たとえば、「欧州は消費税率が高いのに債務危機に陥った」という話が、よく引き合いに出されます。しかし、本来なら、欧州が増税をしたケースと、増税しなかったケースとを比較しなくてはいけません。もし欧州が過去に増税をしていなかったら、今頃もっとひどい金融危機に陥っていたはずです。消費税率があれほど高かったから、かろうじて現状で踏み止まっているというのが現実でしょう。
実際、大和総研は、IMFの統計などを基にして、欧州が消費税を上げなかった年、実際に上げた年、上げた翌年の3つのケースについて、それぞれ経済成長率の加速度を集計しています。それによると、消費税を上げてもほとんど景気が悪化するトレンドは認められないという結果が出ました。
加えて、ユーロ圏は各国の財政政策がバラバラであり、その足並みの悪さが危機を深刻化させたというのが根本的な原因で、日本とはベースが違う。そうした地域を日本と比べて「欧州には消費税増税の効果がなかった」というのは、適切ではありません。
「消費が悪化」「税収は増えない」
1997年の増税に対する批判の背景
――経済への悪影響は限定的ということですが、それでは消費税増税の影響を具体的にどう分析していますか。よく引き合いに出されるのが1997年時の増税です。「消費を落ち込ませて経済を悪化させた」「増税後も、結局税収は増えていない」といった議論があります。
1997年4月に消費税を2%引き上げて以降、日本が景気後退局面に入ったという論調がよくありますが、当時のGDP成長率の内訳を見ると、消費は同年1~3月期に駆け込み需要で上向き、4~6月期にその反動で落ちています。しかし、実は7~9月期には駆け込み需要が発生する前の水準まで一度回復しているのです。
よって、この時期に景気が悪くなったのを、増税だけのせいにはできないことになります。やはり国内の金融危機とアジア通貨危機による影響が大きかったと思います。もちろん、タイミングの悪い時期に増税してしまったという政治的責任は問われるべきですが。