空想科学祭2010(2010年9月~10月開催)
空想科学祭2010事件簿
 炎上――些細なことから事件に発展し、周囲から様々な書き込み(主に悪意のあるもの)が寄せられる現象である。
 これまで開催された空想科学祭の中で、最も炎上したのは、この2010である。
 思い出すと腹立たしくもあり、虚しくもなるが、私は渦中にいて、この事態をどうすることも出来なかった。そのほとんどが、自分のまいた種だったからだ。
 当時考えられる最善のシステムだと思っていてやったことが全て裏目に出る。当然、批難が殺到する。匿名の批難だ。
 やり場のない憤りをグッと堪えつつ、私はただ、スケジュールをこなしていく。
 どうすれば、誰もが納得できる、苦情の少ない企画を行うことが出来るのか。導いてくれる者がいたとしても、当時の私にまっとうな判断が出来ていたのかどうか。
 とにかく、いちいち反応するのは危険だ。
 少し距離を置いて、息を整えるしかなかった。
 
 さて、毎度のことだが、記憶をたどって書くので、多少事実と異なることがあるかも知れない。その場合は指摘していただければ幸い。
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★「完結作が少ない!」
 作品未提出・未完の数は、様々な対処をしたつもりだったが、減らなかった。それまでも、期間内に完結できない参加者が数人いたわけだが、この年は特に多かった印象がある。
 参加申請、入り口からくどいほど念を押していたにもかかわらず、連絡もなく、放置されてしまうのはとても虚しかった。つまり、注意書きをいくら丁寧にしたところで、読まない人は読まないということが、決定づけられたのだ。
「企画について理解したので参加します」というクリックボタンは、「18歳以上ですか」「はい」くらい無意味なものであった。
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★「チャットであの文字が発言できないだと?!」
 好きなのは仕方が無い。
 女性同士の恋愛――いや、そう見えてしまうシチュエーションが、好きで好きでたまらない。女性が複数人いたら、頭の中でもやもやとエロいことを考えてしまう。どう考えてもパンチラしていそうなのに、全く中身の見えないあのライン、考えるだけで興奮してしまう――。
 そんなことを、延々とチャットで語られてしまったら、当然のように発言禁止用語が出来てしまう。
 GL、BLの類い、禁止。
 やたらと百合話(GL=ガールズラブ≒レズ)ばかりする方が出入りしていたわけだ。これにより、不快な思いをした方もいらしたようで。
 同様に、BL(やおい≒ボーイズラブ≒ホモ)話題も禁止。
 中学生以下も見ているのだから、そういう話はやめましょうね。
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★「辛口の感想は強制移動って……」
 辛口の感想が欲しい人は、辛口専用掲示板にスレを立てる。そこには、誹謗中傷に当たらないなら何を書いても良い。
 辛口の感想はご遠慮いただきたいと思ったら、スレ立てしない。通常の感想掲示板は、辛口感想NGで。
 ……と、注意書きしたが、無理だった。
 なぜ辛口専用掲示板を設置しなければならなかったのか、まずはそこから語らねばなるまい。
 空想科学祭の感想掲示板には、様々な人が書き込みをしてくれる。なぜか、その多くは辛口である。辛口にして欲しいと頼んだことは一度も無いが、SFや小説を愛するあまり、辛口となってしまうのだろう。私もその類いである。
「企画とは楽しくなければならない、辛口の感想など見たくない!」と言う人もいる。否定はしない。そういう楽しみ方もあるだろう。
 問題は、そうした傾向の方から、
「辛口の感想を見たくないのに、見えてしまうのは不快だ」というご指摘をいただいたことから始まる。
 見たくなければ見なければいい。……というわけにはいかないらしい。
 しかし、言論の自由をどうするのか、辛口の定義とはそもそもなんなのか。
 いろいろ考えたが答えは出ず、「それならば、辛口感想自体見えないように、掲示板を分離させてしまえ!」という結論に至ったのだ。
 試験的に、辛口掲示板を設置した。辛口が嫌いな人は、そっちを見なければいいのだ。
 ところが、通常の感想掲示板にも辛口感想を書き込んでしまう感想人が出てしまった。
 前述の通り、辛口の定義はと言われたら、難しい、答えにくい。私が辛口だと思っても、他の人から見たら辛口ではないかも知れない。言いたい放題にしても、きちんと配慮がなされている書き込みもある。
 どのラインで判断するのか。私は、実行委員会のメンバーと議論を重ねた。俊衛門さんは辛口と言う、しかし、木野目さんはこれは許容範囲だと言う。それならばあの書き込みはどうだと黒木さんが言う、天崎はセーフだと言う……。こんな感じで、ああでもないこうでもないと、毎晩のように話し合った。
 基準は、おおむね四人とも似通っていた。
「不快かどうか」
 自分ならばセーフだと思う範囲が、メンバーそれぞれでどうしても違ってしまい、判定に時間がかかったものもある。
 感想人がそういうつもりで書いてなかったとしても、赤の他人から見て、不快だと思う可能性が高い書き込みは、辛口と判断した。
 辛口と判断された感想は、断り書きとともに辛口専用板へ強制移動させられる。
 本当に申し訳ないと思いつつも、少しでも苦情を減らしたい一心で、あのときはこうするしかなかったのだ。
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★「辛口感想板の書き込みポイントを点数に入れるのはおかしい!」
 辛口であっても、感想は感想だと、私は信じて疑わない。
 誹謗中傷罵詈雑言並べられたわけでもないのに。読んでくれてありがとうと素直に受け止めるか、あるいは、こういう人もいるとスルーすればいいだけなのに。
 辛口感想をないがしろに扱うなど、私にはとてもじゃないが、出来なかった。
 中間発表時、私は辛口であろうが甘口であろうが、ポイントを1として換算した。
 しかし、投票締切後の賞選考は、辛口を0.5ポイントとして換算した。辛口であるには理由がある。投票ポイントや通常の感想コメントとは区別するとともに、0.5ポイントずつ減点する意味を込めていた。
 点数を中間発表時に調整しなかったのは、単に、事務量軽減のためであり、それ以上でもそれ以下でもない。
 ところが、これが不当だと言い出す人が出てきた。
 中間発表では上位に食い込んでいたものの、この「辛口0.5ポイント換算」のために、最終結果では箸にも棒にもかからなかったという作者Hさんからの苦情だった。
 本当に、その作品は評価されていなかったのだろうか。
 辛口感想ばかりになってしまったのは、読者に作品の欠点が見えてしまい、そのように書き込みするしかなかったからでは。悪意のある書き込みなどなく、読み込んで必死に作品の内容を精査しようとする読者の気持ちが込められている書き込みばかりだったのだが。
 評価とは、プラスの意味だけではないのではないか。マイナス部分があったとしても、読者がいて、反応があった、それだけで評価されたということにはならないのか。
「好きの反対は嫌いではなく、無反応」とはよく言ったもので、本当に面白くない、読みたくない、つまらないと思ったら、感想がそもそも入らないものだ。
 Hさんは、読者に何を求めていたのか。辛口感想が多く、辛口専用掲示板に強制移動させられた書き込みが多い中、自分の作品に対して寄せられた書き込みがそうなってしまった理由を、冷静に分析することは出来なかったのだろうか。
 システムが悪いと、文句を言うのは簡単だ。
 辛口の書き込みを私が中間発表時に0.5ポイント換算しなかったのが悪いと言われれば、そうかもしれない。
 しかし、結果は結果である。
 どのような理由にしろ、注目されていた作品であることに間違いは無い。Hさん自身、注目されたことで、何かしら得られたことがあるはずだ。
 空想科学祭の読者・感想人の目が厳しいのは、このときに始まったことではなかったし、Hさん自身、他作者の作品には、辛口感想を書いている。
 自分の作品に寄せられた辛口感想に対し、Hさんは何も言うことが出来ない立場だったのではないか。
 最後の最後まで、Hさんは、システムについて問題を指摘してくれた。私も、実際にやってみて、思った以上の苦情に、正直切れそうになった。しかし、私自身がまいた種、堪えるしかない。
 ならば、どうすればいいか。
 考えた末、2011で、それを実行することになる。
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★「読者投票結果が気にくわない!」
 企画の読者投票は、相変わらず閑古鳥が鳴いていた。票数が極端に少ないというわけではないのだが、とてもまともに賞選考など出来る状態ではない。当初からそれを見越して、「感想掲示板のポイントも票数に加算する」ことを明言していたが、それにしても、虚しい結果であった。
 当然のように、面白い作品に票が集まっている。客観的に見ても明らかなのだが、より納得の出来る賞選考をと、エクセルファイルに結果を打ち込んで、ああでもないこうでもないと、考えた末に選び出した賞だった。
 前回までは一作品ごとのアンケートだったものを、長さ別に四つに分け、効率化を図った。おかげで、一作ごとの場合より、少しは票が伸びたのではないかと思う。しかし、アンケート結果を開示するなどとは、どこにも書いていなかったため、企画終了後も結果開示を避けた。本音を言えば、あまりにも無残な内容で、とても表には出せなかったのだ。
 作者側には、それぞれ結果をメッセで送ったので、ある程度納得していただけたのではないかと思う。寸評とお詫びも添えて、何とか体裁を整えているような状態で、だが。
 とはいえ、表に出していないアンケートについて、「納得できない」「主催者がデータを開示せず、不当な賞選考である」「面白い作品ではなく、企画内の有名人や企画実行委員会メンバーが受賞するなどありえない」という、根拠のない攻撃を受けることになってしまった。
 私は、何度も言うが、自分の依怙贔屓具合で賞選考を行ったことなど一度も無い。全て数値に置き換えて、エクセルでそれぞれの数値が高いものを割り出し、賞の名前を決め、コメントを打ち込み……という、気の遠くなる作業を繰り返していたのに。
 事実、企画の投票期間終了から発表までの数字は、ほとんど眠ることなく、仕事に行き、家事と育児をこなし、掲示板やアンケートとにらめっこしていた。全ての作品を読み、感想を入れ、全ての書き込み内容もあらかじめ確認しておかなければならない。ここまでして、賞など選考する必要は無いのではと、何度も思った。
 それでも、いままで賞を選び続けてきたのは、これがこの企画最大の見せ場だからだ。
 ただ、作品を投稿して、感想を入れて、なあなあで終わる。そんな企画にはうんざりしていた。面白い作品が素直に面白いと評価してもらえる環境が必要だと信じていた。だから、普段は日の目を見ない、ある意味、大規模な競作企画にとって足枷になっているはずの長編部門も、ずっと維持してきたのだ。
 読まれない辛さは嫌なほど体験してきた。
 今のように、無料で小説を公開できる場がなかった時代から、ずっと書いてきたのだ。
 自分の作品が受賞の範囲内に無かったことが悔しかったのか、私のことを不当に物事を判断する人間だと決めつけてしまうほど、私に対し、個人的な恨みを募らせていたのかはわからない。
「なんで、この作品が受賞するの」
 それは、面白かったからだ。
 全ての作品を読んでみて、本当に面白かった。それが、数字として表れていた。それだけだ。
「ならば、全部読んでみてから、結果が不当だったかどうか判断すれば良いのでは」
 言ってしまえば簡単である。
 全作読むはずのない人間に、そのようなことを言うのは不毛である。
 自分にとって納得のいかない結果になったからと言って、企画そのものを否定されては元も子もない。
 匿名での攻撃、参加者からの不満にも、ある程度堪えなければならなかった。
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★「なんで実行委員会のメンバーが受賞してるの?!」
 第一回、第二回と参加してきた私と黒木さん。実行委員会として運営することになった2010に、二人は参加しないことを決めていた。
 私は、執筆運営と読破、バナー作成やスケジュール管理等の作業が両立できなくなっていたことから、黒木さんは、バナー作成の協力、連絡事務等で動きにくくなってしまうことに加え、前回選外となってしまったことが主な理由だった。
 実行委員会メンバーとして、表向き名前を連ねていた俊衛門さん、木野目さんには、ほとんど事務的な負担をお願いしていないことから、通常通り参加していただいた。
 読者投票の結果、俊衛門さんも木野目さんも、何かしらの賞に該当したのだが……。
 またしても、苦情である。
「なんで、実行委員会のメンバーが賞もらってんの?! おかしいでしょ!!」
 失礼な話だ。面白いから選ばれたのに。
 結局の話、実行委員会メンバーであろうがなかろうが、一度でも過去に参加したことのある作者や、チャットに一度でも入ったことのある作者が賞をとれば、「馴れ合い」だと揶揄されるのである。
 誰とも絡まず、賞を取れるのか。取れる。しかし、たまたま、そういう人が少なかっただけだ。
 交流がしたい、上手くなりたい、上手くなるために、必死に書いた、だから選ばれた。――とは、解釈しないらしい。
 企画に好意で力を貸してくださった俊衛門さん、木野目理兵衛さんには申し訳なかったが、私と黒木露火さんを含めた四人での開催は、これが最初で最後になってしまったのだった。
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★「なんであの人がベストレビュアー賞、あの人が次点なの?!」
 アンケートの結果だった。
 ご意見を頂戴した結果、そのようになったのだが、納得していただけなかった。
 自分に辛口感想を入れた感想人が選ばれたことに、不満があったのでだろう。しかし、結果は結果である。
 私は、情報操作などしていないのだが、信じてはいただけなかった。
 前年までは、「最多読破賞」として、たくさん感想を書き込んでくださった方をたたえていたが、この年は作品数が少ないこともあり、読破した方も多かったためとりやめた。代わりに、参考になった感想人をアンケートで選んでいただいたのだが。
 客観的であっても、納得できないと苦情が来る。それが、空想科学祭である。
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★「空想科学祭は馴れ合いが酷いぞ!」
 やはり、読者投票結果から、このような苦情。
 馴れ合いとはそもそも何か。
 チャットでは、ダラダラと日常会話をしたり、作品についての感想や悩み事について語ったり、SFについてディープに語ってみたりと、好き勝手やっているだけなのだが。
 感想掲示板で馴れ合っているとでも言うのだろうか。
 互いを褒めちぎる、などということは、ほとんど無い。面白ければ面白いと素直に言う。気になったら、重箱の隅だろうが何だろうが、とにかく突っ込む。某作者さんが「武者修行の場」と形容した、そういう雰囲気はあっても、いわゆる「馴れ合い」など無かったように思えたのだが。
 確かに、いつもチャットに来るメンツは同じだった。どうしても、そうなってしまう。
 初めての人が入るには勇気がいるかも知れない。どこだってそうだ。ROM(閲覧)して、雰囲気や話題の様子を見ながら、入れそうなら入る。五年目となっても、私自身警戒してチャットに入るのに、初めての人がいきなり飛び込むのは難しいだろう。
 誰にでも優しく接してくれるし、いろいろ教えてくれるのが、空想科学祭参加者のいいところ。「最初は馴染めるか不安だったけど」と言いつつ、入り浸っている人がたくさんいるのだ。
 空想科学祭は、競作企画であって、コンテストではない。
 交流目的で開催しているのだから、参加者同士仲良くなって欲しいと常々思っている。
 上手いと思った作者さんとは、誰だって話したいと思うし、いろいろ聞いてみたいと思うはずだ。自分の創作論を語りたい、自分と趣味が近かったら、是非お近づきになりたい。創作者として当然の願望だ。
 これは、馴れ合いではないと私は思う。
 馴れ合いというのは、当たり障りのない言葉で褒めあいながら、自分たちの居心地のいい空間を作り上げていくこと。外部からの侵入を遮断し、自分たちだけで楽しむ。否定的な言葉を認めないこと。
 企画のシステムに対し、苦情を言ってくれるのも、企画運営側である私と、他の参加者さん達が変に馴れ合っていないからだと思っていたのだが、私の思い違いだっただろうか。
 真剣に、この企画を楽しみたい。どうやったらよくなるのか、一緒に考えていきたい。
 そう思うのを、馴れ合いだというのは、本当に哀しいことだ。
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 その他、企画チャットでの紛糾、某掲示板での炎上、Twitterでの応酬など、この年は本当にいろんなことがあった。
 そのほとんどが、感想掲示板と投票結果に集中しているので、そこを何とかすればどうにかなる。
 ……懲りもせず、今度こそはなどと考えてしまうのが、悪いところだと自分でもわかっているはずなのに。
 よりによって、企画終了前から、次回2011の企画サイト準備を始めていたのだった。
 
 
 
 
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