もう一人の八神 (リリック)
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memory:27 覇王と影

-side other-

夜の街に影二つ。
ノーヴェと謎の女性が対峙した。

「貴方にいくつか伺いたい事と……確かめたい事が」

街灯の上に佇む女性の顔はバイザーに隠れて見ることができない。

「質問すんならバイザー外して名を名乗れ」

「失礼しました」

街灯から着地、謝罪、バイザーを外す、を一連の動作で行う女性。

右目が紺、左目が青の虹彩異色の瞳、それに加え碧銀の髪。
それらは古代ベルカの王の一人の特徴と酷似していた。

「カイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。『覇王』を名乗らせて頂いています」

覇王……それを聞くなり、ノーヴェの頭にチンクと悠莉の言葉が脳裏によぎった。

「……お前が噂の通り魔か」

「否定はしません」

そう受け取っても構わないといったように答えるイングヴァルト。

「伺いたいのは、あなたの知己である"王"達についてです。聖王オリヴィエの複製体(クローン)と冥府の炎王イクスヴェリア」

イングヴァルトの放つ言葉にノーヴェはカッとなったが、その怒りを自身の中に留めようとした。

彼女が言うように、ノーヴェはその二人のことを知っている。
それに数時間前に一緒にいた。 

「貴方は両方の所在を知っていると……」

だが……

「知らねえな」

なんせ、ノーヴェが知る二人は、

「聖王のクローンだの、冥王陛下だのなんて連中と知り合いになった覚えはねえ」

いつだって前向きで、なんにでも一生懸命な少女。
初めてできた家族に、兄に十分に甘えている少女。

「あたしが知ってんのは、一生懸命生きてるだけの普通の子供達だ!」

うちに溜めた怒りを乗せ、啖呵を切るように叫ぶ。

「―――理解できました。その件については他を当たるとします」

イングヴァルトは一つ頷いた。
ただ、ノーヴェの言葉をどう理解したのかは表情からは読み取れない。

「ではもう一つ確かめたい事は……」

自らの拳を胸元で固く握りしめ、

「あなたの拳と私の拳、いったいどちらが強いのかです」

真っ直ぐノーヴェを見つめ返した。

「防護服と武装をお願いします」

「いらねえよ」

イングヴァルトの言葉を切り捨て、構えをとる。

次の瞬間、ノーヴェは姿を消し、二人の影は一つになっていた。

一瞬で距離を詰めたノーヴェは膝蹴りを撃ち込む。
腕で防がれるが、更にその上から電気を纏った拳を叩きつけた。

これで終わればよかったのだが、そうはいかなかった。

イングヴァルトは不意打ち気味の攻撃を正面から耐えきり、立っていた。

「(ち……あたしとしたことが怒りでこいつの実力を見誤った)」

見かけだけで判断してしまった自分に舌打ちしたノーヴェは頭を切り替えて落ち着かせる。
そしてポケットを漁って愛機を取り出し、

「ジェットエッジ」

バリアジャケットを展開した。

「ありがとうございます」

「自分とあたしの拳のどちらが強いのか知りたいと言っていたな。お前が襲ったやつらもその理由でやたのか?」

「その通りです。まだ見えぬ己の実力を知り、今よりもっと強くなりたい」

イングヴァルトは自分の内に秘めた思いを込めて言った。

「強くなりたいのなら真面目に練習するなりプロの格闘家目指すなりしろよ」

イングバルトは諭すように話しかけるノーヴェの言葉にただ耳を傾ける。
 
「単なる喧嘩馬鹿じゃないことはお前の言葉でわかったが、ストリートファイトなんてもうやめとけ。ジムなり道場なりいい所紹介してやっからよ」

だが、ノーヴェの言葉に首を横に振った。

「ご厚意、傷み入ります。ですが、私の確かめたい強さは―――生きる意味は―――表舞台にはないんです」

イングバルトは構えをとった。

「(この距離で構えた? 一体なんだ……?)」

次の瞬間、イングヴァリアはその場から消え、ノーヴェの眼前に迫っていた。

「(突撃(チャージ)!!)」

ギリギリで右ストレートを避ける。

「(速い!? 違う歩法(ステップ)!)」

反撃に転じる初めの一撃としてイングヴァルトに拳を放つが、懐に潜り込まれ、重い一撃がノーヴェの腹部に突き刺さった。

「が……ッ!」

肺から空気が漏れる。
連撃をもらうのはまずいと判断し、イングヴァルトの攻撃に身を任せて距離をとった。

「列強の王達を全て斃し、ベルカの天地に覇を成すこと。それが私の成すべき事です」

ピクッ。
イングスヴァルトの言葉に抑えていた先ほどの怒りが反応する。

「寝ぼけた事抜かしてんじゃねぇよッ! 昔の王様なんざみんな死んでる! 生き残りや末裔たちだってみんな普通に生きてんだ!! テメェの我が儘で他人を巻き込もうとするなっ!!」

怒りに任せて叫びながら猛攻するノーヴェ。
拳が、蹴りが、互いにぶつかり合い、三度両者の間に距離ができた。

「それでも…私は進み続けます。そして、弱い王ならこの手でただ屠るまで」

次の瞬間、魔力が一気に膨れ上がった。

「この…バカったれが!!」

何もなかった空間に黄色い魔力が溢れ、弧を描くような一本道を作りだす。
そしてイングヴァルトをバインドで拘束する。

「ベルカの戦乱も聖王戦争もッ!ベルカって国そのものも!!」

その上を全速力で走るノーヴェ。

「もうとっくに終わってんだよッ!!」

目指すはイングヴァルトの眼前。

そして、

―――リボルバー・スパイク

渾身の一撃を放った。

-side end-

-side 悠莉-

風呂上り、火照った体を冷ますべく潮風を感じていた。

「あーあ、こりゃダメだ。ノーヴェさん完全に血が頭に昇ってる」

エアライナーを展開後、自称『覇王』にリボルバー・スパイクを撃ち込んだ。

「『覇王』も無茶するね。肉を切らせて骨を断つとは言うけど、これはいくらなんでもありえない」

バインドを力ずくで引きちぎり、防御を完全に棄ててのカウンターバインド。
そして、足先から練り上げた力を右拳に込めたそれはを振り下ろされた。

―――覇王断空拳

「……ノーヴェさんの負け、か」

ノーヴェさんとの別れ際に放っておいたウヌースたちを通して、ノーヴェさんと自称『覇王』の様子をリアルタイムで覗いていた。

影ウサギたちを放っていたのは、何かがありそう、といった予感めいたものをどことなく感じたからで、正直な所、それほど大きな理由は特にない。

「それにしてもイクスとヴィヴィオを屠る、だっけか。今すぐにでも殴りに行きたいけど……」

ノーヴェさんがキレてくれたおかげである程度落ちついていられた。

「ご先祖様とはいえ、他人の記憶に縛られるなんて、こんなにも苦しいことはないよな」

故人の願いを叶えるためになんて可哀そうとしか言えない。
彼女に対する想い……結局は同情になってしまうのか。

「とはいえ、そんな呪縛から彼女を解き放つにはノーヴェさんが、ヴィヴィオが適任なんだよな。二人と関わって、いい方向へと彼女が変われることを願うばかりだね」

……しっかし、このまま逃がすのはいただけないかな。
これ以上こんなことしてほしくはないし……仕方ない、ノーヴェさんが何かを仕込んでいるようだったとはいえ、こっちも接触するかね。

-side end-

-side イングヴァルト-

体を休めるために一度戻ろうとした時、コツン…コツン…と足音が近づいて来る。
辺りを見渡しても何も見えない。
けれど、夜の街に響く足音は次第にその音を大きくして、ゆっくりと何かを視覚できるようになり始めた。

暗闇の中から浮かび上がって来たのは一人の少年…少女? どちらかよくわからない。
見た目から歳は私と同じくらいだろうか。

寒色系の服装で辺りと同化しているため、はっきりとはわからないが、おそらくこの人は……強い!
私の本能がそう叫ぶ。

「あなたは一体……っ」

私の質問に答える様子はなく、ただジッとこちらを伺うだけ。

「……用がないならそこをどいてください。私は行かなければならないので」

戦ってはみたい、ですが先ほどのノーヴェ・ナカジマさんの一撃が効いてきている。
この体は強いはずなのに……私の心が弱いから……

そんなことを考えていると相手が構えを取った。

……っ、どうやらやらなければいけないようですね。

こちらも同じように構えを取る。

「……行く」

声が聞こえたと同時に相手の姿がぶれた。

「……っ!」

危険!

頭で考える前に咄嗟に体が反応するままその場から離れた。

刹那に遅れて先ほどのいた所に相手の足が蹴り穿たれていた。

しかしそれで終わることはなく、今度は全身をしならせるようにして、ムチのような蹴りを放たれる。
それにどれだけの威力が込められているのか、重い風切り音が耳に届いた。

蹴りの次はパンチやら掌、肘打ちや膝蹴りなども出してくる。

「はあっ!」

防ぎ、避け続けるわけにもいかず、短期戦に持ち込むべく一気に攻め立る。

しかし、

「……隙、だらけ」

「っ!?」

いつの間に!?

気付けば影のように私の動きを合わせ、背後をとっていた。

「……これで、終わり」

刹那、衝撃が襲い、私は意識を失った。

-side end-

-side other-

「……これ、どうしよう」

無表情で倒れた相手を見下ろしながら呟く。

「姿、変わった。魔法、解けた? これ、本当の姿?」

見下ろされたイングヴァルトの姿は、先ほどの大人の姿ではなく少女のものへと変わっていた。

「目、覚まさない。もしかして、やり過ぎた? マスタ、怒る?」

無表情が少し解け、辛そうなものに変わる。

「……でも、報告、しなきゃ」

マスターと呼ぶ人へ通信を繋げた。

「マスタ、終わった」

『うん、お疲れ様―――ニヒル』

画面越しに労いの言葉をかける少年―――悠莉。

「ごめんなさい、やり過ぎたかも」

『それなら大丈夫だと思うよ。ノーヴェさんとのダメージがあるだろうし、見た感じ疲れて眠ってる。それに、ニヒル、君を操っていたのは私なんだから気にしなくてもいいのに』

「それでも、やったの、私、だから」

そう言うニヒルに優しく微笑んで「ありがとう」と伝える。

『ニヒル、もう少ししたらスバルさんかティアナさんがそっちにくるから、それまで覇王のことお願いしてもいい?』

「……護衛?」

『うん。お願いできる?』

「わかった。がんばる」

それから程なくして、ティアナがやって来た。

-side end-


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