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管理職がSMの女王様みたいだ、な場合2012年8月9日  このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録

女優・鈴木砂羽と片岡礼子がまぶしすぎる映画『愛の新世界』のDVD
        宮崎 晃

続・ディストピアよりアイをこめて

■職場や学校で、何かがおかしい、息苦しいと思ったら、この一本。高校生が独裁制を体験実習する模様を描いたドイツ映画『THE WAVE ウェイヴ』(2008年)。生徒たちは当初「独裁など現代には起こり得ない、時代が違う」と鼻で笑う。

■教師は模擬独裁の「指導者」に選ばれると、自分を「様」を付けて呼ぶこと、起立して発言すること、白シャツを制服とすることなど、規律を定める。全員に同じリズムで足踏みをさせると、以前の退屈な授業にはなかった初めての一体感に生徒は高揚していく。自発的に集団を「WAVE」と名付け、ロゴを作り、独自の敬礼を生み出すあたりから、仮想と現実が混同し始め、暴走し、1週間足らずで恐ろしい結末を迎える。

■一部脚色はあるが、米国で1967年、1週間で起きた実話がベースだ。「リーダー」「規律」「制服」「組織名」「ロゴ」「一体感」、それ自体は悪しきものではないし、実際の授業を行った元教師で原作者のロン・ジョーンズは過程での興奮を語っている。「自由だった授業を(独裁制の実験で)厳しくしたら、生徒が急に優秀になった。すごい指導法だと妻に報告した」。紙一重だから難しい。

■ある生徒は「私はボディーガードだ」とジョーンズに付いて歩くようになり、ジョーンズは「私も一線を越えていた。リーダー(として崇拝されること)を楽しんでいた。ゾッとした」「平和を捨ててまでも、人は自分たちの優位性を守ろうとする」と言う。人間が併せ持つ支配欲求と従属・帰属欲求は、簡単にエスカレートしてしまう。

■最近、とある会社でもこんなことが起きた。労働組合に1年間専従で出る社員の休職について(毎年問題なく行われてきたが)、管理職の男性が組合に「お願いしますと頭を下げろ。そしたら認めてやる」などと女王様みたいに侮辱的な言葉を重ねたという。いやはや、この管理職の人にも憐れみを。己の腐敗に気付けないほど、住む水が腐っているのだろう。「不寛容」「排他」の芽が自分に、他者に生えていないか、閉塞感の中でも感度を保って反応するほかない。

■「バカヤロー! 何だと思ってるんだ、この能なし社長が! リストラにしたって、うちの会社は動物園か!」。SMクラブで絶叫するサラリーマン(大杉漣)。彼はパンツ一丁、大きな円盤にはりつけでグルグル回されている。女王様(杉本彩)が「お前がバカヤローなんだろ!」とムチを浴びせ、男は恍惚の吐息を漏らす。映画『愛の新世界』(1994年、R―18指定)の短くも複雑なワンシーンだ。この作品は「日本映画初のヘアヌード」という話題性を上回る好評を得た。2人の女性(鈴木砂羽、片岡礼子)が女王様、ホテトルとして働きながら、何かに縛られず、縛りもせずに生きようとする姿が痛快だ。窒息しそうなときにどうぞ。(敬称略)
 (宮崎晃の「瀕死の私にエンタメを」=共同通信記者)

※ロン・ジョーンズの発言は『THE WAVE ウェイヴ』のDVD収録のインタビューより抜粋。
※「ディストピアよりアイをこめて」初回は瀕死コラム2012年3月分。
(共同通信)
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宮崎晃のプロフィル
 みやざき・あきら 共同通信社記者。2008年、Mr.マリックの指導によりスプーン曲げに1回で成功。人生どんなに窮地に立たされても、エンタメとユーモアが救ってくれるはず。このシリーズは、気の小ささから、しょっちゅう瀕死の男が、エンタメ接種を受けては書くコラム。
(共同通信)


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