魔法少女に忠誠を (テイクテイク)
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本格始動です。
主人公の一人称視点が始まります。



忠義1

 扉を開く。
 そこに広がっていたのは、絶望の姿であった。
 巨大な歯車。
 化け物が町を破壊している。
 少女が飛ぶ。遥か高くに座す存在、敵に向かって。
 巨大なビルが少女へと激突する。
 そこに割って入る漆黒の鎧を身に纏った黒騎士。天を突かんばかりに長大な剣を持って、そのビルを斬る。
 化け物から放たれる絵の具のような攻撃。少女に向かうそれを黒騎士は、己を盾に防ぐ。
 少女のいたわるような声。唯一見えている黒騎士の口元は、大丈夫という風にニヤリと笑みを作っている。
 黒騎士と少女は、化け物へと攻撃を繰り返す。しかし、まったく化け物には聞いていないように見える。

「酷い」

 見るに耐えず呟いてしまった。

「仕方ないよ」

 足元にいた白い生き物が言う。

「彼女達には荷が重すぎたんだ。でも、彼女達も覚悟の上だろう」

 化け物が攻撃を繰り出す。少女に向かうそれを黒騎士が受ける。吹き飛ばされ、少女共々ビルを突き破る。

「そんな、こんなのってないよ。あんまりだよ!」

 少女が叫ぶ。黒騎士が咆哮をあげる。

「諦めたら、そこて終わりさ。でも、君なら、運命を変えられる。君の力なら、全てを覆せる」
「本当、なの? こんな私でも」
「ああ、だから、僕と契約して、魔法少女になってよ」

********

 暁美ほむらは、教室の前に立っていた。いつもと同じ、なんら変わらない転校生として、この場にいた。それは、オレも同じ。彼女の斜め背後に控えるように立っている。
 もう何度目になるかもわからない転校初日の光景だ。ほむらの様子を観察する。
 黙って立っていると、本当に美少女だ。長い黒髪はさらさらだし。あと数年すれば相当の美人に成長するだろう。いや、これは余計なことだ。
 そんな思考をすぐさま消す。いつもと同じ決意を持った表情だ。

「……いるわね黒騎士」

 いるという意思表示として、オレは、姿を現す。無論、ほむらにだけ見えるようにしている。中学校に騎士甲冑の男がいる状況は、どう考えても異常だからだ。
 しかし、今の状態で黒騎士はない。今の鎧の色は白に近い灰色だ。少し黒に近づいたとはいえ、前回ほど黒くない。その状態でも黒騎士と呼ぶのは、オレの名前がないからだ。騎士だけじゃ呼びにくいらしい。それに、どうせ黒騎士になるのだから関係ないとのこと。

「■■」

 やはり、言葉にはならない。

「行くわよ」
「■■」

 おう、とだけ言う。それはほむらには言葉として伝わらないが、意思としては伝わった。慣れるまでかなり時間がかかったが、結構意思疎通ができるようになっている。

「じゃあ、暁実さん、入って」

 担任の早乙女和子の無駄話が終わってようやくほむらが呼ばれる。ほむらはオレに一瞥もくれることなく入る。
 再び不可視状態となって、それに続く。

「はい、じゃあ自己紹介行ってみよう」
「暁実ほむらです。よろしくお願いします」

 終了。
 もう少し何かあっても良さげだが、何もない。これもいつものことだ。少し待っても何もないことがわかったのか、クラスメートたちは困惑しながらも拍手でほむらを迎える。
 第一印象としては、これ最悪の部類に入ると思う。だが、ほむらは意に反さない。ただ、己が守るべき少女、鹿目まどかをほむらは見つめていた。
 やれやれ。とは、言わない。ほむらの体験したことを考えれば仕方がない。従者はただ、主に従う剣であればよいのだ。
 それができなかったから、生前のオレは死んでしまったんだ。今度はそんな愚は侵さない。

********

 それから休み時間になる。
 転校生としての宿命からかほむらはクラスメートの女子に囲まれてしまっている。
 オレは見えない。能力のおかげでその存在を何者も探そうとしなければ認識すらできない。探そうとしても一般人にはどのみち認識することは不可能だ。できるのは魔法少女だけだ。
 ソウルジェムという魔法少女の証、力の源があれば、魔女と同じで感知は可能であるが、学校の中でまでそれをやっている相手はいないだろう。この学校には巴マミという魔法少女がいるが、学校の中では大々的には動かないだろう。動きがあるとすれば放課後だ。

「鹿目さん、保健室に案内してくれるかしら」

 ほむらが頭が痛いとかいって鹿目まどかを連れ出して保健室へと向かう。
 当然、オレはそれについて行く。

「あ、あの、暁実さん?」
「ほむらでいいわ」

 会話終了。
 なんて言えば良いのかわからない。苦し紛れに、変わった名前だね、とか言ってしまう鹿目まどか。しどろもどろなのがかわいいところだ。
 これも関係ないな。破棄。
 騎士としては、助けてあげたいのはやまやまなのだが、今の鹿目まどかには接触することができない。
 仮に接触できたとしてもほむらに止められている。オレのような存在に、鹿目まどかは関わらなくていいとか。
 オレも同意だ。オレたちの目的、いや、ほむらの目的を考えると、そうならないのが一番だ。
 だが、今までの経験上、鹿目まどかは関わることになる。その因果は徐々に強力になっていっている。ほむらには伝えていないが。

「鹿目まどか」

 不意にほむらが鹿目まどかに振り返る。

「え、何?」
「貴女は自分の人生を貴いと思う? 家族や友達を大切にしてる?」
「え? えっと? 私は、大切、だよ。家族も、友達のみんなも。大好きで、とっても大切な人たちだよ」

 その問答は、どうなのだろうか。
 初対面の相手に、そんなことを言われたらどうだろう。怪しい奴と思う。おかしな奴だと思う。
 だが、オレには止める権限がない。これは、暁美ほむらが決めたことなのだ。ほむらが決めたことならばオレは何の疑いもなく従おう。

「鹿目まどか。もし貴女が今の生活を大切に思っているなら、今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないことね。さもないと――」

 その先を、オレは止めはしない。

「――全て失うことになるわ」

 それを聞いた鹿目まどかは、わけがわからないといった表情をしていた。

********

 休み時間は終わり、授業中。
 ほむらは、体育の授業で県内記録を叩きだし、数学の授業では、どんな問題もスラスラと解いていった。何度もやっていることだ。できて当たり前だ。寸分たがわず同じ問題なのだ。
 それから放課後になる。オレは、インキュベーターを狩りに行ったほむらとは別行動をして、鹿目まどか、美樹さやか、志筑仁美と共にショッピングモールにあるカフェにいた。
 オレの役割は鹿目まどかの護衛。何かトラブルが起きた時の護衛だ。ただ、極力動くなとは言われている。どうせ、起きることは決まっているのだから、その中で鹿目まどかまで危険になることはないとわかっている。
 だから、動くなとのことだ。

「うわッ、何それ!? 転校生ってそんなキャラだったの?文武両道で才色兼備かと思いきや実はサイコな電波さん。くー! 萌えか? そこが萌えなのかあ!?」

 大げさなリアクションをとりながら大声を出す美樹さやか。周りに迷惑なのがわかっていないのだろうか。まあ、わかっていないのだろう。客がいないから良いのだが。

「まどかさん。暁美さんとは本当に初対面ですの?」

 志筑仁美が鹿目まどかに聞いてくる。

「常識的には、初対面、かな?」

 鹿目まどかはそう答えた。
 常識的には? それなら、常識的じゃないところで知り合っているのか。俺の記憶では、前回と違って今回(・・)、ほむらは鹿目まどかに一切接触していない。
 それを美樹さやかが聞いてくれた。

「夢、の中で会ったような……」

 美樹さやかは笑ったが俺は笑えなかった。
 夢、それはこの世であり、この世ではない。現実であって、現実ではない。ありとあらゆる可能性が複雑に絡み合う場所なのだ。あの謎生命体の言葉を借りれば因果と時間の交わる場所と言える。
 鹿目まどかが視た夢の内容は俺にはわからないが、そこでほむらに会ったというのなら、間違いなく会った。しかし、それは別世界のこと、別の時間軸でのことと言った風なことだろうが。

「それと、黒い鎧の騎士もいたんだよね」
「何それ。じゃあ、転校生は、騎士と一緒に化け物と戦う正義の味方ってわけ? ないない。あんな鉄面皮がそんなことするわけないって」
「そうですね。それに夢の話ですし。他人の空似というのもありますよ」
「そう、かな?」

 そんな会話を繰り広げているうちに、志筑仁美が習い事で帰宅した。ここでの会はお開きとなり、鹿目まどかが帰ろうとしたのだが、美樹さやかの要望によりCDショップに行く運びとなった。
 CDショップへと入る。そこで二人はお互いに好きな音楽を聴いているようであった。そのすぐのことであった。
 鹿目まどかが挙動不振にあちこちを見回し始めた。

「え? 誰なの? どこにいるの? あなた……誰?」

 そして、そんなことを言い始めた。
 それに気が付いた時には、もう遅い。
 鹿目まどかは、急にどこかへ歩き出した。だが、足並みはしっかりしているので結構速い。
 すかさず追う。オレの脚力ならば、平均的中学女子に追いつくことなど簡単すぎる。彼女についていくと、彼女は関係者以外立ち入り禁止区域へと入っていく。
 無論、オレは関係者ではないにしてもほむらに言われた通り、鹿目まどかを守護するためにも、ついてく。
 不味い、このままではほむらとまどかが接触してしまう。それ自体は構わないのだが、今はおそらくが仕事中なのだ。それに出くわすと、色々と不味い。
 遠隔でほむらに連絡する手段は、今の俺にはない。だから、どうするか。そう考えていたのが仇となった。
 エアダクトからボロボロの白い生き物が落ちてくる。

「あなたなの?!」
「助けて……」

 鹿目まどかが白い生き物を抱え上げる。

「そいつから離れて」

 やはり、魔法少女の衣装に身を包み、その手に拳銃を持ったほむらがやってきた。

「ほむら……ちゃん? だ、駄目だよ。この子怪我してる」

 チッ、これは非常に不味い。だが、オレが姿を現せば話は更にややこしくなる。これ以上事態を複雑にするわけにはいかない。
 だが、このまま放っておくこともできないだろう。

「あなたには関係ない」

 オレがどうするか決めかねていると、突然、背後から消火器の粉が噴射される。美樹さやかが助けに来たようであった。
 最悪の状態だが、仕方ない。とりあえず、鹿目まどかについていく。
 その瞬間、オレの張っていた不可視移動用の魔女結界が、砕け散り、別の結界の中に入った。異常な空間がそこには広がっていた。
 そして、ドイツ語で「きれいな花を見つけたよ」「摘んでしまおうか」「根こそぎ摘んでしまおう」「このバラを女王様に捧げよう」的なことを歌っている綿のような表面の球体にカイゼル髭の生えた異様な存在が現れる。
 出やがったか。さて、ならば、行くとしよう。
 だが、そんなオレの意思を差し置いて、二人の上から鎖が降ってきて、結界を作る。それは魔法少女の結界。
 現れたのは、いつか見た、あの金髪の魔法少女であった。

「危なかったわね。でも、もう大丈夫」

 巴マミ。
 この見滝原の町の魔法少女だ。
 嘗て、オレが転生した時、まだ記憶を思い出していなかった時に、出会った魔法少女。
 あの時から一年ほどの時が経っているが、あの時とは比べものにならない力を感じる。いつも通り、ベテラン魔法少女としての力をだ。やはり、この力は、必要だ。重要な戦力として、使える。

「あら、キュゥべえを助けてくれたのね。ありがとう」

 キュゥべえそれは、あの白い生き物のことだ。インキュベーターという存在らしい。願いを餌に契約を迫る営業マンだ。
 


「私、呼ばれたんです。頭の中に直接この子の声が」

 挙動不審はインキュベーターに呼ばれたから。

「ふぅん・・なるほどね。その制服、あなたたちも見滝原の生徒みたいね。2年生?」
「あ、あなたは?」
「そうそう、自己紹介しないとね。でも、その前に」

 巴マミが手に持っていた黄色いソウルジェムをかざす。

「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」

 そして、魔法少女へと変身する。
 巴マミが、腕を振るう。それだけで、彼女の軍勢は姿を現す。
 ただ一人の女王のために、生きぬマスケット銃の臣下は、そこに参上する。
 大勢のマスケット銃が巴マミの周りに現れる。
 放たれる弾丸は、その威力を以て、使い魔たちを駆逐する。
 それと同時に結界が消える。

「魔女は逃げたわ。仕留めたいなら、すぐに追いかけなさい。今回はあなたに譲ってあげる」

 巴マミは暗がりにそういう。そこにいるのはほむら。

「私が用があるのは……」

 ほむらは食い下がる。

「飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの。お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいとは思わない?」
「…………」

 ほむらは一瞬俺に目配せすると、そこから消えるように去って行った。
 それから巴マミはインキュベーターの治療を行う。それから、自己紹介タイムへと突入した。

「私は巴マミ。あなたたちと同じ、見滝原中の3年生。そして――」

 巴マミは、そこで一旦言葉を区切り、

「――キュゥべえと契約した、魔法少女よ」

 そう、二人に宣言した。



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