買収か、出資か?
ソフトバンクが出資を目指すスプリントとは、概ねこんな会社である。まとめると、規模はそこそこだが、市場での課題も多い。北米市場の消費動向は今後厳しさを増すことが見込まれ、概ねターンアラウンドに近い状況である。
一方、市場の中で似たようなポジションにかつて身を置いていたこと、通信機器メーカーのエリクソンとの関係が深いこと、iPhoneを取り扱っていること、TD-LTEを牽引するプレイヤーであることなど、ソフトバンクとスプリントの間には、接点や共通点も多い。
そう考えると、今回のディールはそれほど突拍子もないわけではないが、前途は多難であり、それこそかつてソフトバンクがボーダフォン・ジャパンを買収した時と同様に、まずはお手並み拝見ということになる。
ところでそもそも本件は、果たして買収(子会社化)なのか、あるいは出資なのだろうか。報道では66%を超える株式を購入する見通しだとされているが、これは買収と考えるべきなのだろうか。
もちろん、一定以上の影響力の行使を目的としていることは、概ね間違いない。経営にも大きく関与していくことになるだろう。ただ、移動体通信事業の本質である通信サービスのインフラは、両者間でそう簡単に統合することはできない。
一つは、現世代(3G)のインフラ規格の違い。ソフトバンクモバイルはW-CDMAだが、スプリントはKDDI等と同じCDMAである。LTEの進展を目指しているとはいえ、両社とも設備投資に潤沢な資金投下ができるほどの財務基盤ではなく、道半ばではある。
また基地局同士を接続して通信事業者としてのネットワークを構成するコアネットワークの統合も、相当難しい。まずもって単純に、日米の間には太平洋が存在しており、海を隔てたコアネットワークの統合は、相当なチャレンジとなるだけでなく、そもそもあまりメリットがない。もちろんこれも不可能な話ではないが、海底ケーブルの調達と運用といった、別のレイヤーの課題が生じることから、両社とも前向きに考えるとは思えない。