加速装置の恐怖



「002の加速装置に異常がみられる」

 ギルモア博士の言葉に、009は血相を変えた。
 かつて彼は、メンテナンス後の加速装置の誤作動により一か月以上もの間を孤独に過ごしたことがある。
 それと同じことが002にも起きたのかと思ったのだ。
 だが、現れた002はいつもと変わらず元気そうだ。
「大丈夫なのかい?」
 おずおずと問いかけると、002はけろりとしてうなずく。
「当たりめーじゃん。気分は上々、何の支障もないぜ」
 その言葉に、博士がゆっくりとうなずいて見せる。
「支障があるのは加速装置のシステムだけじゃ。他は何の異常もない」
 少しほっとして009は問うた。
「じゃあ博士、002は一体どんな状態なんですか?」
「それはじゃな」
 博士が説明しようとした時、008から通信が入った。
『囲まれたっ、救援を頼む! 009、すぐ来れるかっ? 敵は加速装置を持っている!』
 彼らは戦闘中だった。
 002が手傷を負ったため、攻撃がゆるんだところを見計らって009がドルフィン号に連れて戻り、その治療が済んだところだった。眠りの時間の001を除く他の仲間たちは、まだ外で敵と対峙していたのである。
 加速装置を搭載する敵に対抗出来るのは、同じく加速装置を持つ009しかいない。
「行きます」
 表情を引き締めて出ようとした009を、002が引き止めた。
「俺も行くぜ」
「駄目だ002」
 009がはねつけた。
「問題があるのは加速装置だけだ。要は加速しなきゃいいんだろ」
 002が視線を向けると、博士はしぶしぶとうなずく。
「まあ、そうじゃが」
「心配しなくとも加速装置は使わねえよ。俺の能力は飛ぶ方がメインなんだしさ」
 あっけらかんと002は言って、なおもしぶる009を促した。
「さっさと行こうぜ。ぐずぐずしてると、みんながやられちまう」



 002は009を抱えて飛び立ち、仲間たちのもとへと急行した。
 敵は008の連絡した通り、数人の加速装置を持つサイボーグたちだった。
 009は善戦したが、いかんせん多勢に無勢。次第に追いつめられ、傷ついてゆく。
 負傷と疲労のためついに加速出来なくなった009は、通常空間に現れ地面に叩き付けられた。
「009っ!」
 002は叫んだ。
 敵は彼には手を出さなかった。加速しない者など、まったく相手にしていないのだというように。
 002は何も出来ない自分がもどかしかった。
 旧式とはいえ、加速装置は彼にも搭載されている。それが、こんな時に限って使えないとは。
 使えない……?
 思い付いて口中のスイッチを舌で探ってみると、いつもと変わらず動くようだ。
 絶対に使うなと言った博士の言葉が脳裏をよぎったが、忘れることにした。
 この場を切り抜け、仲間たちを救う一助にでもなればそれでいい。
 俺はどうなったってかまうものか。
「002っ、駄目だっ!」
 彼の様子に気付いた009が叫んだが、002は構わず加速装置のスイッチを入れた。

 凄まじい衝撃波が一帯を襲った。
 大地がえぐられ、大気を巻き込んで暴風を引き起こす。
 その衝撃は敵サイボーグも00ナンバーたちをも、ありとあらゆるものを区別なく巻き込み吹き飛ばした。




「だから、加速装置は使ってはいかんと言ったんじゃっ!」
 博士に怒鳴られ、002はうなだれる。
 こんなことになるなんて、思わなかった。
 彼が加速したことによって発生した衝撃波は、周囲にあった全てを粉砕した。
 敵サイボーグたちは破壊されて痕片もない。
 彼が守ろうとした仲間たちもそれぞれ重傷を負った。
 それも、あまりの衝撃波の凄まじさにあと数日は眠っているはずだった001が目覚め、間一髪みんなとドルフィン号を移動させたからこの程度で済んだのだ。そうでなければ、仲間たちも敵サイボーグと同じ運命をたどっていただろう。
 しかし、わからない。
「なんだってこんなことに。いつもは加速したってこんなことには」
「君たちの加速装置には、周囲に影響を及ぼさぬよう衝撃をやわらげるためのシステムがついておるのじゃ。
 いいかね、音速で動く物体はソニック・ブーム、衝撃波を巻き起こす。それをそのままにしておけば周囲を敵味方の区別なく破壊してしまい危険極まりない。それでは使用状況が限定されすぎ、加速装置なぞ使い物にならん。破壊してもいいものしか周囲にない状況なぞ、めったにないのじゃからな。
 それで、超次元的原理により、その衝撃波を吸収するようシステムが組まれておるんじゃ。今の君はそのシステムが作動しなくなっておる。それどころか、衝撃が本来の数倍にもなって周囲に影響するようじゃ。いかにマッハの衝撃波といっても、等身大の君ではこれ程の……周囲一帯を吹き飛ばしてしまう程のエネルギーは発生しないはずじゃからな」
 002は愕然とした。
 何もかもが初耳だった。
「超次元的なって、いったいそりゃ何なんだよっ」
 思わず口を突いて出た問いに、ギルモア博士はうろたえる。
「現在の科学は万能ではない。すべてが解明出来ているわけではないんじゃ」
「つまり、わかってねえってことか? んな、いい加減な」
 呆れ返る002の頭の中に、テレパシーが響いた。
〈知らなくてもいいことも、世の中にはあるってことさ〉
 ふわふわと浮かぶ揺りかごの中から、赤ん坊が見下ろす。
〈超能力だって、ちゃんと科学的に解明されているわけじゃないけど、僕にはこうして使うことが出来る。まあいいじゃないか、ともかく使えるんだから〉
 いいのか、それで?
 激しく不安になった002であった。



 ギルモア博士により、002の加速装置はすぐに修復された。
 が、しばらくの間002は、敵のみならず仲間たちからさえも、「人間凶器」「最終兵器男」と称され、恐れられたという。




 ある意味禁断のネタ(笑)。
 突っ込んではいけないことに、ついに手を出してしまいました。
 筆者は科学音痴なため、大嘘こきまくっているつー感がありますが、気にしないように。

 それにしても加速装置ってのは本当に謎です。地上をマッハで動けば周囲は衝撃波でエラいことになるはずなのに、009も002も平気で行動してるしな。
 そういや、ミュータント戦士編には009が加速して走る周囲でガラスが割れる描写とかありましたっけ。
03.10.19






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