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スマートフォンの理想と現実
【第35回】 2012年10月12日
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クロサカタツヤ [株式会社 企/クロサカタツヤ事務所代表]

ソフトバンクが米携帯大手に出資を検討
スプリントとはどんな会社か、その狙いと影響は

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買収か、出資か?

 ソフトバンクが出資を目指すスプリントとは、概ねこんな会社である。まとめると、規模はそこそこだが、市場での課題も多い。北米市場の消費動向は今後厳しさを増すことが見込まれ、概ねターンアラウンドに近い状況である。

 一方、市場の中で似たようなポジションにかつて身を置いていたこと、通信機器メーカーのエリクソンとの関係が深いこと、iPhoneを取り扱っていること、TD-LTEを牽引するプレイヤーであることなど、ソフトバンクとスプリントの間には、接点や共通点も多い。

 そう考えると、今回のディールはそれほど突拍子もないわけではないが、前途は多難であり、それこそかつてソフトバンクがボーダフォン・ジャパンを買収した時と同様に、まずはお手並み拝見ということになる。

 ところでそもそも本件は、果たして買収(子会社化)なのか、あるいは出資なのだろうか。報道では66%を超える株式を購入する見通しだとされているが、これは買収と考えるべきなのだろうか。

 もちろん、一定以上の影響力の行使を目的としていることは、概ね間違いない。経営にも大きく関与していくことになるだろう。ただ、移動体通信事業の本質である通信サービスのインフラは、両者間でそう簡単に統合することはできない。

 一つは、現世代(3G)のインフラ規格の違い。ソフトバンクモバイルはW-CDMAだが、スプリントはKDDI等と同じCDMAである。LTEの進展を目指しているとはいえ、両社とも設備投資に潤沢な資金投下ができるほどの財務基盤ではなく、道半ばではある。

 また基地局同士を接続して通信事業者としてのネットワークを構成するコアネットワークの統合も、相当難しい。まずもって単純に、日米の間には太平洋が存在しており、海を隔てたコアネットワークの統合は、相当なチャレンジとなるだけでなく、そもそもあまりメリットがない。もちろんこれも不可能な話ではないが、海底ケーブルの調達と運用といった、別のレイヤーの課題が生じることから、両社とも前向きに考えるとは思えない。

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クロサカタツヤ[株式会社 企/クロサカタツヤ事務所代表]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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