魔法少女に忠誠を (テイクテイク)
<< 前の話 次の話 >> しおりを挟む/しおりを解除
忠義2
あれからいろいろあって、そのまま鹿目まどかと美樹さやかの二人は巴マミの家に行くことになった。
だがオレは、一旦、2人から離れ、とある魔女の気配をたどっていた。できれば夜になる前に仕留めておきたいのだ。夜になればいささか面倒な相手なのだ。
そして、そんなに時間を駆けることなく、その結界を見つけることができた。裏路地の暗がりにいた。すかさず侵入する。
そこにいたのは不定形の魔女であった。名を暗闇の魔女Suleika。ズライカと呼んでいる。その性質は妄想。 闇が深ければ深いほどその力は増す。 完全な暗闇の中においてはほぼ無敵だが 灯りの多い現代ではそれほど恐れる魔女ではない。夕刻にオレの捕捉能力で捕捉できたので、もはや雑魚だ。
金平糖のような身体に5本ほど手足が生えた姿をしており、結界内のジャングルジムに引っかかっている。
オレは、腰にあった剣を抜く。両刃の剣ロングソード。ズライカが侵入者の俺に気が付いたのか、使い魔を放ってくる。
オレは、ニヤリと笑った。この程度、雑魚だ。
向かってくる使い魔にただ無策に突っ込む。そして、薙ぐ。たったそれだけで、数多くの使い魔を切り裂く。
だが、まだ足りない。こんなものではない。もっと速く。もっと強く。
剣を振るう。それだけで、使い魔は死んでいく。魔法少女ならば、広範囲攻撃で終わりだが、今のオレにはそれはない。だからこそ、地道に潰す。
そのための剣技はある。斬る、突く、払う。それを繰り返す。
いわばこれは準備運動だ。来るべき戦いのための準備運動。
――そろそろ、決めるか。
オレは、使い魔を無視してズライカ本体へと向かう。
脚力に物を言わせてジャングルジムを駆けのぼる。魔女の目の前へと立つ。ズライカには俺がどのように見えているのだろうか。
不意にそんなことを考えてしまう。別にどうでも良いことだが、少しだけ気になった。その隙にズライカが攻撃を放ってくるが、そんなものは剣で弾く。明かりの中の暗闇の魔女など砂漠に魚を落とすようなものだ。
俺は剣をおさめ、右腕を突き出す。右腕に闇がまとわりつく。そして、それは口のような形をとる。
――じゃあ、イタダキマス。
オレは魔女を
オレは能力を得て、そして、鎧は少しだけ黒に近づいた。
********
「一人暮らしだから遠慮しないで。ろくにおもてなしの準備もないんだけど」
鹿目まどかのところに戻ると、ナイスタイミングで巴マミの家に着いたところであった。
ズライカを喰らったことで得た能力を使って姿を変え、巴マミの自宅へ侵入する。
オレは、魔女を喰らうことによって、その魔女に対応した能力を得ることができる。ただし制約があり、能力は24時間の間に一回しか使えない。24時間たてば使えるようになる。
今回のズライカを喰らって得た能力は、変身能力だ。これにより体を霧状にして侵入した。
「素敵なお部屋……」
鹿目まどかが巴マミの部屋を見て感想を漏らす。
一人暮らしというわりに、彼女の性格がよく反映されていて綺麗に整頓されている。だが、物が少ないというわけでもないのに、妙に空々しい印象を受けた。
「座って待ってて」
そういって巴マミはおもてなしの用意に行く。
鹿目まどかはおずおずといった様子で、美樹さやかはさっさと座ってしまった。とりあえず、オレは、そのあたりに正座でもしておく。巴マミに気が付かれないように不可視の姿にするのを忘れない。
しかし、こんなきれいな部屋に騎士が正座している姿……おかしくないだろうか。立っているのも見下しているみたいでどうにも好きになれないので、仕方なく正座しておく。
しばらくして巴マミが人数分――オレ除外――のケーキと紅茶を持ってきた。おもてなしできないとか言っていたがケーキと紅茶。十分すぎるのではないだろうか。
「んー、めちゃうまっすよ」
美樹さやかは美味しそうにケーキを食べる。
「マミさん。すっごく美味しいです」
鹿目まどかも同じだ。
久しくケーキなど食っていないので、懐かしい。この体は食わなくもても大丈夫なため、食っていないのだ。ほむらの家計を圧迫するわけにもいかないので、仕方ないと言えば仕方ないのだが、無性に甘味が食いたくなる時がある。
ちなみに、魔女にも味はある。さっきのズライカは金平糖みたいな味がしてなかなかだった。でも、砂糖の甘味なのだ。できればケーキみたいな甘いモノの味がほしい。
お菓子の魔女が早く食いたいです。
「さてと、それじゃあ魔法少女について話しましょうか。キュゥべえに選ばれた以上、あなたたちにとっても他人事じゃないものね」
魔法少女の話が始まる。
「ボクは、君たちの願いごとを何でも一つ叶えてあげる」
「願いごとって・・・」
鹿目まどかが興味深そうに聞き返す。
「何だってかまわない。どんな奇跡だって起こしてあげられるよ」
そんな非常に胡散臭いことをインキュベーターは言った。
明らかに詐欺師みたいな言い方だ。こんなの普通のサラリーマンとかに言われたら詐欺を真っ先に疑う。
だが、言っているのは不思議生物インキュベーター。どのように胡散臭くても信用性はあるように思えてしまう。
とどめは巴マミの存在だ。年上の先輩が、それを肯定するのだ。証拠として魔法少女の仕事を見せている。
どんなに疑り深くても信じてしまう。あからさまに怪しいのにだ。
「え! ホントに?」
現に美樹さやか、鹿目まどかは疑ってもいない。
「でも、それと引き換えに出来上がるのがソウルジェム」
「これがそのソウルジェム。キュゥべえに選ばれた女の子が、契約によって生み出す宝石よ。魔力の源であり、魔法少女であることの証でもあるの」
そう言って、巴マミはいつも持ち歩いている黄色の宝石をテーブルに乗せて、鹿目まどかと美樹さやかに見せる。
「そう、そして、魔法少女は、魔女と戦わないといけないんだよ」
「魔女?」
「魔女って何なの? 魔法少女とは違うの?」
そして、話題はソウルジェムから魔女へと移り変わる。
「願いから産まれるのが魔法少女だとすれば、魔女は呪いから産まれた存在なんだ。魔法少女が希望を振りまくように、魔女は絶望をまき散らす。ね、マミ」
「ええ、そうよ。理由のはっきりしない自殺や殺人事件は、かなりの確率で魔女の呪いが原因なのよ」
それを防ぎ、魔女を倒し、みんなを守るのが魔法少女。まさしく正義の味方だ。誰もが憧れるような。
「そんなヤバイ奴らがいるのに、どうして誰も気付かないの?」
美樹さやかが珍しくまとものなことを聞く。
「魔女は常に結界の奥に隠れ潜んで、決して人前には姿を現さないからね」
結界。
巴マミと鹿目まどかたちがであったあの場所のことだ。あれは危なかった。ふつう飲み込まれれば助からない。
もし、巴マミが来なければオレが助けていた。そうなれば、どうなっていたかはわからないが、面倒なことにはなっただろう。
いや、その場合はほむらが来るのか。
「危なくはないんですか?」
「命懸けよ。確かにキュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがある。
でもそれは、死と隣り合わせなの。だからあなたたちも慎重に選んだ方がいい」
とそこまで言って巴マミが提案する。
「しばらく私の魔女退治に付き合ってみない? 魔女との戦いがどういうものか、その目で確かめた上で魔法少女になるか、じっくり考えてみるべきだと思うの」
こうして、鹿目まどか、美樹さやかの魔法少女体験ツアーが開催されることとなった。
********
その後、帰宅する鹿目まどかを無事自宅まで尾行し、俺はほむらの自宅に戻った。
「どうだった?」
開口一番のほむらの台詞である。ねぎらいの言葉もない。期待もしていない。
ただ、騎士は主の剣であればよい。剣に態々ねぎらいの言葉をかける必要はない。必要なら使い捨てれば良いのだ。
ともかく、メモ帳を持ってきて、それに今日行われていたことと、魔女を喰らったことを告げた。
「そう」
特に何かしらあるわけではない。自然と話は、これからのことにシフトする。
「あなたは、ワルプルギスの夜に備えて、全ての魔女を、魔法少女が探知する前に喰らいなさい」
ワルプルギスの夜。
本当の名前は不明の舞台装置の魔女。もっとも強大な魔女と言える。ほむらとオレが打倒すべき魔女でもある。そして、それはほむらだけでは厳しい。オレだけでも厳しい。
ならば、巴マミと共闘すればいいと思うだろうが、第一印象からして悪いためそれは不可能だ。
また、魔法少女は共闘より競争になることが多い。それは、グリーフシードという魔女から得れるものが関係している。
魔法少女は力を使うたびにソウルジェムが穢れによって濁っていく。グリーフシードはその濁りをとるのだ。
濁れば、濁るほど力がでなくなる。表向きはそれを防ぐために集める。そのため、取り合いになるのだ。魔女が必ず落とすわけでもないのも理由になる。
オレとほむらの場合、オレが穢れをとればいい。オレは穢れをため込むほど強くなる。
そのたびに鎧が黒くなっていくから積極的に穢れはため込みたい。グリーフシードを喰らえばため込まれた穢れをいっぺんに吸収できる。ちなみにグリーフシードはスイカの種みたいな味がする。
『了解した』
「ねえ」
『なんだ』
「今度こそ、やれるわよね」
不意に、いつものほむらの様子からは想像できないほど弱い声が聞こえた。
『…………ああ』
「そう。行きなさい」
本当にできるのかどうか、確証がない。ただの希望論だ。これからどうなるかなんてわからない。
オレは、命令を果たすために夜の闇へと消える。魔法少女と違って俺は、ソウルジェム何ぞ持たない。
だが、魔女はオレにとって食事だ。その位置など、強力な魔女ほどよくわかる。
――いたな。今日遭遇した奴の親玉か。あまり味は期待できそうにないが……、早めに潰しておこう。
夜の街を俺は疾走する。はたから見れば、騎士が屋根の上を跳んでいるようにみえる。ファンタジーも良いところだ。
オレは、魔女の結界に侵入する。ここにいる魔女は、Gertrud。カナ表記するとゲルトルート。薔薇園の魔女だ。
その性質は不信であり、なによりも薔薇を大事にしている。結界に迷い込んだ人間の生命力を奪い薔薇に分け与えているが、人間に結界内を踏み荒らされることは大嫌いという我がままな魔女といえる。
当然、侵入者を撃退するために、使い魔がやってくる。魔法少女に気が付かれる前に、やる必要がある。スピードが第一だ。能力を使う。
俺が指を鳴らす。すると、どこからともなく漆黒の二輪車が出現する。これは、オレが元から持っている高速移動の能力。
オレがこの状態になる結実となった魔女、銀の魔女ギーゼラの高速移動を俺に適応したらこうなった。
それにまたがり、オレは路面なんぞ無視して結界内を疾走する。壁だろうが、天井だろうがどこだろうが、これは高速で走ることができる。
マントがたなびいて邪魔だが、これも能力行使に必要なものであるため、外すことはできない。もとより、全ての装備品ははずせない。
そして、一気に最深部に殴り込み、薔薇を盛大に踏み散らかす。粘液とバラにまみれた頭、ワンピースにも皮膜にも見える胴体、毒々しいまでに巨大な蝶の翅、下部の無数の触手という、女とは思えない醜怪な姿をしているゲルトルートはそこにいた。
怒ったゲルトルートが巨大な椅子を分投げてくる。これくらい避けるまでもない。二輪車を消して、飛んできた椅子を手に取る。凄まじい衝撃だが、耐えられないほどではない。
おかえしとばかりにそれを投げ返す。意外に俊敏で、それはかわされるが、すでに、避けた場所にオレはいる。
こんな味を期待できない魔女は早々に退場願うべきだ。出なければ被害が出る。
――イタダキマス。
ゲルトルートは紅茶と薔薇の味がした。
感想、ご意見などお待ちしてます。
<< 前の話 次の話 >> 目次 感想へのリンク しおりを挟む/しおりを解除 ページの一番上に飛ぶ