ただし、5000万件超の契約件数とはいえ、ベライゾンが2億件弱、AT&Tワイヤレスが1億件前後という中で、市場の中での位置づけは厳しい。実際、上位2社が通信料金の定額制を早々にギブアップ「できた」のに対し、スプリントはこの対応が遅れてしまった。スプリントの顧客基盤(とそれを支えるインフラ)が脆弱であり、マーケティングの観点から定額制を放棄できなかったからだと考えられる。
こうした競争環境に加え、CDMA規格の将来的な発展がほぼなくなったことから、スプリントは次世代通信規格のLTEへの移行を進めようとしている。2009年夏には、世界最大の通信機器会社であるスウェーデンのエリクソンと、通信網の運営に関する委託契約に合意した。7年間で最大50億ドルを支払って、通信インフラの敷設や運用の一切をエリクソンに委託し、財務負担も含めてベンダー主導での移行を進めようということである(参考記事)。
こうした施策は、当初「通信事業者のバランスシートを軽くする(財務負担を改善する)もの」として、注目を集めていた。しかしここ数年のスマートフォン普及の荒波は、そうした目論見さえも成立を困難とさせるほどのものであり、結果として経営状況は前述の通り。2012年4-6月期の当期損益は13.7億ドル強の赤字が出ており、財務状況も悪い。インフラの移行も含め、将来的なオプションが見通せない状況に入っていた。
一方、スプリント傘下には、モバイルWiMAXからTD-LTEへの転身を目論む、クリアワイヤという通信事業者も存在する。TD-LTEをごくかいつまんで説明すると、LTEの流派の一つで、中国のベンダーや通信事業者が中心となって開発が進められている規格である。
TD-LTEといえば、日本でも、かつてウィルコムがこの技術と近似したXGPの開発を進めていた。その後ウィルコムが経営破綻の末にソフトバンク傘下となり、現在はAXGPとして展開されている。グローバルTD-LTEイニシアティブという業界団体にも両者とも参加しており、クリアワイヤ社とソフトバンクの距離は、とても近い。