iPS初の臨床応用 米ハーバード大の邦人講師ら、心筋作り移植
2月に実施の男性回復
【ニューヨーク=共同】重い心不全患者の肝臓から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作り、心筋細胞に成長させて移植する治療を今年に入って六人の患者に実施したと、米ハーバード大の森口尚史客員講師が10日明らかにした。
【関連記事】〈解説 iPS初の臨床応用〉 安全性の検証不可欠
今年のノーベル医学生理学賞受賞が決まった京都大の山中伸弥教授が2007年に人間の皮膚からiPS細胞を作って以来、臨床応用は世界初とみられるが、専門家は内容の検証が不可欠と指摘している。森口講師らによると、今年2月に初の移植を受けた34歳の米国人男性は回復し、経過を見守っているが、現状では異常は出ていないという。
米国人男性は09年2月に肝臓がんのため肝臓移植を受けたが、今年2月に心臓から血液を送り出す力が弱まる虚血性心筋症となった。
摘出後に保存してあった男性の肝臓組織から、肝細胞になる手前の前駆細胞を取り出し細胞増殖に関わるタンパク質や薬剤を加えてiPS細胞を作製。これを心筋細胞にして増殖させた上、弱った心臓の約30カ所に特殊な注射器で注入した。
拒絶反応やがん化などの兆候はなく、心機能が徐々に回復して10日後にはほぼ正常になった。
山中教授が開発した手法は4種類の遺伝子を入れるものだが、それを改良したという。
森口講師は「これからは治療の有効性と安全性を高めていく必要がある。現状では費用が高くなる可能性があるので、患者の経済的負担にならないように考えなければならない」と話している。
日本ではiPS細胞から網膜の細胞を作り、加齢黄斑変性という目の病気の患者に移植する治療の準備が進められている。
コメントできない
京都大の山中伸弥教授の話 科学誌に論文として掲載される前に報じられたため、詳細が不明でコメントできません。
スピード上げたい
森口尚史・米ハーバード大客員講師の話 患者さん由来の心筋細胞を患者さんに戻して成功させたという意味では非常に意義深いが完璧な治療法かといえばまだまだだと思っている。他の医療でも100パーセントの有効性や安全性の担保はないが、われわれはそれに向けて一生懸命やるのが仕事。米国でわざわざやっているのは臨床(面)のスピードを上げたいから。効率的に進め日米共同治験くらいには持っていきたい。
iPSか検証必要
澤芳樹・大阪大教授(心臓血管外科)の話 肝細胞の前駆細胞は心筋細胞に分化し得ることは知られている。移植細胞がiPS細胞のように成長できる能力を持っていたかどうかは不明で、今回の研究が実際に行われていたとしても、iPS細胞の臨床応用と言えるかどうか疑問だ。患者は回復したとのことだが、事前に心臓バイパス手術を受けているならば手術が成功しただけかもしれない。検証の余地が多い研究だ。
iPS細胞 体を構成するさまざまな組織の細胞になる能力と、ほぼ無限に増殖する能力を持つとされる万能細胞。山中伸弥教授らが特定の形や機能を持つまで成長した皮膚や血液などの細胞に特定の4遺伝子を入れ、いったん獲得した特徴を消し去る「初期化」によって、作製に世界で初めて成功した。その後、別の遺伝子を組み合わせる方法に加え、タンパク質や薬剤でも作る研究が進んできた。目的の細胞を作り病気の治療のために移植する再生医療や新薬の安全性試験への応用が期待されている。
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