こちらの意見書がよくまとまっています。勉強がてら、いくつか意外な事実・論点を抜粋。
生活保護問題対策全国会議 – 10月10日、〈「生活支援戦略」に関する厚生労働省案に対する意見書〉を発表しました。
低年金・無年金の高齢者の増加
(太字加工は僕が加えています)
しかし,1980年から2009年の年齢別被保護人員の推移で見ると,大きく割合を増加させているのは60歳代と70歳以上の高齢者である(27%→52%)。これに対し,40代までの若い層はむしろ,その割合を大きく減じている(59%→33%)。
すなわち,生活保護受給者増加の最も大きな要因は,高齢化の進展にもかかわらず,年金制度が不備なため低年金・無年金の高齢者が増えていることにある。したがって,まず検討されるべきは,高齢者の貧困化に対応できる年金制度の拡充(最低保障年金の創設等)であるが,厚労省案は,全くこの点に言及していない。
これ意外と指摘されていない論点だと思います。ちょっと調べてみたところ、実際に低年金・無年金者は数として増加していく傾向にあるようです(例えばみずほ総研PDFレポート)。「働けるのに生活保護を受ける人が増えている」という問題意識が通底しているように感じますが、実はそれは論点をすり替えているだけ、ということなのでしょう。
「働けるのに生活保護を受ける人が増えている」?
ちょっと長いですが、引用させて頂きます。
厚生労働省案は,「働けるのに生活保護を受ける人が増えている」という認識を前提に,これらの人を厳しく追い立てることによって就労自立させるというコンセプトに基づいている。これは,いわゆる「その他世帯」が増えていることを根拠としている。
しかし,「その他世帯」の世帯員のうち約半数は60代以上と10代以下であり,そもそも「働ける人」ではない。いわゆる働き盛りの20代から40代は「その他世帯」の3割弱しかいない。また,「障害者世帯」「傷病者世帯」は,「①世帯主が②働けないほどの重い障害や傷病をもっている世帯」なので,「その他世帯」の中には中軽度の障害や傷病を抱えている人が多く含まれている。そのうえ,「その他世帯」の人のうち約3分の1は既に働いている(以上,日弁連パンフレット「Q&A今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?」)。
したがって,「働けるのに漫然と生活保護を受けている人が増えている」という前提認識自体に誤りがある。就労指導を単純に強化・厳格化することによって単純に一般労働市場において就労自立できる人が増えるということはあり得ない。
「生活保護を受給しているのは、働けるのに働かない人たちだ」というのは偏見にすぎない、という話。また、提言の中では「何をもって「明らかに就労の意思のない者」と判断するかの基準が不明確である」という指摘もなされています。
そもそも「働ける」って何なんでしょうね。「働けるのに働かない」という糾弾の裏には、仕事を選ぶ自由を剥奪しようとする意識を嗅ぎ取ってしまい、僕は反射的に嫌悪感を抱きます。生活保護を受けるすべての人は、それが誰もが嫌がるような仕事であれ、やらなければならないんでしょうか?僕はそうは思いません。
0.4%にすぎない「不正受給」と、大きな「漏給」問題
しかし,不正受給が占める割合は,金額ベースで0.4%弱で推移しており,この間,生活保護利用者が悪質化している事実はない。むしろ,生活保護を利用する資格のある人のうち実際に利用している人の割合が2,3割しかおらず,全国各地で餓死,孤立死,自殺が相次いでいる。
日本の生活保護受給率は人口比で1.6%で他の先進国(ドイツ9.7%,イギリス9.3%,フランス5.7%等)に比べて異常に低い。GDPに締める公的扶助(生活保護)費の割合も日本はわずか0.5%で,OECD平均(3.5%)の7分の1というレベルである(以上,前掲日弁連パンフレット)。
このように,現代日本においては,「不正受給(濫給)」よりも「受給漏れ(漏給)」の方が規模の上では深刻な問題なのである。
漏給の問題に関しては、長らく指摘されています。
書籍「反貧困」には「日本では生活保護基準以下で暮らす人のうち、実際に生活保護を受けている人たちの割合(「補足率」)は15〜20%といわれる。計算上では、600万世帯・850万人の生活困窮者が生活保護から漏れている。」なんて記述も。
この補足率が変わっていないとすれば、現在、生活保護水準以下で暮らす人は1,000万人を超えていてもおかしくないと考えられます。対して不正受給は2010年度で25,355件。1,000万人規模の漏給と、2.5万件の不正受給という数字は抑えておきたいところです。
こちらの提言、まだ全文を読めていませんが、中身も読む価値がたっぷりある感じです。生活保護問題に関心がある人は、ぜひ時間を取って読んでみてください。
生活保護問題対策全国会議 – 10月10日、〈「生活支援戦略」に関する厚生労働省案に対する意見書〉を発表しました。
僕自身もフリーランスなので、来月から生活保護を受給するようになってもおかしくはない身分です。事故や病気に遭う可能性を否定できる人はいないと思います。生活保護問題、セーフティネットの問題は、「自分が受給する立場になるかもしれない」という当然の理解をもって考えていくべきでしょう。
貧困問題を知るならこの一冊がおすすめ。
生活保護関連で面白そうな本。未読なのでポチりました。