韓日通貨スワップを延長しないとの両国政府の発表は、独島(日本名・竹島)問題で韓日間に外交上の対立が生じる中、一見役に立たないが、捨てるのも惜しい存在だった通貨スワップに未練はないとする宣言と受け止められている。通貨スワップとは、預金口座の当座貸し越しに例えられ、緊急時に相手国に自国通貨を預けて、相手国通貨やドルを借りる協定で、非常時に使える外貨準備という位置付けだ。
韓国は世界的な金融危機直後の2008年12月に為替市場の安定を目的として、日本との通貨スワップの規模を一時的に130億ドルから300億ドルに増やし、昨年10月からは1年間の時限措置で同規模を130億ドルから700億ドルに拡大した。
しかし、日本から実際に資金を借り入れたことはない。韓国政府の関係者は「世界的な金融危機当時、米国からドルを借り入れ、急場をしのいだことはあったが、日本にまで助けを求めるほど差し迫った状況ではなかった。韓日通貨スワップは『あっても大きな効果はないが、なければ外貨調達先が減る』という存在だった」と指摘した。韓国政府は08年10月に米国と300億ドルの通貨スワップ協定を結び、10年2月に終了した。
■経済的論理より外交問題に注目
韓日通貨スワップが注目を浴びたのは、今年8月の李明博(イ・ミョンバク)大統領による独島訪問と天皇陛下に対する謝罪要求で、韓日間の外交的対立が生じたことがきっかけだ。当時の安住淳財務相は、韓国に対する経済的報復措置として、通貨スワップの中断を示唆した。
これまで韓国政府は慎重な立場だった。ギリシャ、ポルトガルを発端とする欧州財政危機がスペインにまで拡大する中、通貨スワップ協定を中断すれば、為替市場に影響を与えかねないと判断したためだ。
しかし、8月末から状況が変わった。大手格付け会社3社のムーディーズ、フィッチ、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が相次いで韓国に対する信用格付けを引き上げ、外国人の投資資金が流入し、為替市場が安定を取り戻したからだ。
複数の韓国政府関係者によると、韓国側が通貨スワップの縮小へと傾いたのは「韓国が先に延長を要請しなければ、延長は検討しない」とする日本側の立場が明らかになった10月初めだったという。韓国政府の幹部は「延長しないという方針は既に先週末に決定し、週末にかけ双方が発表に関連した文言の修正作業を行った。通貨スワップが国家間のプライドの問題となり、国民感情を考慮せざるを得なかった」と説明した。
■外国為替市場への影響は
韓国政府は韓日通貨スワップがなくても、外国為替市場で自立が可能だとの立場だ。企画財政部の殷成洙(ウン・ソンス)国際金融政策局長は「韓国の信用格付けが上昇し、外国人投資家の見方が変わって、最近為替相場の変動幅は1ドル当たり1?2ウォンにとどまる安定した状況だ」と指摘した。
韓国政府が自信感を示すのには理由がある。まず、非常時に使える「実弾」が4000億ドルを超えるほど十分にあることだ。韓国銀行が管理する外貨準備高は3220億ドルに達し、中国と結んだ通貨スワップは560億ドルが上限だ。また、韓国、中国、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)が域内の為替市場の安定に向けて創設した多国間の金融安定基金からも384億ドルを引き出すことができる。
このほか、国際金融市場は現在、資金がだぶついた状況だ。米国、欧州、日本が一斉に市中に流動性を供給する量的緩和政策を取り、韓国の株式、債券市場にはむしろ過剰ともいえる外国人の投資資金が流入し、警戒が求められるほどだ。国際金融センターの李成漢(イ・ソンハン)所長は「韓国が日中と国債投資時に事前協議を行うことにしたのは、外貨流入そのものよりも急激な流入を心配したためだ。こうした状況で為替相場や外貨調達に問題が生じる可能性はほとんどない」と分析した。しかし、北東アジア研究を行うNEAR(ニア)財団の鄭徳亀(チョン・ドック)理事長は「安全装置は多いに越したことはない。韓日の外交関係が正常化されれば、韓日通貨スワップも元の状態に戻すべきだ」と指摘した。