ネット殺人予告:PC遠隔操作 「成り済まし」疑い、専門部署が事前に注意−−大阪府警
毎日新聞 2012年10月10日 大阪夕刊
大阪市のホームページ(HP)に無差別殺人予告を書き込んだとして逮捕、起訴されたアニメ演出家の北村真咲被告(43)が釈放された問題で、大阪府警内部では逮捕前からウイルス感染による「成り済まし」を疑う声が上がっていたことが、捜査関係者への取材で分かった。府警のサイバー捜査の専門部署は、第三者による遠隔操作の可能性を想定して捜査するよう注意喚起していたが、捜査1課はウイルス感染を見抜けずに逮捕に踏み切っていた。【武内彩、三上健太郎】
捜査関係者によると、府警内部では、サイバー犯罪を専門とする捜査員らの指摘で、遠隔操作による「成り済まし」事例が他府県警であったことが認識されていた。北村さんも「身に覚えがない。パソコン(PC)を乗っ取られたようだ」と一貫して否認しており、捜査1課は多数のウイルス検索ソフトを駆使してPCを調べたが、新種ウイルスを見つけることはできなかった。
府警は、北村さんのPCが大阪市のHPにアクセスした記録を確認。その履歴がPCから削除されたことも解析。書き込み時間帯に北村さんが自宅におり、PCの電源が入っていたことも分かった。さらに、北村さんだけがロックを解除して接続できる無線LANが使われていたことなどの客観的な証拠から府警は北村さんの関与が濃厚と判断した。
◇立件ハードル高く
過去に相次いだ冤罪(えんざい)事件を受け、刑事司法の現場では自白偏重主義を改め、客観的な証拠の積み上げを重視する流れになっている。しかし、客観証拠の評価を誤れば、今回のような問題が生じる。膨大な電子データや通信記録を分析する必要があるサイバー犯罪捜査の立件のハードルは今後、相当高くなるだろう。
何者かに遠隔操作された北村さんのPCは、脅迫文を書き込んだ後にウイルス自体と書き込み履歴が削除されていた。まるで、北村さんが履歴を消去して証拠隠滅を図ったようにみえる。ウイルスを仕込んだ人物は、北村さんが捜査対象になることを想定し、容疑性を高める巧妙な細工をしていた疑いがある。「証拠」上は、北村さんの容疑性が際立つ結果となった。
北村さんは「PCが乗っ取られたようだ」と一貫して否認していたが、大阪府警はPCや通信機器に残された客観証拠を積み上げて逮捕した。今回の問題は、客観証拠を十分吟味して適切に評価することに加え、動機や背後関係などの徹底捜査が必要なことを示している。【服部陽】