Velvet(ベルベット)。
この素材には特別な思いがある。
2、3歳の頃からピアノを習っていた。
毎年開催される発表会は地元のホール。
舞台にはピアノが一台。
白のグランドピアノに向かう。
レッスンの集大成の日。
一人での演奏では、
舞台袖で直前までは少しは緊張していたかもしれない。
だけれど、舞台に歩いていって一礼し、
スポットライトの眩しさを感じた瞬間にもう演奏のことだけになる。
集中できてとても好きな時間だった。
ピアノの音色は今でも最も好き。
子どもの頃は、雨の音もピアノの楽譜にしてしまうほどで。
そして、ベルベット。
毎年の発表会までに
親が毎回オーダーしてくれたドレスなどのお洋服は
ベルベット生地が多かった。
色は紺か黒。
子どもの頃は今よりも茶色かった髪。
そこに母がベルベットのリボンを結う。これも紺か黒。
白い衿とレースやコード刺繍の前身頃以外は装飾なしのリトルドレス。
シューズはエナメルの黒に
タイツかレースの縁取りがあるソックス。
幼少時はこれが基本で
ドレスは成長に合わせて母が毎年オーダーして考えてくれた。
小学校高学年になったある年、
スカートを履きたくないと思った私は、黒のサブリナパンツを選んだ。
襟元だけ刺繍と飾りがある黒のトップスを着て
長くなった茶色の髪はまとめあげてもらった。
母がそこに小さくベルベットのリボンを結んでくれた。
リボンをきれいな形に整えてくれた瞬間に母が手を離す。
それが合図みたいに心地よい緊張が満ちて、
会場での演奏に集中できたような気がする。
ピアノと黒と白、
黒や紺のベルベット。
私の感性、ファッションの原点もここにもある。
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