見た人のログは取れるのですか。

  広告のARマーカーに何人スマートフォンをかざしたかも、バーのARマーカーに何人かざしてくれたかもわかります。ですから、広告から実行動への誘引率がわかる。ログは、曜日別、日別、時間別、端末別で取れます。

──クルマのカタログにもARマーカーは使われていますね。

  カタログに印刷されたARマーカーにスマートフォンをかざすと、3Dでクルマが画面に浮かんできて、360度から見られるものですね。なぜ実車があるのにわざわざARが必要かとよく言われるのですが、これは、実車の展示が可能な前にお客様にクルマのイメージをつかんでもらいたいというニーズからです。新車発表時点で興味を持った人をひきつけるギミックとしてARが活用されているわけです。
  それから、リビングにソファーを入れたいけど、実際に置くと部屋がどんな雰囲気になるか知りたいというニーズもあると思いますが、それもARならできる。実際の大きさも90数%の精度で再現できます。

“空”と“実”をつなぐ

──GPSの位置情報と連動して、表示する内容を変えることもできるということですが。

  同じ広告を全国に掲載して、広告を見るエリア別に違う情報を流すことも可能です。読者の近くの住宅展示場や車のディーラー、販売店を知らせることもできます。
  「GnG」では位置情報の取得にGPSを活用していますが、Wifi電波を活用し、屋内でも位置情報を取得できる「PlaceEngine」という技術もあります。これを使うと、GPSの電波が届きにくい駅や商業施設の中でも位置情報が取れます。この位置連動型の情報配信システムも、いま構築しているところで、来年から新しいアプリケーションにして展開する予定です。
  3メートルから5メートルの範囲でアプリを立ち上げている人の位置を認識できるので、例えば美術館や博物館なら、部屋ごとに違う解説を流すことができます。その時、スマートフォンの設定言語の情報も取得して、英語、中国語など外国語に自動的に切り替えて表示することもできます。イベント会場に案内するまではGPSで、会場に入ったら「PlaceEngine」を使った情報に切り替えるという使い方が実際的だと思いますね。

──今後はどのような展開を考えているのでしょうか。

  今言った位置情報を活用したサービスと、もう一つはマーカーレスのARですね。例えば、「ojo」というロゴを認識してARを表示することも技術的にはできます。マーカーレスの技術も「GnG」に今後取り入れていく予定です。どちらにしても「使いやすい」「使いたい」と思えるUI(ユーザーインターフェース)を大切にしたいと考えています。
  そういうように、ARというのは、これから試行錯誤する中で可能性が見えてくる分野だと思います。ニュース、スポーツ、小説、映画、音楽と、世の中にあるコンテンツは、今後もそれほど変わらない。ただ、情報の見せ方、接し方、探し方が変わってくるだけです。つまり、体験価値ということが非常に大事になってくる。それをARで実現しようというのがクウジットが目指していることです。実は「クウジット」という社名の由来も、バーチャルの“空”とリアルの“実”をつなげるという意味から来ています。私の肩書の「空実プロデューサー」も、そういう意味なんですね。

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百瀬則子・環境社会貢献部長にインタビュー

キーパーソン

木村健太郎 氏
博報堂ケトル 代表取締役 共同CEO エグゼクティブ クリエイティブディレクター/アカウントプランナー

クリエイティブ

佐々木宏、谷山雅計、箭内道彦が語る「新聞広告を元気にする方法」(前編) —「読売広告大賞」が変わる—
佐々木 宏氏    クリエイティブディレクター
谷山雅計氏    コピーライター
箭内道彦氏    クリエイティブディレクター