もちろん、いくつかの仮説を組み立てることはできる。たとえば前述したTD-LTEは、いまでこそ世界中のベンダーや通信事業者が参画するようにはなったものの、基本的な技術開発は中国勢を中心に進められてきた。旧ウィルコムのXGPとて、中興通訊(ZTE)等の中国ベンダーが大きく協力して推進されたものである。
このTD-LTEに関する、中国勢との関係を含めた潜在資産を活用して、日米両市場に中国勢への門戸を開き、そのゲートウェイとしての収益を目指すということは、容易に考えられるだろう。実際ソフトバンクを「日本円で買えるアリババ(中国のネット企業)」だと見立てる機関投資家筋も存在する。ソフトバンクと中国の関係は、一般に考えられているより、相当に深い。
ただこうしたシナリオの展開は、今後容易ならざる状況になっていく。さる10月8日、米国議会下院情報特別委員会は、華為技術(Huawei)および中興通訊(ZTE)が、アメリカに対する国家安全保障上の脅威であるとの文書を公表した。サイバー攻撃の過熱も含め、情報通信レイヤーでの米中冷戦が、いよいよ本格化してきた格好である。
この文書が示した見解自体は、様々な角度からの吟味が必要であり、無思考にその内容を受け入れるべきではない。しかしこうした懸念が西側先進諸国を中心に急速に台頭していることは事実である。そして日本が国家として存続する上での、基軸や要諦が、日米同盟にあることは、論を待たない。
このように、単に民間企業の経済活動という枠組みを超えて、国家安全保障の領域まで視野に入れざるをえない状況となる中で、今回のソフトバンクとスプリントのディールを検討しなければならない。そしてこのような動きにNTTやKDDIが追随するとしたら、そこではなおのこと、どのような相手とどのような形で組んでいくのかを、見極める必要がある。
まだディールは進行中であり、ご破算となる可能性も残っている。引き続き状況を注視しつつ、情報通信産業やその周辺にどのような影響を及ぼすのか、十分な検討が必要だ。