- 10月11日放送
“将来への不安” 若い女性 動かすものは
“将来への不安” 若い女性 動かすものは
シリーズ「プロジェクト2030」。高齢化、単身化が深刻になる2030年に向けて私たちは何をすれば良いのか。
その時、社会を支える若者たちの今を見つめ考えます。
今日のテーマは「夜の接客業やアダルトビデオ業界で働く若い女性たち」です。
夜の接客業やアダルトビデオ業界で働く女性たち、かつては、経済的な事情やいわゆる「スカウト」などでこうした世界に飛び込む女性が多かったということですが、風俗雑誌など業界の関係者から、最近、経済的に困っているわけではないのに自らその世界に飛び込んでくる若い女性が増えていると聞きました。
取材を進めると、その背景には、若い女性の中で、社会や経済について先行きが不透明なことへの不安が広がっていることが見えてきました。
琥珀うたさんはアダルトビデオに出演するAV女優で、2年間に400本のビデオに出演しています。
「人前で裸になる世界に入るって腹くくっているから、文句とかはなかったです。勇気出して入ってきて良かったなとしか思っていない」と言ううたさん、以前は都内の大学に通っていました。
しかし何となく大学生活を送るうち、目的がないまま就職しても、やりがいが見いだせないのではないかと考えるようになりました。先行きが不透明な社会に期待するより、今の自分の若さを最大限に生かすことができる仕事を選ぼうと、大学を中退してこの世界に入りました。
うたさんは時々、一般企業に就職した友人と会って、お互いの仕事について話をしています。
「サラリーマンだから、一発どかんというのはないよ」と話す友人に「頑張ったら頑張っただけ、100%評価される世界でもないでしょ。“頑張った分だけくれよ”って思ったことない?」と返すうたさん。
アダルトビデオの仕事は、自分が頑張って成果が出れば、収入につながります。
うたさんはこの世界に入る選択をしたことは、間違っていなかったと確信し始めています。
「私がもしOLになりたくて頑張るって思ったら、たぶん出来るけど、みんなもやっているからやるみたいな感じになると、モチベーションが自分で保てるのかなと思う」。
売れっ子のAV女優となり、自分の評価を実感できるようになったうたさん。
しかし18年後の2030年については、想像出来ず不安もあるといいます。
「2030年・・・希望はこの世界にいたいですね。現実にはたぶん引退もしているだろうし・・・わかんない」と首をかしげます。
夜の世界の仕事に触れ、将来の進路について悩み始めた女性もいます。
六本木のキャバクラで働く、愛咲蘭さんです。
蘭さんは、都内の音楽大学に通う4年生。
音楽関係の就職を希望していますが、今の景気などの現実を知ると、就職出来たとしても安定した生活をしていけるか、不安になってきました。
蘭さんは「音楽系に進めたら一番嬉しいんですけれど、現実的に考えたら難しいかって思ってます。まずピアノの職がもともと少ないですし、頑張ってもお給料が少ないので」と不安げです。
蘭さんは週に5日、キャバクラに出勤しています。
学業と時間的にも両立出来る、高収入のアルバイトという気持ちで始めました。
キャバクラは、いかに指名客を獲得するかが勝負。
自分を魅力的に見せることが、指名の数に直結します。
努力を続けると、期待以上の収入が得られるようになりました。
時給制のアルバイトや、固定給の仕事とは違う、夜の接客業の魅力でした。
しだいに蘭さんは、音楽関係の就職をしたいという決意が揺らぐようになりました。
大学卒業まで4か月。
その後もキャバクラで働くかどうか、考えるほどになっています。
「ずっと夜続けていくって決めたら抜け出せなくなりそうだし、婚期も逃しそうだし、昼間に行ったら行ったで、金銭面が、っていうのもあるし・・・」と迷う蘭さん、「どっちを取っても先は見えない。できるときにやるしかないし、いまのうちから貯金をして、自分は自分でしか守れないから」と悩みは切実です。
取材にあたった首都圏放送センターの平間一彰記者は「2人を見ていると、今を生きたいということよりも、今を生きるしかないという考えを持っていると思います。2人が身を置いている世界は、頑張っただけ収入も増えるという魅力もありますが、逆に言うと頑張らなければ生き残っていくことが出来ないという、厳しい勝負の世界とも言えます」。
「それでもその仕事を選択しようということは、「将来がとても不透明で不安だ」ということの裏返しなんだと思います。だからこそ「今の自分はどうするか」を考えるようになっているわけです。2人とも、この仕事をいつまでも続けられるとは当然思っていないし、いつかは引退の時期が来る。なのでその先の人生を不安に思っています」。
「ただ、以前は卒業して就職、会社の中では昇進して給料が上がっていく。または結婚して家庭を持つなど、将来像が何となく予想できる時代だったと思うんです。しかし今は将来像が見いだせない、または信じることが難しい時代になっています」。
「取材した2人はそれぞれの進む道を前向きに見いだしていますが、不透明な将来像によって若い人たちがやる気を失ったり進路選択の幅を狭めたりすることがないような社会を作っていく必要があると感じました」。