クローズアップ2012:成り済ましPC操作 実行犯特定、困難極め
毎日新聞 2012年10月11日 東京朝刊
ネット上に犯罪予告を書き込んだとして逮捕された大阪府と三重県の男性2人が釈放された事件は、ウイルスに感染したパソコン(PC)が第三者によって遠隔操作されていた可能性が高まっている。警視庁が逮捕した男性のPCもウイルスの存在が確認され、処分保留で釈放されていたことが判明するなど警察当局の捜査にも影響が広がっている。だれもが「容疑者」になりうる時代にどう対処すべきか。事件がもたらした課題を検証する。
◇捜査員に負担増
「パソコンをウイルス感染させて遠隔操作するのは、サイバー攻撃でも使用されており、技術的に目新しくはない。だが、乗っ取ったパソコンで所有者に成り済ます手口は異例だ」。警察庁幹部は危機感を募らせた。
書き込みをしたPCの所有者から「容疑者」を割り出したはずだった。しかし、大阪府と三重県の2人の男性のPCがウイルスに感染していたことが9月19日に判明。PCの所有者2人が釈放される事態となった。
さらに、大阪のケースでは、何者かが▽海外のサーバーを経由してPCを遠隔操作した▽犯罪予告の書き込み後、遠隔操作でウイルスファイルやアクセス履歴をPCから消去した−−など手の込んだ工作で犯行の痕跡を消していたことも分かった。
一連の事件を受けて警察庁は、刑事、生活安全、情報技術の各部門などを中心に対策の検討を始めた。特効薬はなく、対策としては、まず、IPアドレスなどで特定した関係者にウイルス感染の可能性を聴くことや、押収したPCを綿密に解析するなどの従来の裏付け捜査の徹底を求める。だが、今回使用されたウイルスは新種とみられており、従来の対策ソフトで検知できなかった。膨大なプログラムの中から不審点を見つけるのは不可能ではないが、「砂浜で指輪を捜すようなもの」(警察庁幹部)との声も聞こえてくる。
このため警察内部では、今後の捜査で現場の負担増は避けられず、現在の体制のままでは不十分との指摘も出ている。警察庁をはじめ、全国の管区や都道府県警には、総勢数百人の技術職員がおり、PCや携帯電話など、電磁的記録の解析作業を行っているが、さらに増える押収品すべてを解析するのは難しい。
警察庁は来年度の概算要求に、「サイバー空間の脅威への対処」費用として、約24億円を盛り込み、サイバー犯罪の取り締まりや、サイバー攻撃捜査に携わる専従警察官を全国で約270人増員することを計画している。