不惑を超えて、いまは代打として勝負を懸ける日々だ。
常に孤高を貫いてきた表情には幾分柔らかさを感じる。
シーズン終盤のスタジアムで、彼の戦いぶりを目撃した。
無駄なスイングは、ひと振りさえ許せない。そう言っているかのような登場シーンだ。
代打を告げられた前田智徳は、ベンチから打席に入るまでの十数メートル間で、いわゆる素振りは一度もしない。
もちろん、準備を怠っているわけではない。ある担当記者は、こう感嘆する。
「あの人は、ベンチ裏でめちゃめちゃ振ってるから。いつも汗びっしょりですよ」
代打の切り札。それがプロ入り23年目、41歳になった今の前田に与えられた仕事だ。
代打稼業は今季で3年目。昨年も打率.250と、代打としてはまずまずの働きを見せたが、今季は、7月までは打率4割と神懸かり的な数字を維持していた。
エリートでありながら、代打屋として腹を決めた前田。
代打に必要なものは、自分の居場所はここ以外にはないのだと決める覚悟だ。だが通常、専任の代打屋は、非エリートが収まる位置である。それゆえ一流の打者であればあるほど、腹を決めることに抵抗を覚えるものだ。過去、2000本安打以上マークした打者が、晩年に代打の切り札として成功した例がほとんどないのはそのせいでもある。
しかし前田は、その分類に従えば、エリート中のエリートである。
そんな前田が、レギュラーとして十分な実績を積み上げ、今また、代打としての地位も確立しつつあるのはなぜか。
試合前の前田は、暇さえあればストレッチに精を出している。元エースの佐々岡真司は「あれは、もう癖ですよ」と話す。佐々岡は、4つ年上だが、前田とは同期入団で今でも仲がいい。「一緒にゴルフに行っても、ずっとやってる。あれだけ大きな怪我をしたから、やっぱり怖いんでしょうね」
前田が野球人生を左右する大怪我を負ったのは、1995年のことだ。右アキレス腱断裂。以降は、常に故障がつきまとった。それによって、以前までの力強さとしなやかさを兼ね備えた芸術的な打撃は影を潜め、本人も「前田智徳はもう死にました」という、ある意味、名言を残した。
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