神渡り 冬の七夕さま
毎年、1月3日の夕刻、 陽が沈み、篠島が夕闇に包まれたしばらく後、 島全体は停電になり、 暗闇の中「お渡りさま」の神事が始まります。 「お渡りさま」とは、島に2つある神社のうちのひとつ、 八王子社の御神体をもうひとつの神明神社にお迎えする 神渡りの儀式のことです。 八王子社の神様は、神明神社にお渡りになる途中の姿が見られることを嫌われ、 島全体の電気は、強制的に遮断されます(!!)。 その間、ほんの十数分間ですが、 島の人々は、家の中でろうそくや懐中電灯の灯りが外にもれないように 雨戸やカーテンを閉め、静かに「お渡りさま」が終わるのを待ちます。 時間帯でいうと、ちょうど晩ご飯を食べているころ。 『ちびまる子ちゃん』や『サザエさん』あたりを、 「いつ電気がきえるかな?」と少しどきどきしながら見ていると、 アニメに気をとられて、油断したころに 「ぱちり」と真っ暗に。 あらかじめ用意してあった懐中電灯もどこにあるかわからなくなって、 毎年、みんなで慌ててしまいます。 「お渡りさま」の間は、家の照明だけでなく、島の街灯も全て消され、 外を走る車もバイクもなく、 この時間には、篠島に到着する船さえなくなります。 きっと、対岸から見ると、 「島ひとつ突然消えた!」ように見えるのではないでしょうか。 年に一度この夜だけ、二つの神社の神様がお逢いになる、 真冬の七夕さまのような「お渡りさま」の儀式が終わると、 神明神社から、重々しい太鼓の音が島中に響きはじめます。 このときだけは、テレビにすら邪魔されず、 家族みんなで静かに話をしたり、子どもと影絵で遊んだり、 食後のごろ寝を決めこんだりしていた島の人々は、 その太鼓を合図に参拝に出かけます。 家から急いで外に出ると、まだ島全体は停電中。 真っ暗闇の中、上を見上げると、 そこには、様々な明かりに遮られる事のない、 まさに満天の星空が広がっています。 初めて見たとき、 この島の夜空はこんなにきれいだったのかと、 とても純粋に驚いたことを今でも覚えています。 この日に篠島にご宿泊されるお客さまは、 どなたも独特の神事に驚かれますが、 日常をはなれた暗闇の中、神代の時代に想いをはせ、 皆さま、とても楽しんでおいでのご様子。 この島の神様のように いつまでもいつまでも、 お二人で、またご家族さまで、 この島の夜のことを思い出していただけたらと思います。 翌4日には、神明神社からお帰りになる御神体をお迎えするお祭りが行なわれ、 ひれ伏す島の男の人たちの前を、御神体は八王子社へとお戻りになります。 |