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■特命調査班 〜マル調〜「内部告発から4年 警察動く」 2012/10/03 放送

 今回の「マル調」は、以前お伝えした、消防団の水増し出動疑惑の続報です。

 火災現場では、消防隊員とともに一般市民で作る「消防団」が、消火活動にあたっています。

 ところが、大阪府内のある消防団では、出動した後に書く報告書に人数などを偽って記入し、市から不正に手当てをだまし取っていた疑惑が浮上したのです。

 内部告発をきっかけに、「マル調」が取材を始めて4年。

 警察も動き始めたようです。




 その疑惑は、元消防団員の内部告発がきっかけで浮上した。

 

 北田由博さん。

 大阪府松原市の消防団に18年間所属していたが、消防団内部のある噂を耳にして、5年前に脱退したという。

 <元消防団員 北田由博さん>
 「私が在籍している当時から、水増しをしているらしい、という噂は団員の中ではずっとあったんです」

 「出動水増し疑惑」

 北田さんら元消防団員によると、松原市の消防団では、火災現場や訓練などに出動すると、1人当たり1.800円(当時)の手当てが、市から支給されていた。

 だが、出動報告書を偽ることで、2005年から3年間に亘って多額の手当をだまし取っていたというのだ。

 <元消防団員 北田由博さん>
 「水増しといっても、火災のときに1人とか2人とかという程度の水増しかなと思っていた。書類を取り寄せたら、あまりにもひどい。(多く見積もって)3年間で180万円ぐらいはあると思う」

 不正は本当に行われているのか。

 4年前、「マル調」は取材を始めた。

 まず、消防団の出動人数が記録された2種類の内部資料を精査してみた。

 消防車が出動した際に記録する「運転日誌」と、出動手当てを申請するために、市に提出する「出動報告書」。

 例えば、平日の昼間に起きた火災。(2005年10月4日火災出動)

 運転日誌では、1号車に運転手と同乗者の6人の計7人が乗車。

 2号車には5人。

 合わせて12人が出動したことになる。

 だが、この日の出動報告書を見てみると…。

 なんと26人。

 団員全員が出動したことになる。

 多くの団員が平日昼間、仕事を抱える中、可能なのだろうか?

 他にも首をかしげたくなるような報告書が見受けられた。


 「2008年10月10日」

 この日、「マル調」は、水増し疑惑を調べるため、張り込みを行った。

 午後7時過ぎ、仕事を終えた消防団員が次々と集まってくる。

 <マル調>
 「広報というステッカーを車に貼りました。きょうは広報活動をするようです」

 消防車には、4人が乗り込み出発。

 
    
 その後、取材班は消防車を追跡。

 およそ1時間、市内を巡回し戻ってきた。

 <マル調>
 「広報活動を終えて帰ってきました。中には4人乗車しています」

 この日の運転日誌をみると、計4人と正しく書かれている。

 だが、出動報告書には…。

 「5人」。

 

 なぜ、このような違いが出ているのだろうか。

 今回、内部告発した北田さんは、「出動報告書」を作成していた団員とのやりとりを記録していた。

 <元消防団員 北田由博さん・レコーダー>
 「A分団長の時代に『3人か4人は足しとけ』って指示されて、足してた」
 <団員・レコーダー>
 「うん、そうや。B分団長の時もつけてたけどな」
 <元消防団員 北田由博さん・レコーダー>
 「C分団長の時もつけてたんやろ」
 <団員・レコーダー>
 「うん、A分団長に言われたから、3人ぐらい余分につけてたのは、これはもう間違いないわ」
 <元消防団員 北田由博さん・レコーダー>
 「(出動報告書に)26人全員来たと書いてあるわけや」
 <団員・レコーダー>
 「100パーセントないわな」
 <元消防団員 北田由博さん・レコーダー>
 「100パーセントないやろ」

 

 過去に水増し請求が行われていたことを認めた団員。

 その指示は、団のトップである分団長から受けていたというのだ。

 「マル調」は、当時の元分団長に直接話を聞くことにした。

 <マル調>
 「すみません。毎日放送なんですが。消防団のことで取材してまして」
 <元分団長>
 「あー、消防団ね」
 <マル調>
 「運転日誌の人数と、出動報告書の人数が全然合ってないないんですけど」
 <元分団長>
 「へー」
 <マル調>
 「それについて、どう思われます?」
 <元分団長>
 「それは、ちょっとわからん」
 <マル調>
 「でも、元分団長さんがハンコ押されてますよね。わからんと言うのはなかなか理解できないんですが」
 「出動を水増ししているという疑惑がありますが、それについてどう思いますか?」
 <元分団長>
 「そんなん、私は一切してません」
 <マル調>
 「してないというなら、説明をちゃんとしてほしいんです」
 「ここには放水訓練をしたことになっているんですが・・・」
 「ここにはあなたが・・」
 <元分団長>
 「しつこい!やめ、ええ加減に!」

 元分団長は結局、取材に応えようとはしなかった。

 内部告発から2年。

 北田さんは、大阪府警に詐欺容疑での告発に踏み切った。

 消防団の出動手当を巡る不正疑惑。

 同じような問題は、他の自治体でも起きていた。


 内部告発によって浮上した大阪・松原市の消防団による「出動水増し疑惑」。

 だが、消防団の手当てを巡る問題は、各地で起きていた。

 愛知県南部の西尾市。

 今年になって消防団が、公費を不正に使用していたことが分かった。

 市から支出されていた活動交付金など、年間で1,000万円以上が遊興費に使われていたというのだ。

 <西尾市 鈴木規子市議>
 「出動の記録もない。いつ誰がどれだけ集まったのかの報告書もない。実績報告書もない。出てきたのは、キャバレー、その他宴会コンパニオン、それらの領収証が山ほど出てきた」

 

 次々と明らかになった不正を裏付ける領収証。

 事態を重くみた西尾市では、監査委員が調査を始め、消防団側も不正を認めたという。

 だが、松原市でも浮上した、あの出動の水増し疑惑については・・・。

 <西尾市 鈴木規子市議>
 「消防本部は、各分団のそれぞれの判断に任せてあるので、本部としては適正に行われていたと思う、と。具体的には馴れ合いだと思いますけどね」

 西尾市の消防本部では、証拠がつかめないとして調査は進まず、未だ全容解明には至っていないという。


 不正と断定しにくい水増し。

 だが、松原市の北田さんが内部告発して4年。

 警察は先月、元分団長ら2人がウソの出動報告書を作成し、市からおよそ11万円をだまし取ったとして、詐欺容疑で書類送検した。

 調べに対して元分団長ら2人は、容疑を否認。

 出動報告書を作成していた団員は「やってないとは言えない」などと、曖昧な話をしているという。

 「マル調」は今回の書類送検を受けて、松原市がこれまでどのような調査を進めてきたのか話をきくことにした。

 

 <松原市消防本部 松岡茂次長>
 「(17年〜19年分)300件ほど調べたんですよ。確かに出ていない方がおるにも関わらず、記載されていたという事案がありました」

 調査で、不自然な報告書があったと認めた松原市。

 だが、その理由については…

 <松原市消防本部 松岡茂次長>
 「うちの方としては、事務上のミスがあったと考えてます」

 市の調査では不正な水増しではなく、単なる「記入ミス」だと結論づけていた。

 記入ミスだとされたのは、この3件の出動報告書。

 中には、団員全員で下呂温泉へ旅行していたにも関わらず、分団長以下19人が放水訓練をしていたという、報告書も含まれていた。

 <マル調>
 「消防本部が消防団を調査しても、なかなか本音が出にくい構造なんじゃないかと思うが?」
 <松原市消防本部 松岡茂次長>
 「犠牲的精神もあって、団の組織は成り立っている。長い間、消防本部と消防団で両輪でやってきているので、その分団長が正式にこういう活動をしたという報告が上がっているものについて、これは明らかにひどいというのはないと認識しています…」

 さらに、市は捜査権がないとして、不正を告発していた北田さんら元消防団員には、聞き取り調査を行っていないとしている。

 <マル調>
 「捜査権がないといっしゃいましたけど、本当に調査しようと思ったら、過去やめてる人からも聞かないと、市として全容解明なんてできないのでは?」
 <松原市消防本部 亀井浩総務課長>
 「元団員でも、今は一般の方ですので、その辺を考慮しまして、現役の団員さんで当時からおられる方を中心に、聞き取りなどの調査を致しました」

 十分とは言い難い、松原市消防本部の調査。

 背景には、消防団との密接な関係が影響していると、北田さんは指摘する。

 <元消防団員 北田由博さん>
 「松原市の消防本部は、消防団に対してものすごくお世話になってるという気持ちがありますので・・・ 夜中であろうが、真冬であろうが、雪が降っていても夜中に飛び起きて行かないといけない。だからあまり細かいことは追求できないな、という気持ちではないかと思うんですけど」

 地域防災の要となる消防団。

 その活動を支える公金の使い方に問題はなかったのか。

 全容解明に向けた、大阪地検の捜査が始まった。




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