フィギュア、ジャパンオープンを総括。浅田、高橋ら、それぞれの今季開幕。
Number Web 10月10日(水)11時3分配信
10月6日さいたまスーパーアリーナで開催されたフィギュアスケートのジャパンオープンで、日本選手たちは好調なスタートをきった。この大会は日本、北米、欧州チームが、男女シングル各2人、合計4選手が新シーズンのフリープログラムを滑り、その合計点で競うチーム戦である。日本チームは合計569.25で2位の北米に大差をつけて優勝。中でも全日本チャンピオンの高橋大輔、浅田真央はほとんどミスのない演技を見せた。
■浅田真央は、新プログラム「白鳥の湖」で納得の演技。
浅田真央は新しいフリープログラム、タチアナ・タラソワ振付による「白鳥の湖」を初披露した。ここでは3アクセルを含まず、2アクセル+3トウループ、3ループ+2ループなどを組み入れた構成で挑んだ。
本番ではアクセルの後につけたトウループが2回転になり、ルッツと後半のフリップが回転不足と判定されるなど、ジャンプは完璧ではなかった。それでも転倒などの大きなミスはなく、全体を美しくまとめて滑り終わると納得したように、こっくりと頷いた。
クラシックバレエの名曲を使用し、黒鳥の踊りなども含んだ振付構成は、体の動きが柔らかく手足の長い浅田によくマッチしていた。これから1シーズン滑り込んでいけば、さぞ素晴らしいプログラムに仕上がることだろう。
■昨シーズン苦しんだ3アクセルは「後半入れていけたらいいな」。
「昨シーズンは思うような演技ができなかった。ここは初戦で不安はあったけれど、落ち着いてオフシーズンにやってきたことを出せたと思う。これをステップにして、レベルアップをしていきたいです」
浅田真央は、試合後の会見では笑顔でそう語った。順位こそ米国のアシュリー・ワグナーに僅差で2位だったものの、彼女の落ち着いた演技と笑顔を見て、ほっと胸をなでおろしたファンは大勢いたことだろう。昨シーズン苦しんだ3アクセルをプログラムに入れる可能性について聞かれると、「今シーズンはどうしようかと思っていたけれど、後半入れていけたらいいなと思います」と答えた。この良いイメージを抱いてシーズンスタートを切ったことは、彼女にとって大きな収穫になったはずである。
■鈴木明子は後半、ジャンプで転倒が続いて3位に。
鈴木明子はシルク・ドゥ・ソレイユのショー「O」(“オー”)のサウンドトラックを使い、振付師のパスカーレ・カメレンゴが鳥をイメージして制作したというプログラムを披露した。出だしの3ルッツ+2トウループ+2ループはきれいに成功したが、後半のジャンプで転倒が2回あり、最後のループが1回転に。無念そうな表情で演技を終えた。
「ここに来る前の練習で調子が落ちていたけれど、ギリギリ間に合うかと思っていた。でもやはり試合は甘くなかった。ここから成長していけるよう、しっかり反省をして次に進んでいきたい」と語った。それでも世界銀メダリスト、アリオナ・レオノワなどを上回り、全体で3位の成績は決して悪い順位ではなかった。
今回女子でトップだったワグナーは、オペラ「サムソンとデリラ」の音楽に合わせて6回の3回転に挑んだ。回転不足などの小さなミスはあったものの、シーズン初めとしてはよくまとまった演技だった。ジャンプの質は決して高くはないものの、「絶対に降りる」という強い意志を感じさせ、演技にいかにもアメリカの女子らしい勢いがある。日本勢にとっても、シーズン通して油断がならない相手となるだろう。
■膝の怪我が完治し、格の違いを見せつけた高橋大輔。
男子では、高橋大輔、小塚崇彦が1位、2位を独占した。高橋はシェイリーン・ボーン振付による、レオンカヴァッロのオペラ「道化師」の新プログラム。出だしの4回転をまるで3回転だったかと思わせるほど、軽々と決めた。続いて予定していた4+3のコンビネーションは回転が足らずにダウングレードとなったものの、3アクセルも2回成功させ、シーズンはじめとしては驚くほどの完成度だった。
フリーの制作は8月と、かなりスケジュール的には遅くなったにもかかわらず、そんな影響はみじんも感じさせなかった。6月に師弟関係を再開させたニコライ・モロゾフの指導の下、この試合の前にモスクワ郊外で合宿して「いい練習ができた」のだという。何よりも、膝の怪我の影響から完全に回復をし、「(全快には)3年と聞いていたけれど、昨年後半からいい練習ができるようになってきていた」と言う。
確かに冒頭の4回転トウループは、怪我をする以前のジャンプに勝るとも劣らず、ジャッジの加点もついている。「力ではなく、体重移動を使って跳ぶようになった省エネジャンプ」と本人は形容する。
豊かな表現力では以前から定評のあった高橋だが、このプログラムではコンポーネンツ5種目中4種目で9点台を獲得し、他選手との格の違いを見せつけた。音楽の解釈では9.75をつけたジャッジが一人いたが、今シーズン中に10.00を出すことも不可能ではないだろう。
■小塚崇彦は、正統派クラシックで質の高い滑りを披露。
小塚崇彦の新フリーは、マリアナ・ズエヴァ振付によるサン・サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」だった。出だしの4トウループは着氷が前のめりになったが耐えて、回転も認定された。2度目の4トウループでは転倒したが、その後3アクセルは2回きれいに決めている。久しぶりの正統派クラシック音楽で質の高い滑りをたっぷりと見せた。「いい方向に進んでいる。去年はあまりいいシーズンではなく、評価も下がり気味だった。そんな中で、今回のような演技を毎回見せていくことができればと思う」と語った。
高橋、小塚ともにフリーでは4回転を2度入れる構成で、いよいよソチ五輪に向けての調整が着実に進んでいることを実感させた。
■世界王者パトリック・チャン絶不調の理由とは?
驚いたのは、世界王者のパトリック・チャンが6人中6位に終わったことである。オペラ「ラ・ボエム」を振付けたのは、長年彼を育ててきたローリー・ニコルではなく、デイビッド・ウィルソンだった。出だしの4トウループで2回続けて派手に転び、3アクセル、3ルッツと合計4回の転倒。成功した3回転は2つだけという、普段の彼からは考えられない演技だった。怪我でもあったのかと訊くと、チャンは否定した。
「ここに来るまでのトレーニングは順調だった。でも5年もついて体に馴染んでいたローリーの振付から新しいものに変えて、不安要素があったことは間違いない。それが試合にすべて出てしまったのだと思う。自分はもともと変化への対応が得手ではない」と会見で語った。「でもこの試合でこういうことが起きたおかげで、気持ちをリセットしてスケートカナダへの準備ができる」とあくまでポジティブな言葉で締めくくったのは彼らしい。
■原因はコーチではないことを強調するチャンだが……。
チャンは先シーズンの終わり、コーチのクリスティ・クラールとも師弟関係を解消しており、現在彼を指導しているのはダンスコーチのキャシー・ジョンソンである。体の使い方の指導がうまく、彼女のアドバイスによって4回転の成功率が上がったという過去もあり、チャンは絶大な信頼をよせている。「キャシーとのトレーニングはとてもうまくいっている。コミュニケーションもうまく取れるし、こちらが不調なときも理解してくれる」と、原因はコーチではないことを強調した。
だがもともとスケート・コーチではないジョンソンに、選手の不調を乗り切らせるノウハウがあるかどうかはわからない。それでも、チャンほどの実力があれば、シーズン半ばまでには巻き返しを図ってくるだろう。新たにサルコウとフリップの4回転も練習中で、今シーズン中には試合に取り入れる予定だというから、日本勢も気を緩めることはできない。
■4位に終わったプルシェンコが語った“最終目標”。
この試合には、エフゲニー・プルシェンコも出場した。4回転を2度成功させたが、2アクセルで転倒するなど彼らしくないミスもあり、男子全体で4位だった。二度目の膝の手術の経過は良好で、痛みもほとんどないのだという。GPシリーズには出場が予定されていない彼に今シーズンの予定を聞くと「ロシア選手権に出場して、欧州選手権、世界選手権などはそれから考えて決める。でも最終目標は4度目の五輪に出ること。自分はこれまで多くの大会に出て、多くのメダルを手にしてきた。あとはソチ五輪に出るのが自分のゴール。そして永遠に競技から引退をする」と答えた。
2002年ソルトレイクシティ五輪では銀メダル、トリノ五輪では金、そしてバンクーバー五輪で再び銀を手にした帝王プルシェンコも、ソチ五輪時には31歳になる。
■日本男子勢好調で、世界選手権の代表選考は激戦必至。
さらにこの試合と同じ週末に欧州で開催された2大会で、いずれも日本男子が優勝している。フィンランドで行われたフィンランディア杯では、羽生結弦がフリーで4トウループ、4サルコウを成功させて逆転優勝。またスロバキアで開催されたオンドレイネペラ杯では、このところ表現力もぐっと伸ばしてきた町田樹がやはり4回転トウループを成功させて優勝した。
9月末にネーベルホルン杯で優勝した織田信成も含めて、日本男子トップ選手たちが世界選手権の出場3枠を巡って繰り広げる戦いは、壮絶なものとなることは間違いない。好調なシーズンスタートを切った日本勢、3月の世界選手権まで息切れすることなく、自信をもって新シーズンに挑んでほしい。
(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)
最終更新:10月10日(水)11時3分
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