弁護団の提言「命の救済と3兆円医療費削減のために」
1 緊急に解決すべき政治課題
薬害肝炎訴訟において、司法はすでに、東京地方裁判所、大阪地方裁判所、福岡地方裁判所において、「薬害」としてのC型肝炎感染に対し、3度国の法的責任を認めました。
C型肝炎・B型肝炎は血液を介して感染する医原病であり、国の血液行政の誤りによって、C型肝炎・B型肝炎の感染者が推計350万人に拡大したのです。
とりわけC型肝炎は、肝硬変・肝がんに進展する進行性・致死性の病です。
従って、薬害被害者および肝炎患者救済のためには、次の2点が緊急に解決すべき政治課題です。
(1)薬害肝炎問題の早期全面解決
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(2)ウイルス性肝炎(C型肝炎・B型肝炎)患者への治療費支援
(特にインターフェロン治療費)
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血液製剤による肝炎患者数 1万人(製薬企業推計)
現在の薬害肝炎訴訟の原告数 160人
薬害肝炎感染の被害は、その被害が放置されてから既に20年〜40年が経過し、その間、被告製薬企業の推計でも、約1万人が感染したと言われています。
他方、薬害肝炎訴訟の原告数は、わずか160名にすぎません。
それは、感染被害が放置された結果、被害者の9割以上は、血液製剤の投与を確認できる医療記録が廃棄されてしまったからです。
つまり、薬害による肝炎患者のうち9割は、裁判では救済されません。
3 ウイルス性患者の被害状況
B型肝炎感染者 120〜150万人→慢性肝炎患者10万人
C型肝炎感染者 200〜240万人→慢性肝炎患者50万人
C型肝炎の感染については薬害肝炎訴訟判決が、B型肝炎の感染については集団予防接種最高裁判決が、ウイルス性肝炎感染について国の法的責任を認めています。この背景には、国の血液行政の誤りが指摘されています。
すなわち、ウイルス性肝炎患者は血液行政の誤りによる被害者です。
一人あたりのインターフェロン治療費自己負担額 80万円
インターフェロン治療を必要とする患者数 60万人
○自己負担額を0円にすると
80万円 × 60万人 = 4800億円の医療費投入
○インターフェロン治療効果による肝硬変・肝がん患者が減少
医療費削減の試算額 約3兆円
現在、年間3万5000人の患者が肝癌で死亡し、その8割がC型肝炎ウイルスが原因です。肝癌の好発年齢は60歳前後であり、今まさに感染率の高い年代が肝癌好発年齢に突入しようとしています。
ところで、この肝癌発生頻度は、インターフェロン治療によって2分の1に減少し、更にウイルスが排除されれば5分の1に減少します。
現在、インターフェロン治療の必要な患者数は約60万人と言われています。
しかし、現在、インターフェロン治療を受けられるのは、わずか約5万人。
医師がインターフェロンを推奨したにもかかわらず4割以上の患者がこの治療を断っています。その大きな原因は、自己負担額(3割)が約80万円と、高額な治療費負担が求められるからです。
ところで、IF治療が普及することによって肝硬変・肝癌が減少し、患者100万人あたり約3兆円の医療費削減が期待できるとの熊田博光医師(虎ノ門病院分院長)の報告があります。
すなわち、もし、インターフェロンの公費助成により、自己負担額が0円となれば、4800億円(80万円×60万人)の医療費投入により、命の救済と3兆円の医療費削減が実現できるのです。
恒久対策・インターフェロン療法に対する助成要求に関する弁護団の提言の詳細は、下記のアイコンをクリックしてご覧ください
【参考文献 ― 概要はこちら】
- 「C型慢性肝炎に対するIFN療法の費用効果分析−活動性投与と非活動性投与の比較−」:飯野四郎(聖マリアンナ医科大学内科学・臨床検査医学(※当時))外:医事新報3870(平成10年6月27日)
- 「C型慢性肝炎に対する戦略インターフェロン療法の社会経済的評価」:森口尚史(医療経済研究機構):医療経済研究(1340-895X)3巻
Page169-179(1996.12)
- 「HCV検査判定と肝細胞がん死亡抑制に関する研究」:三原修一(日本赤十字熊本健康管理センター):共済エグザミナー通信第14号4.2004
- 「C型肝炎の医療経済」:井上祐二(山口大学医学部付属病院医療情報部)外:Geriat.Med.42(5):593〜598、2004
- C型肝炎ウイルス感染の自然経過モデルとαインターフェロン療法の経済効果
(The Natural History Model of Hepatitis C Virus Infection and the Economic
Evaluation of Alpha Interferon Treatment) Author:HayashidaKenshi(京都大学
医学研究科 医療経済学), NagasueIchiro,FukudaTakashi, GunjiAtsuaki Source:
Journal of Epidemiology(0917-5040)12巻1号 Page22-32(2002.01)
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文献の概要について
- 飯野四郎(聖マリアンナ医科大学内科学・臨床検査医学(当時))の「C型慢性肝炎に対するIFN療法の費用効果分析−活動性投与と非活動性投与の比較−」(平成10年)では、IFN療法に関し社会全体の立場で費用効果分析を行っているところ、質で調整した生存年を効果として、費用と比較して分析を行い、3パーセントの金利による割引計算を行っても、行わなくても、IFN投与のほうが、非投与と比較して費用対効果に優れると結論付けている。
- 森口尚史・医療経済研究機構調査部長は「C型慢性肝炎に対する戦略的インターフェロン療法の社会経済的評価」(平成6年)において、「100万人のC型慢性肝炎患者に対する、最適治療戦略に基づくIFN療法は、2.9〜4.8兆円の医療費削減効果をもたらす。」と結論付けている。
- 三原修一・日本赤十字社熊本健康管理センターは「HCV検査判定と肝細胞がん死亡抑制に関する研究」(平成16年)において、平成14年から実施されているHCV抗体検査の費用効果を論ずるとともに、IFNによる医療費の削減についても論じている。
三原は、従来のHCV抗体検査に、HCV−RNAを組み合わせたHCV抗体検査は、精度の面でも、費用の面でも優れた検診方法と考えられる、1万人対してHCV抗体検査を行い、調査結果をあてはめると、約300人のHCV陽性者を認め、HCV陽性者中慢性肝炎である120人のうち、ウイルス量、ウイルス株、肝炎の病期の要素から選択された約40%にIFN療法を実施すると、約5億円強の医療費削減効果が期待できることになるとしている。
- 井上祐二・山口大学医学部付属病院医療情報部は、「C型肝炎の医療経済」(平成16年)において、インターフェロン単独療法について、(1)日本の状況をふまえた解析においても費用対効果が実証された、(2)インターフェロンやリバビリンの初期の導入費用が高価であっても、それによって防ぐことのできる将来の合併症や病気の進展と重篤化に伴って高騰する医療費の節減によって、生涯医療費の全体でみると容易に相殺される、1b高ウイルスの症例においても、併用療法が費用対効果に優れることが実証された等と論じている。
- C型肝炎ウイルス感染の自然経過モデルとαインターフェロン療法の経済効果(The Natural History Model
of Hepatitis C Virus Infection and the Economic Evaluation of Alpha
Interferon Treatment) Author:HayashidaKenshi(京都大学 医学研究科 医療経済学),
NagasueIchiro,FukudaTakashi, GunjiAtsuaki Source:Journal of Epidemiology(0917-5040)12巻1号
Page22-32(2002.01)において、(1)一般に慢性肝炎に対するインターフェロン治療は、日本において経済的ベネフィットがある、(2)インターフェロン治療を若い間に受ける方が、より経済的ベネフィットは大きい、としている。