<科学ニュース> 遺伝子傷つけずヒトiPS細胞作製の報道と論文について
テーマ:ブログ<朝日新聞の記事から>
iPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製で、京都大の沖田圭介講師、山中伸弥教授らは、安全性を高めるためにウイルスを使わず、細胞の染色体に傷がつかない方法を開発した。2009年に米国で開発されたDNAを使う方法を改良し、効率を高めた。米科学誌ネイチャーメソッズ電子版に4日発表する。
米グループは、iPS細胞に必要な遺伝子を、染色体の外で複製する特殊なDNAに組みこむ方法を開発した。沖田講師らはこの方法を使い、組みこむ遺伝子の種類の組み合わせを変えたところ、ウイルスを使う方法よりは効率が低いが、米グループの方法より効率が上がったという。
京都大は、拒絶反応にかかわる遺伝子を調べ、多くの人への移植が可能になるタイプの遺伝子をもつ人の歯髄から、この方法でiPS細胞を作製した。日本人の2割に拒絶反応が起こりにくいと期待されるiPS細胞ができたという。
<読売新聞の記事から>
様々な細胞に変化できる人のiPS細胞(新型万能細胞)を、従来の約30倍の効率で作製することに、京都大の山中伸弥教授と沖田圭介講師らが成功した。がん化する危険性も軽減できる手法だという。
科学誌ネイチャー・メソッド電子版に4日、発表する。
iPS細胞は、普通の細胞に特殊な遺伝子を加えて作る。遺伝子の運び役として山中教授らは最初にレトロウイルスを使ったが、染色体を傷つける恐れがあることがわかった。
そこで、染色体を傷つけず、細胞内で短期間に分解される「プラスミド」というリング状のDNAに、四つの遺伝子を運ばせて、iPS細胞を作る手法が開発された。
た だ、従来の手法は、体細胞10万個当たりで得られるiPS細胞が0~2個と、作製効率が低いのが難点だった。そこで、様々な遺伝子を組み合わせて実験を繰 り返した結果、「L―MYC」など六つの遺伝子をプラスミドに運ばせると、10万個当たり平均で30個のiPS細胞ができた。これまで使われてきたがん遺伝子の一種は使わなかった。
得られたiPS細胞を神経細胞や網膜の細胞に変化させることにも成功した。
コメント;
大震災と原発事故のおかげで、明るい「科学の話題」が消滅していた昨今。
いつものiPS細胞ネタとはいえ、「新鮮」に思える。
OCT3/4とp53shRNA、Sox2とKlf4、L-MycとLin28をEBNA1/OriP plasmidで導入されている。
確か、3月始めの日本再生医療学会にて、話されていたものだ。
ただ、今回使用されたL-Mycは、c-Myc使用よりは、ずっとましな「がん遺伝子」ですが・・・。また、p53shRNAでp53を抑制してるから、ヒトiPS細胞樹立効率の向上に繋がったのでしょう(ただ、あんまり、安全性の観点からは、良くはないけどね。)
あと、論文中には、この方法で創られたヒトiPS細胞(エピソーマル・ヒトiPS細胞)のクローン7つ中の5つからは、20継代までで導入遺伝子が無くなったけれど、残り2つのクローンでは、導入遺伝子が染色体中に導入されていることもわかったとある。
あれ? じゃあ、まだ30%程度は、不完全なわけね(この方法だと、もうちょっと、マシかなと期待したが、まあ更なる精進が必要だということになるな)。全体的に、長期の安全性については、これから評価しなければならないと思う。
「ただちに」、このヒトiPS細胞を移植された免疫不全マウスの健康に被害は生じませんが、長期の安全性は、まだわかりません。ましてや、ヒトでの安全性は、まだ、これからです。
これ・・・なにやら、最近の原発事故問題のケースと言い方が似てますね・・・。
なお、論文の著者欄を見たら、神戸の理化学研究所の高橋先生らの名前も入ってたので、
もしかしたら、今回の手法で樹立されたヒトiPS細胞で世界初の臨床研究って、ことになるのでしょうね。
「得られたiPS細胞を網膜の細胞に変化させることにも成功した。」と、上の記事にも、あるし。
慎重に臨床研究を進めてくださいませ(関係者は、十分、わかっておられるが)。