iPS臨床問題:指導教官も困惑 信じて「名義貸し」
毎日新聞 2012年10月12日 22時17分(最終更新 10月12日 23時43分)
難病患者を救う未来の「切り札」と期待される人工多能性幹細胞(iPS細胞)が、既にヒトの治療に使われていた−−。この衝撃的な報道は事実だったのか。真偽不明のなか、「治療した」と言う研究者の森口尚史氏との関係が取りざたされる東京医科歯科大と東京大が12日、相次いで記者会見を開いて研究への関与を否定した。ニュースを伝えた報道機関も独自に検証することを表明した。
東京医科歯科大で会見した佐藤千史(ちふみ)教授は、森口氏の大学院時代の指導教官だった。今年8月末、森口氏から電子メールで依頼を受け、森口氏が研究責任者として国際会議で発表する研究概要説明について内容の整合性を確認し、名を連ねることを了承したという。
その際(1)臨床研究についてハーバード大の倫理委員会の承認があるか(2)他の共同研究者の名前が書かれていない−−と指摘。しかし森口氏は「これは論文ではないし、国際会議も大きなものではない。臨床関係者は(名前がなくても)いいと言っている」などと問題がない旨の返信をしてきたので、そのまま了承したという。佐藤教授は「早い段階で気づかなかったという反省はある。論文に出している写真やデータを送ってくるので、信じるしかなかった」と釈明した。
◇「自分の好きでないもの手抜く」
森口氏について、佐藤教授は「自分の好きなものは一生懸命やるが、好きでないものは手を抜く。その違いがちょっと大きかった」と振り返った。
同大は今後、森口氏の論文について「実験は本学で行われたものではないので、彼がどこでどんな実験をやったか、(全てを)検証できるとは思わない」とした。
東京大では12日夜、今回の発表内容について森口氏と共同研究をした東京大の井原茂男特任教授と大田佳宏特任助教が記者会見した。井原特任教授は「あくまで基礎データの解析をしただけで、臨床については関与していない」と困惑した様子で話した。
井原特任教授によると、昨年の9月ごろ「数値的な解析を助けてください」と2種類の細胞の遺伝子データの比較を依頼されたが、体のどこの部位からとった細胞かなども知らされなかった。森口氏から井原特任教授らに論文の草稿などは送られていなかった。