いじめを受けていた大津市皇子山(おうじやま)中二年の男子生徒=当時(13)=が飛び降り自殺してから十一日で一年。市の第三者委員会の調査や県警の捜査が進んでいる。こうした真相解明には、口の重い学校に内部調査結果を開示させ、同級生らに直接聞き取りもした遺族側の独自の取り組みが道を開いた。父親(47)は「いじめを調査する“大津モデル”となるよう成果を残してほしい」と願う。
父親がいじめを知った直後、学校側は「いじめは自殺の一つの要因としてはあるかもしれない」などとあいまいな説明に終始した。いじめたとされる同級生の保護者の連絡先を聞いても「個人情報なので教えられない」と拒否。市教委は「いじめと自殺の因果関係は判断できない」として、三週間で調査を打ち切った。
大津署にも三度相談したが動きは鈍かった。父親は独自に同級生へ聞き取りをして証拠を集め、二月、市といじめ側とされる同級生らに損害賠償を求める裁判を起こした。
「息子はなぜ人生を終えなければいけなかったのか。真実を知るための最後の手段だった」
突破口になったのは、自殺直後から遺族側が学校に交渉して入手した全校生徒へのアンケート結果。遺族側代理人の石川賢治弁護士は「アンケートがなければ提訴するのも難しかった」と言う。
裁判を通じて明らかになったアンケートの内容から、学校や市教委による隠蔽(いんぺい)が相次いで発覚。市は急きょ、外部有識者による第三者調査委を設け、県警も学校と市教委への強制捜査に踏み切った。
いじめ問題に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」(川崎市)が、自殺や学校内の事故で子どもを亡くした遺族五十人を対象に実施したアンケートでは、八割が学校や教委の調査に不満を示している。
同NPOの武田さち子理事(52)は「むしろ大津市は珍しく情報を開示した例。遺族が真実を知ることができず、いじめを受けて亡くなった子どもがただ死んだことにされるのは二重三重の加害行為」と指摘し、情報開示の必要性を強調する。
一方、文部科学省には「子どもが話した内容が独り歩きすると、個人情報がネットにさらされるなど二次被害を生む」(幹部)と、情報開示に慎重な意見もある。
訴えられている同級生側は裁判で「いじめではなく遊びだった」と主張している。息子の死から一年の節目を前に公表した手記で父親は「どんなに頑張っても息子は戻らない。ただ、息子がいじめ問題を解決するのを使命に生まれてきたのならば、彼に代わって使命を果たしたい」とコメントしている。
(滝田健司、山内晴信)
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